短編 | ナノ
人生そう簡単に事が運べば誰も苦労はしないのだろう塵も積もれば山となるなんてよく言ったもので結局最後には1%の才能と99%の努力で決まると私は思っているだけれどそれは理想論であって自分がそんな簡単に努力を続けることができるならばよもやこんなことになってはいないと思うのだ。

「……何でも良いけど、課題はちゃんと出せよ。あとナマエそれ単にお前が努力したくねえだけだろ。」
「…はーい。ごもっとも。」

課題、というのは私が赤点を取ってしまった英語の課題で今は英語担当教師であるDTO先生こと修ちゃんと放課後補修中なのである。そして私の持論を面倒そうな表情で聞いていた先生はふう、と一つ溜息をついた。そこで私は「あ、」と口を開けた。

「そういえば修ちゃん?溜息をつくと幸せが逃げるって言いますけどあれって何を根拠に言ってるんですかね確かに溜息をつくのは気落ちしている時が多いですけどそれだけで幸せが逃げるだなんて大体幸せって、」

そこまで捲し立てた所で先生が「あ゛あぁぁ!」と声を上げた。じっとりと私を見るその目に流石に怒られるかと知らないフリをしてまたペンを動かす。

「その呼び方止めろって言ってるだろそれから口じゃなく手を動かすころ。」
「うーん何かつい、そう呼んじゃうんだよね。」

呆れたとでも言いたげな修ちゃんの視線を受けながら文字を書いて、書いて、書いては消して。英語が苦手な私からしたらとんでもなく苦痛な時間だけれど嫌じゃないのはこの人と一緒だから、なのだろう。

「……お前、あんまり小難しい事ばっか考えて疲れないのか?」
「うーん…楽しいですよ?性分なんです。それに私、ひねくれてるだけですから。」

周りの大人と話していてもひねたガキとしか思われないことを最近ようやく知った私は大人の前では周りと同じ年齢相応のコドモという皮を被るようになった。けれど不思議と、先生の前ではそれをしようと思わないのだ。

「…こんな紙切れ一枚でついた優劣がこの先に影響するなんて、人間て面倒な生物ですよね。」
「人間のお前が言うな。」

修ちゃんの的確なツッコミが可笑しくてつい笑ってしまう。そんな私を見た修ちゃんが優しく笑うのを見て心臓が少し激しく音を立てた。嗚呼、滑稽だ。人とは何て面倒で奇っ怪なんだ。でも、結局それも愛しいと思えるようになったのはこの人に会ってから。

「でも…そうだなぁ。確かに面倒だよな。……好きな奴がいても、───教師と生徒ってだけで駄目なんだから。」

私の机と、その前の生徒の机をくっつけて向い合わせにしたその席に座っていた修ちゃんの、男性を強く思わせる格好いい笑顔とか頭に触れる大きな手のひらとか。

「ん、これでそんな反応が出来るならお前はひねくれてなんてねえころ。」

言葉の意味を理解して、そして全てを実感した時にはもうなにも考えられなくなっていて呼吸が止まりそうになった。彼の本心が見えなくて緩みそうになる涙腺を必死に止める。耳まで真っ赤にして泣きそうになっている私を、先生は心の中で笑っているのだろうか。けれどそれでもいいと思えるくらい私は彼に惹かれている。

「………先生。」
「…ん?」
「私、漸く解りました。」

この人が好きで、言葉も仕草も声も苦手だった筈の煙草の匂いも全て愛しくて、だけどたまに切なくなったり泣きたくなったりそういう感情も本当は全部大切で。

「私がDTO先生と一緒にいて感じていたのが、幸せって感情だったこと。」


幸福感情理論
(全て貴方がいて初めて成り立つの)





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