短編 | ナノ
学級という輪の中で目立たないようにするというのは簡単そうに見えて、なかなかどうして難しいものである。人と関わる事も注目される事も苦手な私は今まで極力、人付き合いを避けて過ごしてきた。

けれど友人くらい人並みには居る。成長過程において、孤立していても悪目立ちするということを学んだのだ。結局は無難な人付き合いをして過ごすのが一番なのだと。

それなのに!この烏野高校に入学し、平和だった1年生から2年生になった途端。向いていそうだからなんて勝手な理由で学級委員を押し付けられてしまった。

そうして今、長い前置きを経て私は担任の先生に授業で集めたノートとプリント一式を職員室まで、と託されていた。しかしこれは重そうだ。最悪2回に分けないといけないかもしれない。他にもいるはずの学級委員は談笑に夢中で気が付いていないし少し苦手な集まりに下手に声もかけたくない。周りも最早、他人事だ。でもきっと私が外野でもそうしていただろう。

試しに一気に持ったが階段のことを考えてやはり分けることにした。早く行って早く戻ろうと、外からガラリと空いた教室のドアからすり抜けようとした、のに。

バサバサっ!と派手な音を立てて私の手からノートが落ちる。サァッと冷たくなりそうな脳を動かして状況を纏めた。外から入ってくるだろうと思っていた人はドアの前に立っていて、私はそれに気付かずにすれ違おうと横を抜けようとして抜けきれず、目の前の人物にぶつかったしまったらしい。

「……オイ、大丈夫か?」
「…あ、はい。こちらこそ…」

と顔を上げたら今度こそ血の気が引いた。目の前に立つ男子生徒は、私が苦手とするタイプと思われる人で鋭い眼光を見てしまえば情けないことに私は二の句が告げなくなった。ああ、心配してもらったのに。人を見た目で判断してはいけないとはいえ、不注意の罪悪感と目立っているという緊張と何を言われるかという不安で頭は完全に混乱していた。

「俺はいいから、ノート。ほら、」
「…ごっごめんなさい…!」

今、どうするべきかなんて逡巡している間に彼はご丁寧にもノートを拾ってくれたらしく私の目の前には無骨な男子らしい手と皆のノート。慌てて受け取って頭を小さく下げる。この人には悪いがとにかく、行ってしまおう。

「おーうみょうじ、…おっ龍!」

しかし駆け出そうとした足は見事に声に止められ、振り向いた私が放った「西谷くん、」に被さるように聞こえた「おっす、ノヤっさん!」という声に思わず隣を向いたら相手もこちらを見ていて。男子とバッチリ目が合うなんて!慌てて逸らした赤い顔は、見られずに済んだろうか。

「どうしたよ龍。みょうじと知り合いなのか?」
「いや、俺はノヤっさんに用が……そしたらこの女子にぶつかっちまって。そういうノヤこそ。」
「まじかよ大丈夫かみょうじ?!…いや俺は同じクラスだからな。」
「なるほど。」

会話に入れずにいると何とも心配そうな顔の西谷くん。そもそもぶつかったのは私が悪いのに、二人ともこんなに心配してくれるなんて。二人に改めてごめんなさいを言えば「気にすんな」と返された。

西谷くんも初めは普段あまり関わることのないタイプで。だけれど一年後半に席が隣になってからというもの少しだけど話すようになった。真っ直ぐないい人だと思う。

「よし、それ貸せよ。何処?」
「…職員室。……って、えっ。」

反射で答えた時にはもう坊主頭の彼から受け取ったノートは手には無く、しっかり西谷くんに奪われていた。返して、という前に歩き出している彼に慌てて残りの、教壇に置いていたプリントを持って追いかける。

「オイ!」
「っ、」

するといきなり肩を掴まれて、何か怒られるのかと身構えるも来ない衝撃に目を開け…そこでハッとした時にはもうプリントはあの男子の手中にあった。早業に関心…している場合ではなくて私がぶつかったのに持たせるなんてとんでもないと言えば、これくらい、と彼は西谷くんに駆け寄る。私もそれに恐々と着いていく。

頼まれていたものを関係のない2人に持たせて、あげく自分は手ぶらだなんて。申し訳なくて俯いていると「…俺、田中龍之介」と、先程まで、少し前から聞こえていた声が隣から聞こえた。見上げるとやはり隣に、彼…「田中、くん?」

確認するように問えば田中くんは、こくりと頷いた。その目が私を捉えていて慌てて返した私の名前は、声はキチンと彼に聞こえただろうか。

「取り敢えず、友達からよろしくな。」
「、」
「友達から…ってその先に何が……あっ龍まさかお前っみょうじのことが…!」

え、の形に口が固まった私を不思議そうに見る田中くんにすかさず西谷くんのツッコミが飛ぶ。その瞬間まるで茹でダコのように赤くなる田中くん。

「バッ…!違っ…!間違えたンだよ!とと取り敢えずよろしくなナマエっ、」

慌てて否定する田中くんが確かに紡いだ自分の名前に、静かに確実に胸が高鳴る。友達からというのは、あながち間違いじゃないかもしれない。取り敢えず、恋なんて……と思っていた自分に大きく手を振ろう!


さよなら臆病、いらっしゃいませ恋心!
(はてさて、先に落ちたのは彼か彼女か。)





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