「……卒業、おめでとう!」
周りを見渡せば皆ぼろぼろと涙を流していて、それは私も例外じゃなくて、もうこのクラスで過ごすこともないのだと思うと涙が止まらない。
………誰もいない教室で、一人佇んでいると後ろに人の気配。何だか見なくても解ってしまって、私は振り向かずに彼の名前を呼んだ。
「すごいな、何でわかったんだ?」
「ハジメちゃんの気配、覚えちゃったみたい。」
「なんだそれ。」
笑いながら私の横に来たハジメちゃんは笑いながら私の頭を撫でてきて、堪えようとする涙がまたこぼれそうになってしまう。
「卒業、おめでとう。」
「………ありがとう。」
ああ、最後なんだ。
「ねえ?」
「どうした?」
伝えたく、なってしまった。
「教えてあげる、私の夢。」
「…お嫁さんはやめたのか?」
「ううん。お嫁さん。………ハジメ先生、の。」
襟首を掴んで引き寄せたハジメちゃんの髪からふんわりとシャンプーの香りが漂ってくる。重ねた唇からは、案の定メロンパンの味がした。
それから、春休みが終わり。午前中に就職先の入社式を終えた私は、何となく学園に足を伸ばしていた。懐かしい。結局あのあと私は逃げ帰ってしまい、それ以来ハジメちゃんには会っていない。
「先生方、元気かな。」
変わらない外観を眺め、家に戻ろうと踵を返した時だった。懐かしい声に息が、止まる。
「……あっ待て逃げんな!」
怖くて振り返るなんて出来なくて走り出すけれど私はスーツのスカート、相手は国語、体育教師。敵うわけなくて、あっさり手首を掴まれた。
「…ばかやろ。」
「……ハジメちゃんに言われたく、ない。」
絶対振り向いてなんかやるものかと思っていたのにあっさりと体を掴まれて後ろを向かされてしまう。半月見ていないだけだったはずなのに、何だか酷く格好よく見えて悔しかった。
「………あれ以来、」
包まれて感じた熱に、鼓動が早まる。ああ此処、往来なのにとか冷静に考える半面、期待で頭が一杯になる。
「…お前のこと、頭から離れないんだけど。」
「メロンパンよりも?」
「おう。」
「…ありゃ、そりゃ重症だ。」
だから、と目を合わせてくる彼から目を逸らせない。まるで、あの日の放課後みたいに。
「責任とれよ。」
「……………先に好きだったのは私、なんだから…ハジメちゃんが、責任取って、よ…。」
卒業式に我慢した涙が今、堰を切ったように溢れだしてハジメちゃんのTシャツを濡らしていく。鼻水が出ても離してくれないからもう知らないと、ぎゅっと抱きついて号泣してやった。
「ハジメちゃん大好きー…!」
「…俺も。」
あの時の桜が、祝福してくれるかのように舞っていた。
ハジメちゃんお誕生おめでとう!
13.04.12
×