短編 | ナノ
寒い。冬というものは何でこんなに寒いんだ。体だけでなく心まで寒く感じてしまうのは、残りの時間が少ないからなのか。でも例え春になったって私の心は寒いままだろう。

「おはよナカジ。今日も寒いねえ。」
「…ああ。」

隣の席に座るナカジに挨拶していると珍しくジャージを腰に巻かずに着ているハジメちゃんが入ってきた。両腕を擦っていることからして寒いのだということがよく伝わってくる。

「あー今日も寒いな!皆、風邪引くなよー。」
「ハジメセンセは大丈夫そうだよなー。」

と笑っているのはリュータ。それを聞いたハジメちゃんは何故か得意そうに笑った。

「まあ俺は健康優良児だからな!」
「…いやいやそうじゃなくて。」
「? ……あっリュータお前、俺が馬鹿だと言いたいのか!?」

顔を赤くして憤慨するハジメちゃんに、ドッと笑いが起こる。くそー、と恨めしげにリュータを見つめるハジメちゃん。いつもと同じ光景。何も変わらない。

「ま、どのみちメロンパンばかり食べてて健康優良児、っていうのもねー。」
「聞こえてるぞナマエーー!」

私の小さな呟きにも、ちゃんと反応してくれるハジメちゃん。理由はどうあれ彼が私を見てくれているのが嬉しくて、泣きそうになる。あと何回こうしてハジメちゃんと馬鹿やれるのかな。

「……ごほん。さて、卒業まで三ヶ月きったわけだけどお前ら冬休みちゃんと勉強なりしとけよー。」

…やっぱりハジメちゃんは馬鹿だ。一番考えたくないことを、一番聞きたくない人の口から聞いてしまった。ああ、なんで私は彼を好きになってしまったんだろう。


「冬休みなんて来なくて良いよね。むしろ卒業なんてしなくて良い。」
「あー?なんで。」

ここは職員室で、英語教諭のエリア。今は昼休みで私は出されていた英語の課題を持ってきたのだが暇なので世間話をしていた。

「だってハジメちゃんに会えない。」
「…あー、なんていうかドンマイうへ。」
「真面目に聞いてよー。」
「聞いてる聞いてる。で何お前ハジメのこと好きなのか。」

ん、合格。と突っ返された英語のノートを受けとれば赤ペンのキャップを閉めた修ちゃんはクルリと椅子ごとこちらに向き直った。

「ほ、他の人には言わないでね!修ちゃんだから言ってるんだから。」
「修ちゃんヤメロ。…シュークリーム一つで考えてやらんこともない。」

そう言って意地の悪い顔で笑う修ち……先生を見ているとたまにこの人は本当に教師なのか疑問に思えてくる。

「生徒に集る気ですか!ハジメちゃんは生徒にメロンパン奢らせるなんて〜って言ってたのに。」
「お前らの間でどんなやり取りがあったんだ。」

こうして他愛の無い話をしていると、あと二ヶ月ちょっとで卒業するだなんて、とても思えない。この学園での三年間は長いような短いような、でも凄く濃くて充実したものだった。

「………まあ会いたきゃ来ればいいころ。だからンな顔すんな。」
「……………ありがと、修センセ。」
「お、やっと呼んだな。」

ンな顔ってどんな顔、とは聞かない。先生も言わないし、わかってる。

「何で先輩はちゃんと呼ぶんだよー!」
「……内緒っ!」

いきなり後ろから現れたハジメちゃんに驚きつつ自分でも清々しいくらいの笑顔を浮かべて立ち上がる。

わかってる。会えない訳じゃないってことくらい。







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