彼は、あまり自分のことを話さない。知り合って間もない頃、仕事は何をしているのか聞いたことがあった。彼は、何でも屋。とだけ答えて、詳しいことは何も教えてくれなかった。

付き合いが深まるにつれ、何かを隠していることには気づいたけれど、今更それを知ろうとはしないし思わない。彼自らが話してくれるのを、待ちたい。

そんな隙の無いKKさんだけど、私だけが知っていて、他の人は知り得ないだろう顔も結構あったりすることに最近ようやく気が付いた。
例えば。意外と甘えたなところ、とか。

「あ、あのうKKさん…?」
「ああ」
「離していただきたいのですが」

逃れたいともがけば、面白くなさそうな顔をしたKKさんにさらにきつく抱き締められた。最近の彼は私の家を拠点にしているようで、来るときはいつも、ただいまーと間延びした声で入ってくる。

だから私もごく普通におかえりなさい、と返すのだけど実はそれが凄く凄く嬉しくて堪らないのだ。今日は珍しく一日暇だと言うKKさんとごろごろしていた。

暑いからとシャワーを浴びて上がると、さっきまで床で寝そべっていたKKさんがソファーで音楽を聴いていた。

しかし私の姿を見つけるや否やヘッドホンを外し、腕を引いてその広い胸の中へと抱き止めてきた。薄いシャツとショーパンというあられもない格好の事とか抱き締められている事で恥ずかしさも極まって折角流した汗がまた噴き出そうになる。

「は、恥ずかしい!恥ずかしいです…!」
「…久しぶりに休みなんだ、いいだろこれくらい」
「うぐ……でもっ…」

未だ納得のいかない私に据えかねたのか耳元に寄せられた唇に、それだけで肌が粟立った。

「いつもはもっと恥ずかしいことしてるだろ…?」
「……!」

こういう時、この人は卑怯だといつも思う。そんなことをされて囁かれては私にいつも勝ち目なんて無いのをわかっているはずなのに。

「…っう、わ」
「…」

恨めしげに見上げると、一瞬目が合った。かと思えばいきなり世界が反転して、気が付けば視界には天井と、そのあと視界いっばいにKKさんの顔。

「えっあの、えっ」
「風呂上がりだもんな、いい匂いする」
「あ、ボディソープ変えたんで…じゃなくて!」

困惑する私をよそに、無造作に私の髪の毛に顔を埋めたりしちゃった彼がすんすんと鼻を鳴らす。その行為に更に上気した頬はもう簡単には冷めないだろう。

「本当に恥ずかしい…」
「……ちょっと黙ってろ」

あ、と思った。少しだけ、いつもとは違う不敵な顔。何か良からぬ事を考えているような妙に“オトナ”を感じる表情。

「………あ、」

彼の笑みが下へと消えていく。不意に足の爪先に柔らかさを感じてちいさな声が漏れた。行為に至るとき、下から上へと唇を這わせるのがKKさんの合図であり癖。

きっと数少ない、私か知らない彼の素顔。そして私はといえば一度こうされてしまえばもう、逆らうことも止めることも出来ずにただただ委ねてしまうのだ。



爪先(崇拝)




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