「…おまえ、また怪我したのか」

開口一番、頂いたのは紛れもなく小言の前兆だった。ペンギンに見つかるといつもこうなるから、見つからないように自室に入ろうとしたのに。

どうしてこうも、最悪のタイミングで鉢合わせてしまうのか。どこからか監視でもされているのではないかと疑心暗鬼に陥りそうにさえなる。

「たいした傷じゃないから」

そう言ってやり過ごそうとしても、目敏い彼は私の手を引きながら部屋に入っていく。薬箱を持ってきたペンギンが、ベッドに腰掛ける私の隣に同様に腰を下ろした。

誰だって、戦っていれば嫌でも怪我はする。それに今回は本当に掠り傷だ。でもペンギンはいつも怪我の度合いに関係なく、こうして甲斐甲斐しく手当てをしてくれる。

「他のクルーだって、怪我してる。ペンギンだって」
「…お前は、放っておくと手当てしないだろ」
「だってすぐ治るよこんなの」
「おれは、…出来ればお前に怪我をしてほしくないし、傷痕なんて残したくない。それでなくともお前は女で」
「……」

心配してくれるのは嬉しい。でも、女だからって対等に見てもらえないのは嫌だ。そりゃあ男性よりは力もないけど、その分私には速く走れる足と攻撃を避ける身軽さがある。力で敵わない部分をカバー出来るように日々特訓している成果だ。

勿論、それとは別に女性として見てもらえること自体は嬉しい。結局のところいくら鬱陶しく思えても私はそんなペンギンのことを好きなのだ。でも彼を見ていると男女のそれというより。

「……ペンギンって、母親みたい」
「母親?」
「いつも世話ばっかり焼いてくれるし」

私の腕に包帯を巻くペンギンの指がぴくりと震えた気がした。…私にとってこの言葉は少しだけ、嫌みのつもりだった。

「おれはおまえを子供だなんて思ってない」
「……っ」

気が付けば目線の先には怒ったようなペンギンとその後ろの天井。シーツに縫い付けられた両腕をほどこうと身動いでも力の差は歴然としていた。

「わかるか?やっぱりお前は女で、」
「もう止めてよ…!子供扱いも女扱いも……私は、そんなに弱くない。これからもっと強く、…っ」

思わず感情的に声を荒げると、腕を押さえる力が強まり、忘れかけていた痛みに眉をしかめる。きっとペンギンは気付いているのにその拘束を弛めてはくれない。

「違う。おれが言いたいのはそういうことじゃない。確かにお前は腕力はないが強い。皆わかってる」
「ペンギン……」

いつもと違う様子に毒気が抜ける。俯いた彼の表情はトレードマークの帽子に遮られて窺えなかった。

「ただおれは、…………ずっと一人の女として、お前を見てた」
「…っ」

緩く持ち上げられた腕、包帯越しに触れた柔らかな温もりに一気に頬に熱が集まる。ここまでされて意味がわからないほど、私は馬鹿ではない。

「……ごめん、なさい」
「謝らなくていい。おれもいきなり悪かった。…腕、痛いだろ」

まさか、そういうことだったなんて。相思相愛を喜ぶよりも怒りをぶつけてしまったことが申し訳なくて謝ると、逆に落ち込んだ声で返された。

「ああは言ったが…あまり、気にしないでくれ。返事がほしかったわけじゃ、ないから」
「ペンギン、傷、痛い」

そうだった。私はまだ自分の気持ちを伝えていない。言い逃げしようとしているペンギンの言葉に被せるように言えば、慌てたように腕を撫でられた。

「…それじゃなくて、さっきの…して」
「!なっ、」

ここまで驚いた顔のペンギンは初めて見たと思う。信じられないというように口を開けて、見るからに動揺していた。

「………なまえ」
「い、言っとくけど!仕返しにからかってるとかじゃ…ないから…」
「好きだ」
「…私、も………好き」

再度腕に触れた熱は、その後もしばらく消えることはなかった。



腕(恋慕)




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