カニバリズム奇譚 | ナノ
果たして世の中の恋人達は、手を繋いでキスして裸になって触れあって、永遠を誓い合い、満足しているのだろうか。


人は裏切る。
どんなに深い絆があっても、どんなに一緒にいても、どんなに愛していたって、自分に対して利益が無いと判断した瞬間、いとも簡単に切り捨てる。

感情という厄介なものを持つ高等な生物だからこそ、"絶対に揺らがないもの"などというものは存在しないし、永遠など何処にもないのだ。



これは私が、今まで経験したことから導き出した結論であり、人という生物は一番虚しい生命であるという考えの理由である。



虚しい。そう、虚しいのだ。


感情というものさえなければ、自然の摂理に従い、生きていくことが出来た。
余計なことは考えず、プログラミングされているように。誰も道を外れず、相手を見つけ、子孫を作り、静かに死んで逝くことが出来た。



それなのに。



私は、ただ、絶対に変わらないものが欲しかった。

友達や親友などという肩書きは、一番信用ならなかった。
父親、母親。そして兄弟姉妹。これは人によりけりかもしれないが、やはり、私という人間を一番理解していながら一生懸命愛そうとする姿は理解し難いものであった。
学校の先生等の、赤の他人でありながら、それなりに関わりをもつ大人というのは、自分自身の利益を第1に考えるが、そのくせ私を守ろうと、生ぬるい優しさという刃を突き刺してくる。



私の求めるものは、一体誰が持っているのだろうか。





しつこく付きまとう男がいた。

幾度となく食事やデートに誘われ、幾度となく断った。どうせこの人も、簡単に切り捨てることが出来るやつなんだろうと思っていた。


誘いに乗らないと分かると、今度は私に、金魚のフンよろしくどこまでも付いてきた。
無視などをするとだんだん行為がエスカレートしていくため、私はだんだん、仕方なく折れるようになった。



食事をしても、デートをしても裸になって触れあっても何をしても、私の餓えは収まらなかった。


考えているのはいつも、私の求めるものは誰が持っているのかということだった。



私の求める、永遠に変わらず絶対に揺らがないものは、どうすれば手に入るのだろうか。






今日は何月何日の何曜日で、どんな天気で、何が起きた1日だったのか。私には知る術はない。



「ねぇ。」
「なに?」



振り返る男は歯を見せて笑う。
私から話しかける事が少ないからだろうか。



「どのくらい私がすきなの」



何にせよ、きっとこれが最期だ。



「どのくらい君のことが好きか?分からない?こんなにも愛情表現をしているのに」



素敵な答えが返ってきても来なくても、私は、今までずっと欲していたものを手に入れる。手に入れるだろう。



「君の為に、君を邪魔をする奴、悪く言う奴を排除した。
君が好きな物ばかり集めた部屋を用意して!
君が僕以外誰も見ないように…他の奴が君を色目で見ないように…世間から君を守るためだよ!
ねぇ、ここまでしてるのに、こんなに君に尽くして…」








「なら、私の為に、―――――、?」


















誤って動脈を切ってしまったようだ。水風船が割れて水が辺りに散らばるように、液体がそこかしこに飛び散った。


きっと床は、赤黒い液体でびちょびちょになっているのだろう。所々で、液体が月明かりを反射している。



男は先程まで声にならない悲鳴をあげていた気がする。そのうち細かく痙攣して、口からごぽごぽと血を吐き出して静かになってしまった。




顔に付き、どんどんと乾いてこびりつく血が煩わしい。



男の指を噛みきってみる。鉄の味と、硬めのゴムのような、不思議な感覚が歯に伝わった。





?question:男に対し、大した情を持たなかった彼女が、異常なまでに彼女に執着をした男を食したことで、一体彼女はなにを得たのだろうか、


カニリズム奇譚





企画提出:路地裏さま
素敵な企画、ありがとうございました。/捩恩

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12.04.05
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