(柔しえ+金造)
金造様がドアホ
フリーダム




「呼んだ?」


「え‥?」



その日、しえみは柔造の誘いで志摩家へ遊びに来ていた。
だがほんの数分前、柔造の父親の八百造が彼を急用で呼び出し、柔造は『ちょお待っとってな』と申し訳なさそうにしえみの頭を撫でると、急いで部屋を出ていってしまった。それからしえみは自分の使い魔である緑男の幼生とじゃれて遊んでいたのだが、急に緑男が襖の方に向かって飛んで行ったので慌てて追った。そしてしえみが『ニーちゃん!』と言った次の瞬間、襖がガラリと開いて、金髪のお兄さんが入ってきたのである。そして冒頭に戻る。


「呼んだやんな?」

「え‥?」

「今、兄ちゃんて聞こえてんけど」

「えっと‥、あの‥」

そのニーちゃんじゃありません…

しえみは言いたい気持ちを必死に抑えた。


「なぁ、自分‥」

「はっ、はい」

「金色好きなん?」

「え‥?」

意味がわからず聞き返すと、金造はしえみの頭を指さし、『金色やん』と言った。
しえみは『あぁ』と納得して

「大好きです」

と笑った。その後に『おばあちゃんとお母さんとお揃いだから』と続けたが、どうやら金造の耳には入はなかったらしい。何故か目を見開き硬直している。

「あの‥?」

不安になったしえみはオドオドとしながら立ち上がり、ゆっくり金造に歩み寄った。
その瞬間、

「オトンー!!」

金造が叫んだ。
バンドのボーカリストである彼の声量はそれはそれは見事なもので、しえみは思わず耳を塞ぎ、目をギュッとつぶった。

「オトーン!!オカーン!!」

金造は更に母親まで呼んだ。
しばらくするとドタドタと廊下を走ってくる音が聞こえてきた。


「どないした!金造!!」

ガラリと開いた襖の向こうには、彼の父親の八百造、兄の柔造、他‥明陀宗の皆さんがずらりと並んでいた。

しえみは驚き過ぎて声も出ず、硬直している。柔造の姿が見えたのが唯一、心の救いだった。


「俺、明日結婚するわ!!!」

「「はぁ!?」」

「やから、結婚すんねん!志摩っちゅー苗字とも今日でおさらばや!」

「お前、色々おかしいぞ…」

柔造は引いたように言った。

「と、とりあえず落ち着け、頭を冷やせ金造。一体何の騒ぎや」

柔造を窘めつつ、八百造は冷静に聞いた。金造は不満そうに『俺はいつも落ち着いとるわ』と言ってからしえみに向き直り、『あそこ』と彼女を指さした。


「天使がおんねん」

「「…は?」」

「いや、もしかしたら妖精の類いかもしれん…せや!伝説のフラワーフェアリー島に棲んでるフェアリーに違いないわ!!」

「「…フラワー?‥フェアリー??」」

「せやで。間違いない。どっちにしろ、あれは人間とちゃうわ…」

『つまり、未確認生命体や…』

ゴクリ。金造は生唾をのみながら言った。それを見て、明陀宗の皆は意味がわからず首を傾げている。八百造は困ったように『金造、』と呼んだ。

「その子はな、杜山しえみちゃんいうて、お前の兄の恋人やぞ…」

人間やないわけないやろが‥。
ため息を吐いた八百造を、金造は怪訝そうに見た。

「は?オトン何言うてんねん。柔兄は俺と結婚すんねんで?四才のときに決めたんや。ほんであれは妖精の類のなんかやって。妖精図鑑に載ってたもん。間違いない」

「いや、ちゃうて‥しかもお前何人と結婚する気や」

「え。あと廉造も交ぜて3人やけど…」

それが何か?という目で見ている金造に、その場の全員が引いた。それは金造が、『あ、自分も数えるなら4人や』と付け足しても何ら変わらなかった。

「まぁえぇわ!論より証拠や。後で図鑑見せて説明したる。とりあえず俺、明日結婚するし」

「なんでそうなんねん‥」

「金造、お前ホンマにどないしたんや…悩み事でもあるんか?オトンが聞いたるぞ‥」

「悩み事?いつまで経っても金色の髪が生えてこんことやけど…」

「金造…お前、」

「ま、まぁ落ち着け。とりあえずお前の結婚の話は意味不明や。というかお前は意味不明や」

「ええやん〜結婚は自由やろー。やって俺な、昔から妖精か天使と結婚すんのが夢やってん」

明陀宗の中から『なんつー夢みとんねん』とか『誰かはよぅ気付かせたれ』とか『憐れな…』という声が上がったが、金造の耳には届いていなかった。さらに金造は続ける。

「しかもな、あの妖精は金色が好きなんやで!これはもう明日結婚やろ!」

柔造は引いた顔で『なんやコイツ意味わからん‥』と呟いたが、やはり金造の耳には届かなかった。

「そういう訳で、俺は明日妖精と結婚するから」

「‥金造。オトンはもうどこからツッコンでえぇんかわからん‥」

「は?好きなとこツッコンだらええやん。壁とか、池とかに、頭からズガンと。」

(つっこみの意味が違う…)

「お前…お父さんのこと嫌いなんか…」

「は?好きか嫌いか言うたら、色で表すと灰色やけど。」

「色で表す意味がわからん…」

「なぁ、ところでオカンは?おらへんの?」

「いや、いはるけどな…『金造が大声で呼ぶときは、ろくな用事ちゃう』言うて来はらんかったんや…」

柔造の『さすがオカン…』という声の後に、皆が『さすが‥』と口を揃えた。


その日の晩、八百造は明陀宗の人間を集め、大規模な会議を行った。
テーマは『金造というアホな子の未来について』だったそうな。



(「なんや、みんな話通じひんけど、どないしたん!?‥はっ!もしかして、未確認生命体の宇宙からの侵略が始まっとんのか‥!?俺がフェアリーに変身して戦わな!!!」)


金造‥_(:3」 ∠)_

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