爪の先まで愛おしい
(親ガラ)



背伸びをしながら手を伸ばして、指先でそっとすく。さらさらと流れるように逃げる淡い色の髪が綺麗で、ガラシャは思わずホゥと小さな溜め息をこぼした。すると自分のよりも一回り大きな手が頭に被さって来て、次いでポンポンと優しく叩かれる。それが何だか子供扱いをされているようで、ガラシャはぷっくりと頬を膨らませた。


「チカ、やめよ」

えいえいと両手で元親の手を退けようと試みるが、上手くいかない。

「そうやって、わらわの頭を撫でるでない」

むくれるガラシャを見下ろしていた元親は、コテンと首を傾けた。

「何故だ?」

「わらわは、もう子供ではないからじゃ!」

「お前は子供だろう」

「違うのじゃ」

「どう違うのかわからんな。お前は光秀の子供だろう?そしてお前以外も皆、親の子供だ」

フッと笑った元親を、ガラシャは唖然としながら見詰める。
ハッとして慌てて持ち直すと再び頬を膨らませた。

「そういうことを言っているのではないのじゃ」

「ならばどういうことだ」

目だけで問うてくる元親を見上げ、

「わらわはもう、お嫁に行ける歳なのじゃ!」

ガラシャは誇らしげに言い放った。

「それで?」

「う?え‥えっと…、あと子も産めるのじゃ!」

「そうか。で、それだけか?」

「へっ?…そ、それだけではないぞ!他にはえーと、うーんと‥」

うんうん唸りながら考え込むガラシャの頭を、元親の手が優しく叩く。そのせいでまた膨らんでしまった頬を、今度は面白そうに指先でつついた。

「御家のために早くに嫁ぐことも、子を成すことも珍しくはない。それが大人になった証だということにはならないだろう」

そう言いながら、元親はゆっくりと瞼を伏せた。長く美しい銀色の睫毛が影を落してゆく。ガラシャはポカンと口を開けながら、キラキラ光る元親の睫毛の先まで見ていた。そして、ぐっと口をつぐんで自身も眼を伏せる。

「チカは、いじわるなのじゃ」

「そうか」

「いつになったらわらわは大人になれる?」

「…」

「教えよ…いつになったらわらわは、チカの隣に並べるのじゃ」

口を歪めて悲しげに見ている少女の頭を、元親はまた優しく叩いた。そして正面から隣に移動すると腰をおろした。

「これでどうだ?」

「そういうことではないのじゃ…」

「珠子は難しいな」

「元親が易しすぎるのじゃ」

唇を尖らせるガラシャから顔を逸らし、元親は『そうか』と言ってクツクツと喉を鳴らした。

「ならば、相性が良いな」

「ほむ…ん?」

「お前が嫁ぐことや子を成すことを大人になると思っているなら、俺がお前を大人にならせることは簡単だ」

「…チカ?」

唖然としているガラシャの首もとに、元親が唇を寄せた。そのまま舌先で首筋をなぞると、小さな体は大きく跳ね上がる。
ぷるぷると小刻みに震えだしたガラシャからゆっくりと身体を離し、元親はガラシャを見詰めた。強く眼を閉じて涙を滲ませている彼女の様子に瞠目してから、元親は再びクツクツと笑い出す。

「珠、眼を開けろ」

「む…?」

おずおずと瞼を上げたガラシャの目尻を元親の指先がなぞる。そこについた涙の雫を、そのまま流れるように口に運んだ。彼の一連の動作をぼんやりと眺めていたガラシャは、瞬時に顔を真っ赤に染めた。

「ち、チカ…!」

「まだまだ子供だな」

「う…」

しゅん、と落ち込んでしまったガラシャの頭に、元親は再び手を乗せる。

「…子供でいい。」

「チカ?」

「余計な虫もつかんしな」

「虫?」

「そうだ。虫だ」

言って、元親はふぅと息をついた。キョトンとしているガラシャを慈しむように撫でる。

「俺がこうしてお前を撫でるのは、お前が子供だからではない。」

「ならば何故じゃ?」

「愛おしいと思うからだ」

「え…」

それはつまりどういう意味だと聞こうとしたが、元親に『意味がわからない内は子供だ』と言われて、ガラシャはむくれながら口をつぐんだ。

「珠子。お前が望みさえすれば、俺とお前はいつでも隣に並べる」

「チカ…?」

「早く、意味がわかるようになると良いな」

「?‥ほむ!」

にっこり笑ったガラシャの頬を、元親はまた、楽しそうに指先でつついた。







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ひより様よりリクエスト頂いた『親ガラか三ガラ』から、親ガラ。
大変お待たせして申し訳ありませんm(´∇`;)m
どちらにしようか悩みましたが、4万打で既に三ガラを執筆済みだったので今回は親ガラをチョイスさせて頂きました(*´▽`*)
ガラシャは皆に愛されていて欲しいですなぁhshs←落ち着けぇ

ひより様へ捧げさせて頂きます!素敵なリクエストに心より感謝致しますm(__)m

4万hitありがとうございました!







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