そうだと思えばどんな石だって宝石に変わる (サスサク+ナルトとサイとヤマト)※サスケが里に帰還した少し後の話 |
雑誌に載ってる星座占いも、テレビでやってた血液型占いも、街角でやってた手相占いも、どれも万人に当たるような言い回しで、当たっているように見せ掛けてあるだけで実際は思い込みに過ぎない。そんな当たり障りのない言葉の羅列には飽き飽きして、最近では気休めにもならなくなった。できる努力は全部しているつもりだけど、努力だけで恋が実るなら悲しんだり悩んだりする人はぐっと減るだろう。努力のみでは解決出来ないと理解した上で諦めず努力するのが、かなしいかな、恋する女の性というやつかもしれない。 「ねぇ、ナルト。どんな女の子が男の子に好かれると思う?」 甘味処で山盛りのお団子を奢ってそう聞けば、向かいの席に座ったナルトはうまいうまいと頬張りながら驚いた顔をして口をモゴモゴさせた。全くもって、器用な人間だ。 「え?なんて?ナルト、もう一回」 「ほふ、ひゅ、ほ」 「‥は?え?」 ナルトの口に入った団子がモチャモチャと音を発てる。彼が何を言っているかわからず、『もう一回言って!』と繰り返しながら顔を突き出した。その体制のままふと視線を下に移せば、手元にある湯呑みのお茶に神妙な顔付きの私が映っていて、あまりにも乙女とかけ離れていたので慌てて肩の力を抜いた。 ふぅ、と息をついて呼吸を整える。ヒートダウンしたとこで、ゴクリと嚥下された団子がナルトの喉を通過したのが見えた。それを見届けてから、今度は力を抜いたまま、ゆっくりと口を開くことにした。 「ナルト、なんて言ったの」 ナルトはまだ熱いお茶をちびちびと飲んで、私を見た。 「だから、ボン、キュッ、ボンだってばよ」 当たり前だという顔でさらりと告げられた言葉に、私は体を硬直させた。 「ボン、キュッ、ボン‥」 「そ。ナイスバディがいいってばよ」 「ナ、ナイスバディ‥」 呪文のように呟いて、視線を自分の体に移す。 「やっぱりそうなの?」 「ん?」 「大きくて形のよい胸、そして細く引き締まった括れ、張りがあり肉付きと形の良いお尻」 「そりゃあ、当然。あ、でもさ‥」 「うん、よくわかった。貴重な意見をありがとう」 「え!?サクラちゃ‥」 私は立ち上がると伝票を掴み、会計を済ませた。ナルトが何か言っていたみたいだが、団子がまだたくさん残っていたのでそのまま店に置いて、フラフラした足取りで店を出た。 「あ、サクラ」 フラフラしていると、後ろからサイに声を掛けられた。 「あれ?どうしたんですか?打ち上げられて干上がった魚みたいに枯れていますね。眼も当てられないくらいブサイクだなぁ」 にこやかに浴びせられる辛辣な言葉にも、怒る気力は起きない。 「アンタはいいわね、悩みなさそうで…」 言えば、サイは面食らった顔をした。 「嫌だなぁ。あるよ、僕にだって悩みくらい」 「‥そう。」 「興味なさそうだね。ところで、サクラのつまらない悩みって何ですか?」 「え」 「いま何か悩んでいるから、いつもに増してそんなに不気味な顔をしているんだよね?」 変なところで敏いサイに驚きながら、こくりと頷く。サイにも聞いてみようかな…なんて考えてながら口を開いた。 「サイはさ…どんな女の子が男の子に好かれると思う?」 「なんですかそれ、謎々ですか?」 「いや、違うけど‥」 言いながら、サイの片手に謎々の本が抱えられていることに気付き、私は少し後悔した。 「なんだ、違うんですか。うーん、難しいなぁ」 「‥ナルトはボン、キュッ、ボンのナイスバディって言ってた」 「ふぅん?そういうの、僕にはよくわかりませんが…やっぱり、美人さんじゃないかな?サクラみたいなブサイクじゃなくて」 鈍器で殴られたようなショックを受けて、私は目眩を覚えた。いつもだったら殴っているところだ。掌に力を込めて、ぐっと我慢する。 「容姿の問題か…」 「視覚的な印象は重要だと本に書いてあったからね。」 「また本?」 「ごめんね、僕にはそれくらいしかわからないよ。あ、そうだ」 「もういいわ、ありがとう。サイ」 一応お礼を言って、海月のように更にフラフラとしながらとりあえずその場を離れた。 「ヒナタみたいな胸が欲しい‥いのみたいにスタイルよくなりたい‥テンテンみたいに可愛くなりたい‥紅先生や綱手さまみたいな美人に生まれたかった…」 誰もいない寂しい公園のベンチで、やけ酒のように缶のお茶を煽りながらサクラは独り愚痴ていた。 不意に俯いていた場所に影が落ちる。 「サクラじゃないか」 「‥ヤマト隊長」 顔をあげると予想通り、自分を見下ろすヤマト隊長と目が合った。にこりと笑うヤマト隊長に笑い返そうとするが頬の筋肉が僅かに痙攣するだけで、笑えない。 「どうしたんだい、こんなところで」 「ちょっと‥色々、です」 「うん、何かあったんだね。話してみる気はあるかい?」 「…はい。」 頷いて置いていたお茶の空き缶を退けると、ヤマト隊長は空いた私の隣に腰をおろした。 「ヤマト隊長は‥」 「ん、なにかな?」 「どんな女の子が男の子に好かれると思いますか?」 「…え?」 ナルトとサイにしたのと同じ質問をすれば、ヤマト隊長はうーんうーんと唸って考え始めた。 「因みにナルトはナイスバディで、サイは容姿の美しい人らしいです」 「え?ナルトとサイにも聞いたのかい?」 「はい…」 「うーん、そうか。それ以外なら…僕はやっぱり、大和撫子かなぁ」 「大和撫子?」 「うん、そう。おしとやかで、か弱い女性が良いんじゃないかな。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、ってね」 「ありがとうございました隊長」 「え?いえいえ」 「勉強になりました。」 「そうかい?でもさ、結局は‥」 隊長はその後も何か言っていたが、もう私の耳には届かなかった。縺れる足で自宅を目指す。 私には、か弱いのかの字もない。おしとやかなんて、言われたこともないし自分でも違うと自覚している。 「大和撫子‥か」 呟きながら、自分の掌を見詰めた。傷だらけで豆があって年頃の女の子と思えないくらいゴツゴツしている。 人差し指のはらで爪を撫でてみる。昔はマニキュアを塗って毎日綺麗に磨いて整えていたそこは、今は割れたり擦れた傷があったりして御世辞にも綺麗とは言えない。 「痛い‥」 怪我はしていないのに口から自然に溢れた言葉に、自嘲気味に笑ってしまった。指が痛いのか、そうではないのか、わからなかった。 **** 「サクラ」 呼ばれて振り向くと、小さな買い物袋を下げたサスケくんが立っていた。何とも言えない微妙な表情を浮かべている彼を見て、私は何だか買い物袋が似合わない人だなぁと思う。黙って暢気に眺めていると、彼は口をへの字に曲げた。 「お前、こんなところで何してんだ」 「…こんなところ?」 グルリと辺りを見渡してみる。 自宅とは反対方向の景色が私を囲んでいた。 「‥あれ、何してんだろ」 夢見心地に呟いてサスケくんに視線を戻せば、彼は顔をしかめた後、やれやれという風に瞼を閉じて、溜め息を吐き出した。 「ナルト達が、お前のこと心配してた」 ぶっきらぼうに言って、もう一度此方を見る。微妙な表情は相変わらず浮かべたままだった。 「お前、気になるヤツでもできたのか」 「…は?」 「最近、好きなヤツができたのかと聞いてるんだ」 サスケくんはそう聞いてきた後、しまったという表情を浮かべて気まずそうに視線を逸らした。 「最近…?どうして?」 「いや、やっぱり何でもない」 「サスケくん、ここサスケくんのお家からも反対方向」 つまり、私に用があって迎えに来てくれたのだ。何でもないわけがない。黙ってしまったサスケくんを見詰めていると、彼は凄く嫌そうな顔をして、また溜め息を吐き出した。 「お前が、どんな女が男に好かれるのか聞いて回ってると耳にした」 「ああ、うん」 頷くと、サスケくんはまたあの微妙な表情を浮かべた。 「気になるのか」 「…うん。気になるよ」 「知ってどうするんだ」 「私、モテたいのよ」 私がそう言った瞬間、サスケくんの眉間にシワが寄るのが見えた。 「お前、」 怒気を含んだ声に怯まず、私は重ねるように言い放つ。 「私、モテたいの。サスケくんに」 「…は?」 眉間の皺が消えて、サスケくんの口がポカンと開く。呆れたようにもとれるその様子に挫けそうになりながらも、私は足を踏ん張った。 「私、どんな風に変わればいいかな?サスケくんの好みになるには、どうしたらいいの?」 「…」 「私って全然ナイスバディじゃないし、絶世の美女じゃないし、おしとやかな大和撫子にも程遠いわ」 ペッタンコの胸を押さえて、泣きたくなった。そして彼の前に両手を翳す。 「手だってほら、昔はネイルしてお洒落してたけど今はこんなのだし…ゴツゴツして豆だらけで…汚い、し」 言うに連れて羞恥心が沸き起こる。なんだか惨めな気分になってきて、消えたくなった。 ずっと鍛練していたら、いつの間にかお洒落してたことすら忘れていた。それぐらい任務に必死で、忍者として一人前になるために必死で。それでよかったのに、今さらほっそりした白くてしなやかな指に憧れるなんて思ってもみなかった。 これからも更に豆だらけになる手は、今の状態だって男の子の理想には程遠くて。サスケくんにも良く映ってないのだと思うと悲しい。好きになってもらうどころか、嫌いになられてしまうのではないかと思うと、大声を出して泣きわめいてしまいたい位だった。女の子なのに、好きな人に好かれたいのに、どんどんかけ離れていく。これからもそれを止められない。 泣きたくて悔しくて、グッと歯を食い縛った。 手が震えて、恥ずかしい。沈黙に耐えられなくなって、手を引っ込めようとする。だけど、阻止されてしまって叶わなかった。翳した私の指を、サスケくんの手が掴んだからだと気付く。 「綺麗だろ」 降ってきた言葉に、一瞬呼吸を忘れた。 「俺は、汚いと思わない」 おそるおそる顔を上げると、彼は困ったように此方を見ていた。 「この手には、お前の努力が全部焼き付けられてる。どの傷もお前が努力した証だ」 「…え」 「俺は、チャラチャラしたのよりこっちの方が断然好きだ。お前は今のままでいい」 なんだかサスケくんらしくないことを言うなぁ。なんて笑いたかったけど、私の代わりに彼が笑うものだから、胸が痛くなって、堪えていた涙が一滴落ちてしまった。 サスケくんらしくないことなんてない。これがサスケくんなのだ。 涙を擦りながら、そう思い直す。 そんなサスケくんだから、私はサスケくんを好きになったのだ。 「帰るぞ。サクラ」 「う…うん」 夕陽が辺りを茜色に染めている。 人の少なくなった道を二人並んでゆっくり帰った。 遠くにナルトやサイが見える。此方に気付いて手を振ってくれた。それに振り返して、ふとサスケくんを見る。 「サスケくん」 「…なんだ」 「サスケくんは、どんな女の子が好きなの?」 「…は?」 「ナイスバディ?絶世の美女?それとも大和撫子?」 ずっと聞きたかったことを聞いてみると、サスケくんはまたしても微妙な表情を浮かべた。 そしてやれやれと溜め息をついて、視線を逸らした。 「お前。」 「え?」 「だから、お前だ。サクラ」 「え…!」 「好みなんてものは結局、好きになったら関係ない。」 『アイツらもそう言ってなかったか』と聞かれて、今日のことを思い起こす。そういえば皆、何か言おうとしてた…かもしれない。 「そっか…そうなんだ…」 逸る胸を誤魔化すように押さえて見上げると、サスケくんは微妙な表情でまた口をへの字に曲げていた。 「ボサっとしてんな。行くぞ」 私の手を引いたサスケくんの、綺麗な髪の隙間からチラリと見えた耳が空よりも赤くて、私は思わず笑ってしまった。 そうだと思えばどんな石だって宝石に変わる (貴方は私を輝かせてくれる人) ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ うろ様よりリクエスト頂いた『7班のメンバー(ナルト、サイ、ヤマト、カカシ)にサクラが相談したりする。恋煩い』から、サスサク。 お待たせしてすみませんm(´∇`;)m久しぶりにサスサク書いたらキャラが行方不明…こんなサスケちゃんでも良いのかしら(´▽`A;)そして今気づいたけれどカカシ先生が不在だ…ごめんねうろちゃん(;▽;)すまないよ うろ様へ捧げさせて頂きます!素敵なリクエストに心より感謝致しますm(__)m 4万hitありがとうございました! |