(フレレナ)


目醒めてすぐ、ぼんやりとした輪郭の中に、見馴れた天井を認めた。
ああ、ベッドの中にいるんだ。
そう考えてすぐに、体の変化に気付いた。
体が軽い。そして不思議に落ち着いたこの気持ち。
自分が完全に人ではなくなったのだと、理解した。
誰に言われなくとも、わかる。私はもう、人には戻れない。
不思議と悲しみは感じなかった。
ただ、ぽっかりと胸に穴が空いたような喪失感がどうしようもなく襲ってきた。泣きたい。泣けない。
けれど、泣きたいのかすらわからなかった。
リズ、マシュー、フレディ、お母さん…
みんな、いなくなってしまった。
でも、私は生きてる。
自分のことをどうでもいい、と思うことは亡くなった彼らのためにも、いけないことだとわかっていたけれど、起き上がる気力さえ湧いてこなかった。

「そうだ、アーウィン…」
あれから、どうなったのだろう?かなりの深手を負っていたようだけど、私がこうやってここで寝ているということは、少なくとも生きているということではないだろうか?
あの修道院には他に人はいなかった。
それなら…
ふと耳を澄ませば、階段を上がってくる足音がした。そしてドアの前までくると足音は止まり、なぜか物音は聞こえなくなった。
かすかな衣擦れの音以外、何も聞こえない。
やはり、アーウィンのようだ。
すぐに入って来ないのは気を使っているからだろうか?
そう考えてから、苦笑してその考えを打ち消した。
以前のアーウィンならあり得たかもしれない。
でも今のアーウィンは、いえ、ほんとうのアーウィンは、私の知ってる人じゃない。
けれど
今の私は央魔だから
だから価値があるのかしら
そこまで考えてから、何だか考えるのが億劫になった。
何でもいいじゃない。
もう、私には何もないのだから。

「アーウィン?入って大丈夫よ」

声をかけると、ドアにガンと何かがぶつかる音がした。

「!?アーウィン?大丈―」

言い掛けた声は途中で途切れた。


「フレ、ディ…?」


開いたドアから入ってきたのは、なぜか額を擦っているフレディだった。
あんまりにもびっくりして、すぐに喜びが込み上げてきて、だけどすぐに唇を噛み締めた。

嗚呼、どうして私は。
こんなに都合のいい夢を見るの?
現実を受け入れきれない弱い心が見せる夢。
けれどたくさんの夢と現実が交差して、もうどれが現実かわからない。

「ねぇちゃん…」

困ったような、でも優しい表情で、フレディはそっとベッドの横に立つ。


本当に、そこにいるみたいに
でもこんなの


「ひどい、よ…」

もう枯れたと思うくらい泣いたのに、また涙が溢れ出す。
とめどなく溢れる涙に、慌てたように、フレディが駆け寄ってくる。
頬に触れるフレディの手はとても暖かくて。
あのとき、どんどん冷たくなっていったフレディが夢で、こっちが現実に思えてしまうほどに、温かかった。

「ひどい、こんな、」

誰に言うでもない
けれど、言わずにはいられなかった。
決心、したのに
生きていくって決心したのに


「ねぇちゃん」

優しすぎる手のひらが、頬を包んだ。

グレーの瞳は吸い込まれるほどに綺麗で、自然と唇が開いた。


「夢でもいい。もうどこに行かないで。お願い、フレディ」

叫び出しそうな、弾けてしまいそうな感情を、その瞳が受けとめてくれる。


「フレディ、フレディ、」

縋りつく私をそっと抱き止めて、フレディは私の瞳を見つめた。


「―レナ」


ひく、と喉が震え、その瞳から目が離せなくなる。
温かい瞳は、私を捕えて離さない。
その微笑みが、さらに深く色を湛えた。


「夢じゃないよ」


止まっていた時間が動き出し、世界に色が満ちた。



奏多ちゃんからの頂き物です。素敵な文章を本当にありがとう!宝物にします!!(*´ω`*)/愛

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