サスサク






艶かしい肢体を見下ろしながら、サスケは溜めていた熱い息を吐き出した。月明かりから隠すように、サクラの身体をただじっと見詰める。無理をさせたせいで、彼女は意識を手離していた。理性が戻った今、沸々と罪悪感が沸き起こり始める。
長期の任務で里を離れていた間、サクラはサスケに便りを寄越して来なかった。マメな彼女は、普段なら3日と空けず他愛ない内容の手紙を書いて来る。それが今回は何故か1度もなかった。
恐らくそれが原因だ。
ウズウズと沸き起こる気持ちを、帰還して直ぐに彼女へぶつけてしまった。寂しかったのだと、冷静になった今ならハッキリとわかる。

(馬鹿か、俺は)

クシャリと髪を掻き上げると、冷たい汗がポトリと落ちた。その滴がサクラの頬に落ちて、彼女が微かに唸った。

「…ぅ、」

ゆるゆると開かれる瞼の奥に、美しい翡翠が現れる。それを見た瞬間、胸が大きく波打ったサスケは慌てて彼女の目を自身の掌で覆った。

「‥サスケくん…?」

サクラが少し掠れた声を出す。

「ねぇ、真っ暗で何もみえないよ」

言葉に反して、呟かれた声から不安は伺えない。
そっと手を伸ばされて、頬を撫でられる。

「見つけた」

「なんで‥」

「ん?」

「俺なんかを選んだんだ」

「今更それを聞くの?」

「…悪い」

瞼から離してサクラの手を上から包む。彼女がゆっくりと瞼を開けた。視線がかち合う。

「サスケくんは寂しがりで、可愛いね」

「うるせぇよ‥」

「お手紙そのまま返ってきたのよ」

「…は?」

「ちゃんと届かなかったのねぇ。…心配した?」

「っ、出さなかったわけじゃなかったのか…」

思わず間の抜けた声で言えば、サクラはにっこり微笑んだ。サクラの身体を抱き寄せると密着した体からクスクスと笑う振動が伝わってきた。不思議とそれが不快ではない自分に気付く。

「サスケくんの泣きむし」

「…悪いかよ」

「ううん、そんなところも好き。ぜんぶ好きなの。『なんで』なんて、私もわからないわ」

サクラはまたクスクスと笑った。背中に腕を回されて、詰めた息を吐きだす。

「手紙、捨ててないよな?」

「え?うん、捨ててないわよ」

「…読む」

「い、今から?」

「ああ。駄目か?」

「いや、駄目って訳じゃないけど…なんだか恥ずかしいわ…」

語尾につれて声が小さくなるサクラに、

「なら尚更、読ませてくれ」

今度はサスケが笑う番だった。






(静かな幸せをあなたがくれた)



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