僕は狼、君をお味見
(廉造と朔子)
保健室の先生と生徒。
「なぁなぁ、朔子さん」
保健室の椅子に座り、仰け反りながら椅子ごとくるくる回って遊ぶ少年。彼はどう見ても健康そのもので、外傷も見られない。
「こら、廉造くん。朴先生って呼ぶように言ったでしょう?」
そう言って優しくたしなめる彼女は朴朔子といい、この学園の保険医をしている。穏やかな柔らかい雰囲気の聞き上手な女性で、生徒達にとても慕われていた。そしてこの生徒、志摩廉造もそのうちの一人。だが、彼は他の生徒とは違う別の感情も抱いていた。
「朔子さん」
「朴先生です。」
「んー‥朔子センセ」
「朴・先・生」
「朔子センセ」
「…まぁいいか。なぁに?廉造くん」
「好き。」
さらりと紡ぐその言葉と重なるように、予鈴が大きく鳴り出す。ドアの外の廊下を生徒が騒ぎながら走って行く音も聞こえた。
「廉造くん。冗談言ってないで、早く戻った方がいいよ。授業始まっちゃうから」
「授業より大事なことがあるんですわ」
「授業より大事なこと?」
「おん。朔子さんと一緒にいること」
「こら、廉造くん。そんなこと言ってると留年しちゃうよ」
朔子は腰に手を当てて胸を張り叱るように言ったが、全く威厳がない。むしろ可愛らしくて、廉造は思わずプッと吹き出してしまった。
「ええよ。その方が長くここ来れますし」
ニッと笑う廉造を呆れ顔で見て、朔子はやれやれと溜め息をついた。
「あのね、廉造くん。保健室っていうのは具合が悪い子が来る場所でしょう?」
「おん。常識やね」
「そうよね。で、廉造くんは元気でしょう?怪我もしていないし」
「そうでもないんです」
「え?」
廉造が急に真顔になり、声のトーンを下げる。そんな彼の顔色をまじまじと眺め、朔子は困惑しながら首を傾げた。
「顔色はとっても良いんだけど…何処か調子悪いの?」
「調子悪いっていうか、変なんやわ」
「変?」
「そ。朔子さん見てると胸がキュッて締め付けられるんよ。それがむっちゃ苦しいんです」
「えっと、」
「これて朔子先生のせいやんなァ‥」
「ええっ?」
ガタリ。
わざと音を立てて廉造が椅子から立ち上がった。朔子にゆっくりと近付いていく。
「れ、廉造くん‥?」
狼狽えている朔子に構わず廉造はじわりと間を詰めた。互いの鼻が当たる距離まで近付いた廉造は、不安そうに見上げている目の前の双眸を見詰める。そして、
「責任とって下さい、朔子センセ。」
不適な笑みを浮かべて、朔子の薄桃色の唇をチロリと舐め上げたのだった。
僕は狼、君をお味見
めこ様より頂いた『僕は狼、君をお味見』「羊の皮を被った男子と目をつけられた無知な女子」から廉朔。
素敵なアイデアに感謝致します!
30000hitありがとうございました!