サスサク
アカデミー以前
修行の為に森に向かうサスケに、小さな影が走り寄った。
「こんにちは!」
「‥こんにちは」
頭に赤いリボンを着け、少し前からサスケの周りをちょこちょこついて回るようになったその少女は、名をサクラというらしい。
「今日は何の修行するの?」
彼女はサスケの斜め後ろに控え目に着いて、テクテクと着いて歩く。
「手裏剣術‥」
「しゅりけん?しゅりけんってなぁに?」
「知らないのか?これだよ」
サスケが翳した手裏剣を、サクラは物珍しそうにまじまじと見た。初めてみる物だった為、持ち方すら解らない。
「きのう言ってた『くない』っていうのとは違うんだね」
「うん」
「えっと…いま持ってるみたいに持つの?」
首を傾げて尋ねるサクラに、サスケは少し得意気に答えた。
「そうだよ。投げるときは違うけど」
「投げるとき…?サスケくんは、しゅりけんで闘ったことあるの?」
「ない。でも修行では使ってる」
「そっか…ね、それどうやって使うの?」
「見たいのか?」
「見たいです」
「…」
そうやって話しているうちに、二人はいつもの修行場所まで着いた。サスケは黙って近くの木に的を設置する。そしてサクラから距離を取ると、数メートル離れた位置から手裏剣を投げた。手裏剣は綺麗な直線を描き、的へと垂直に刺さる。見事に的の中心へ刺さっていた。
「すっ…ごーい!」
サクラは驚愕して息を大きく吸い込み、手を合わせながら歓声を上げた。
「サスケくん、すごいよ!真ん中に当たった!すごいね!」
パチパチと手を叩きながら、まるで自分のことのように喜んでいるサクラを、サスケは横目でチラリと見た。そして照れ臭そうに前を向くと、投げた手裏剣を取りに的を設置した木へスタスタと歩いて行く。目を輝かせて見ているサクラの元へと戻ると、取りに行った手裏剣を差し出した。
「え?」
「投げてみなよ」
「で、でも‥サスケくんみたいに出来ないよ」
「うん」
当然だという風に頷かれて、サクラは少しだけ落ち込んだ。肩を落として俯く。
「それでいいんだ。始めはみんな下手で当たり前だ。だから上手くなるために教えてやる」
だが続いて掛けられたサスケの言葉で、直ぐに元気を取り戻し顔を上げた。
「え‥!?」
「なんだよ。イヤなら別に」
「ううん、イヤじゃないよ!いいの!?」
「い、いいよ」
双眸をキラキラと輝かせて身を乗り出すサクラに、サスケは圧倒されて僅かにたじろぐ。
「サクラはクナイもなかなか上手く投げられてたし‥腕は悪くないと思う」
至近距離にあるサクラの顔に頬を染めながら、サスケは必死に彼女の肩を手で押し返した。グイグイ押していると、ふと、サクラの威力が弱まる。彼女が急に黙った事に気付いたサスケは、身を離してから首を傾けた。
「…サクラ?どうした?」
「‥まえ」
「え?」
「サスケくん、サクラって言った!私の名前おぼえててくれた!」
サクラはまるで花が咲いたような、今日一番嬉しそうな笑顔でサスケを見た。サスケはまたたじろぎながら、照れ臭そうにプイッとそっぽを向く。
「そ、そんなの覚えてるに決まってるだろ‥」
「嬉しい!嬉しいよ!サスケくんありがとう!!」
「!」
ドキリ。
サスケの小さな心臓が、大きく跳ね上がる。顔を逸らしていたのに何故か気になり、つい横目で彼女の笑顔を見てしまった。サスケは慌てて自分の心臓付近を押さえ、見てしまったことを後悔したのだった。
何も知らないでいてね
(どうかこの名のない想いが形になってしまいませんように。)
―――
サクラに忍というものを教えて、彼女が忍を志す切っ掛けになったのがサスケだったらいいな。サスケの初恋は、憧れ→お母さん、恋→サクラちゃんだと信じてます。