ねぇ、どっち?
(イタサク)
*色々捏造。




美しい薔薇の花に囲まれた庭園。
嘗てこれ程までに美しい薔薇園は他にはないとまで言われた庭園だったが、今は面影が微かに残る程度。忍界大戦時に火種はこの場所にも飛び火し、美しく整えられていた庭園の建造物諸とも無惨に砕けてしまった。その砕け散り、あちらこちらに積みあがった岩ですら呑み込む程の薔薇が、今は野生に帰して自由に咲き乱れている。自然の力は偉大だ。

陽が落ちて薄暗くなり、昼間とは違う美しさを称える薔薇を眺めながら、サクラはイタチと共に訪れたこの地を物珍しげに観察していた。ちょっとした観光気分になり、嬉しく思う。
イタチは少し離れた岩影に腰を下ろして体を休ませていた。サスケとの闘いの為に生きる彼は、側にいるサクラには生き急ぐ様がありありと伝わってくる。その場しのぎの医療忍術では彼の病はどうしょうもない。延命はできても、完治することは叶わない。それでも側に置いてくれているのは、繋ぎ程度にはなるからだろうとサクラは思った。医療忍術が必要なイタチと、イタチの病を治したいサクラ。利害は一致している。
病を治したい。だから側にいたい。それだけが理由かと問われたら、サクラは何も言えなくなるだろう。事実、以前ナルトやカカシに遭遇した時、彼らに何故里抜けまでしてS級犯罪者のイタチと共にいようとするのか問われたが、サクラは側にいたいからとしか言えなかった。何故側にいたいのか問われても、イタチの病を含め真実を言えるはずがなかった。言ったところで信じて貰えるはずがない。彼の真実は恐らく皆の知る出来事とかけ離れている。サクラがイタチに着いていくと決心したのは、彼の優しさに触れた時、彼が隠している過去の真実を見抜いたからだ。そんな曖昧なものを里中が信じてくれるわけがないだろう。サスケが昔サクラにポツリと言った『あのとき泣いていた』という言葉。サクラはそれを信じている。一族滅亡について彼は何をどれだけ問い詰めても真実を話すことはないが、彼の隠しきれない優しさ、滲み出す慈愛の心、そして秘めた哀しみは痛いほどわかってしまった。鋭いサクラは見抜いたのだ。一月と少し前、森で肥大した猛獣に喰われそうになったとき。あの時、イタチに出会ったサクラは彼に命を救われた。それがサクラの運命を大きく変えることになった。そのまま去ろうとしたイタチをサクラは必死に引き留めた。その時はただ暁やサスケについて知りたい一心で、何故自分を救ったのかという疑問は余り膨らんでいなかった。気紛れに救われたのかとも一瞬考えたが、それよりも気になることが多すぎた。だが力の差は歴然。サクラがイタチを捕らえられるはずもなく、サクラはその場を去ってゆくイタチをただじっと、妙に騒ぐ気持ちのまま見送ることしか出来なかった。
その後、サクラは里でうちは一族について寝る間も惜しんで徹底的に調べ直した。うちは一族だけではなく、妖狐襲来事件や里の上層部についても全て。視点を変えて調べれば調べる程にサクラの中の不信感は募ったが、決定的ななにかは見当たらなかった。そうしているうちに、サクラの運命を変える偶然は続いた。
次に会ったのは数日後。サクラがまた無数の猛獣に襲われていた時だった。
何故こうもチャクラを使いきり、疲弊したときばかり襲ってくるのか。野生の生き物はその点飛び抜けて聡いと、危機的な状況にも関わらずサクラは思わず感心してしまった。そんな時、幾多の疑問を吹っ飛ばすほどごく自然に彼は現れ、ごく自然にサクラを助けてくれた。

『どうして助けてくれたの?』
『もし次また私が襲われていたら貴方はどうするつもりなの?』
『どうしてそんな優しい目をするの?』
『なぜ貴方は何も言わないの?』

私、貴方が悪い人間じゃないって知ってしまった。貴方が優しい人間だって知ってしまった…。

何を言っても答えないイタチに、サクラは何故か泣きたくなった。
同時に、犯罪者に会った時に感じる恐怖がまるでない自分に気付く。
去ろうとしたイタチを見て、サクラはまた逃してしまうと慌てたが、彼はその時一度だけ僅かに咳込み立ち止まった。
嫌な予感がした。
直ぐになんともない様子に戻ったが、サクラにはもうわかっていた。彼の体が病に蝕まれていることに、気づいてしまった。

「その病、治療させて下さい」

そう告げた時、初めてイタチは反応を見せた。

「助けて貰ったお礼をしない最低な人間に、私をならせないで。」

目を見据えて言うサクラを、イタチは黙って見詰める。そして初めて、困ったような柔らかい表情を見せた。

「‥頼めるか」

その時に聞いた優しい声、その人間らしい顔はきっと一生忘れることが出来ない。
それからサクラは怖いくらいイタチにどんどん惹かれて、彼の深水に嵌まっていった。



****



「痛っ、」

薔薇を撫でるサクラの指が、小さく鋭い棘に傷つけられた。慌てて手を引っ込めたが、皮が破れてしまったようだ。痛みが脳に伝達されてから遅れて出てきた赤い血に、サクラは小さく溜め息を溢す。このくらいの軽い傷は医療忍術を必要としない。このままほって置いて自然に治るのを待つだけだ。ぷっくりと、出てきた血が人差し指の上に玉になっている。

(絆創膏もいらないわね)

そんなことを考えていたサクラは、不意に隣から手を掴まれて驚きで肩を揺らした。
隣を見るといつの間に来たのか、イタチが立っている。
サクラがイタチの気配に気付けないのは何時もの事だが、正直かなり心臓に悪い。いきなり隣に立たないように何度も言ってきたが、彼はいつも『すまない』と言って困ったように謝るだけだ。それだけで現金なサクラの心臓は高鳴るのだが、多分彼は気付いていないのだろう。それを証拠に、今日はサクラの心臓へ更に追い討ちをかけてきた。

「!」

彼は、サクラの怪我した人差し指をパクりと口に含んだのだ。これには流石に声を上げてしまう。

「イタチさん!」

ヌルリと彼の舌が指を這う。妙な感覚にサクラの肩はビクリと跳ねた。これがイタチでない誰かなら、『何すんのよしゃーんなろー!』と言って殴り飛ばすところだが、いかせん目の前の人物はこの行為に対して何も考えていなさそうな、それはそれは酷い天然なので、グッと拳を引っ込める。これで無意識とは、本当にたちが悪い。

(うわぁ‥色っぽい…)

美しい顔立ちの彼には、何処か中性的な艶かしさを感じる。色気だって女性であるサクラよりもずっとずっとあった。そのことに困惑しつつも、サクラはムラムラと沸き上がる気持ちを抑えるのに必死だった。
性別から考えてこれって逆じゃないの!?というのは1ヶ月間彼と共に行動する上で何十回も思ってきた。今は慣れてきてあまり感じない。それより今感じるのは、早鐘のように激しく打つ動悸、そして理性の箍が外れる感覚だった。



気付けば、サクラは自分がされたのと同じようにイタチの人差し指を口に含んでいた。ヌルリと彼の綺麗な指を舌で舐め回す。そのまま彼へ視線を戻すと、目を見開き驚いた表情を浮かべているのが見えた。既にサクラの指は解放されている。

「サクラ。別に俺は怪我をしていないが」

ハッとして、自分がとんでもないことを仕出かしてしまったと気付いたが、もう遅い。慌て出したサクラだったが、イタチの指に舌を這わせたまま硬直してしまった。

(…え?イタチさん…?)

思わず数回目をしばたたかせる。何故なら、薄暗闇のなかに見えるイタチの頬が僅かに染まっていたからだ。そして彼は目のやり場に困るといった風に、あからさまにサクラから目を逸らしていた。

(こんなイタチさん、初めて見るわ‥)

こんな色気で捕まらないなんておかしいわよ。ハッキリとそう考えたところで、サクラは二度目の崩壊の音を聞いた気がした。

イタチの指を解放し、腕を引く。僅かに体勢を崩したイタチの体を地べたに倒した。そのまま片手を床に縛り付け、彼の胴に股がる。屈み込む体勢でイタチの首筋に顔を寄せた。甘い香りを吸い込みながら、白い肌に舌を這わせてゆく。わざと音を発てて所々に痕をつけ、なぞるようにゆっくり上がっていく。耳の裏を舐め上げて柔らかい耳朶にあまがみすると、イタチの体が小さく反応した。


(‥‥‥‥‥‥‥)


ガチリ。
サクラはまた体を固まらせた。
イタチの反応で、飛びかけた自我が戻ったのだ。

(ど、どどど‥どうしよう…)

バッと顔を離して彼の胴に座ったまま見下ろすと、イタチは酷く困惑した顔でサクラを見ていた。
その視線が痛い。正直彼のこのアングルも色々とマズいので、サクラは視線をさ迷わせた後、大きく逸らした。言葉の出ないサクラを見ていたイタチが、小さく溜め息を溢す。それが胸に突き刺さって痛かった。

「止めるのか」

言われて、一気に顔へと熱が上がり、サクラはギュッと唇を噛み締めた。

「っ、ごめんなさい」

「なにがだ」

「その、お‥お、押し、倒して」

「続けないのか」

言われて顔が爆発するのではないかというくらい熱くなる。きっと耳まで真っ赤に違いない。

「わ、私…つぎ、どうすればいいか、わからないから」

狼狽えながら言うサクラをじっと見ながら、イタチは少し考えて、やがて体を起こした。その勢いでサクラはごろりと後ろに倒れる。
仰向けに倒れたサクラの胴を、今度はイタチが跨いだ。二人は先程と真逆の体制になる。だが、それは甘い雰囲気のそれではない。イタチの厳しい表情に気付いたサクラは、悲しそうに眉尻を下げた。

「サクラ…お前は病を治す為に側に居ると言ったな」

ズキリ。イタチの言葉が胸に刺さる。責められているのだろうかと思うと、悲しくなった。イタチの言葉が脳でぐるぐると回っている。サクラは涙をジワリと滲ませながら彼を見上げた。

「言ったわ。私はイタチさんの病気を治したい…その気持ちはずっと変わらない」

「…」

「でも私…気付いてしまった」

「…」

「私、自分の気持ちに嘘つきたくない。初めて助けてもらった時から貴方のことが‥」

言いかけたサクラだったが、イタチの手に口を塞がれて続きを言うことは叶わなかった。
その瞬間、サクラの翡翠の瞳がゆらゆらと揺れ出す。次から次へと涙が溢れて、目尻から横に流れ落ちていった。

(言うことすら赦されないの?耳に入れることすら、嫌ってこと…?)

サクラは泣きながら、すがるようにイタチへ手を伸ばした。イタチはそれを掴み、地べたに縛り付ける。サクラの口を押さえていたイタチの手が離れた。

「何も、自ら進んで俺の運命に巻き込まれる必要はない。お前は何時だって逃げられるはずだ」

静かに告げるイタチの言葉に、サクラはふるふると首を横に振った。

「イヤよ、私は貴方の運命になら巻き込まれたい。それに逃げてるのはイタチさんの方でしょう?」

「俺が‥逃げている…?」

「そうよ。私から逃げるイタチさんを、私が追いかけてる」

「…サクラは、自由に生きればいい」

「自由にしてるわ。自分で選んだんだから、止めようとしないで」

キッと力を込めて見詰めるサクラを、イタチはじっと見詰め返す。

「逃げたって無駄よ。何処まででも追いかけるわ。私、しぶとい女なの」

強く言い放ったサクラだったが、本当は大声を出して泣いてしまいたい気持ちだった。強がりだと気づかれないために睨み付けても、溢れる涙で無駄になる。暫くにらみ合いが続いたが、先に折れたのはイタチだった。

「そうか…好きにしろ。」

呆れたようにそう溢すと、彼はフッと静かに笑った。それを見たサクラの双眸からはまた涙が溢れだす。イタチの手が伸びて、長い指先がそれを掬った。

「お前は、自分の気持ちに嘘をつきたくはないと言ったな」

「…言ったわ。」

「俺も自分の気持ちに嘘をつくつもりはない。」

言いながら、イタチはそっとサクラのファスナーに手を掛ける。

(え…?)

ハッと目を見張る。
イタチはそんなサクラの頬を一撫でしてから、驚いて何も言えないでいる彼女に唇を重ねて、ゆるりとファスナーを下ろした。


「サクラ。俺の病を治してくれるか」


月夜の下。
美しい薔薇に囲まれた静寂の中で、2つの影が静かに重なった。







(それは同情?それとも…愛?)






みく様に頂いた『ねぇ(どっち?)(←その行動はただの優しさなのか、からかってるのか、それとも別の感情なのか)』からイタサク。
素敵なアイデアに感謝致します!

30000hitありがとうございました!




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