サスサク






茹だるような暑さが続く。陽が沈めば少しは収まるかと思ったが、その日は辺りが闇に包まれても依然として暑かった。
サクラは縁側に腰掛けながら団扇で首もとを扇ぎ、小さく息をついて熱を外へと吐き出した。少し痺れた足の指先を動かす。太もも辺りが動かないよう、細心の注意を払いながら、そうっと。
なぜ気を付けているかというと、それは彼女の太ももを枕がわりにして眠っている人物に原因があった。何度か名前を呼んではみたが起きる気配は一向にない。こうなったら好きなだけ寝させてあげようと思ったサクラは、痺れる足と格闘しながらも愛しい彼の寝顔を眺めていた。
自分とは全く違う色の髪は、月の光を浴びて艶やかに光っている。
サクラは団扇を横に置いて、さらさらと美しいそれを撫でるようにすいた。彼の髪は相変わらず、女性であるサクラが思わず嫉妬してしまいそうなくらい柔らかくて気持ちよい。サクラは何度かすいて満足すると、もう一度団扇に手を伸ばした。だがその手は熱っぽい手に掴まれ、団扇まで届かなかった。驚いたサクラが手の持ち主を見ると、長い漆黒の睫毛が揺れて、やがて睫毛に縁取られた瞼の間から黒曜石のような瞳が現れた。いつ見ても、何度見ても、彼の瞳はサクラの胸を騒がせて止まない。サクラは、少し狼狽えたあとパッと顔を離して視線を逸らした。

「ごっ、ごめん」

ドキドキ、ドキドキと心臓が五月蝿い。小さく深呼吸をして、サクラはおずおずとゆっくり視線を戻し、困った顔で笑ってみせた。

「ごめんね、サスケくん。起こしちゃったかな」

ドキドキと逸る胸の音が聴こえてないか気が気じゃない。そんなサクラを知ってか知らずか、サスケはまだ眠たそうなぼんやりとした表情でサクラを見上げていた。

「さ、サスケくん…?」

そんなに見詰められちゃうと、穴が開くなぁ…なんて‥と内心で思いながらも、サクラは困惑の混じった笑みを向け続けた。

「サクラ」

不意にサスケが呼んだ。寝起きの掠れた声がやけに色っぽくて、サクラの胸はまた騒ぐ。

「な、なぁに?サスケく、ッ」

貼り付けた笑顔で返事を返そうとしたサクラだったが、唇を塞がれ言葉を遮られてしまった。サクラがサスケに覆い被さる形になっているが、唇を塞いでいるのはサスケからだ。サクラの後頭部にサスケの左手が掛けられていて、徐々に力が入っていく。

(サスケくん!?)

慌てて逃げようとするサクラの身体を逃すまいと、右手が伸びてきて呆気なく腰を掴まれた。

(なっ、)

驚いて開けた唇を割って、サスケの舌が侵入する。唇を食むようにされ、歯列をなぞられて観念したサクラがおずおずと舌を伸ばした時、サスケがクスリと笑った気がした。
サスケの表情を伺おうとしたサクラだったが、直ぐに貪るように口付けられ、思考はどんどん鈍っていく。舌を吸われ、絡められて散々口内を犯されたサクラが解放された頃には、二人の形勢は逆転していた。
サクラは荒い呼吸を繰り返しながら、いつの間にか自分を押し倒しているサスケを虚ろな表情で見上げた。

「サスケ…くん」

唯一の明かりだった月は、サスケの背に隠れてしまっている。月を背にしたサスケの表情はよく見えない。

「サスケ、くん」

もう一度呼べば、応えるようにサスケが動いた。サクラの滑らかな首筋に顔を埋めてあまがみする。彼はそのまま舌を這わせた後チクリと甘い痛みを走らせた。
鈍く痛む首筋。膝はまだ微かに痺れている。その痛みさえ、サクラは愛おしいと思った。

(サスケくんがくれるものなら、痛みでも愛しいと思えちゃうのね)

クスリ。身も心も彼に溶けきっている自分がなんだか可笑しくて、ついつい笑ってしまう。

「余裕だな」

静かに降ってきた声にハッと視線を移すと、サスケが愉しそうな笑みを浮かべていた。

「サスケくん…目は覚めた?」

「すっかり」

「そう‥じゃあ退いて欲しいなぁ、なんて」

「聞けないな」

愉しそうにそう返すサスケに対し、どうして?などという質問はあまりにも愚問過ぎて聞くことができなかった。

彼を伝い落ちてきた雫がきらきらと光り、まるで星のように綺麗だと頭の片隅で思う。


「熱いか?サクラ」

蕩けそうな眼差しに酔いながら、サクラはこれから始まる熱い時間にもう半分の片隅で想いを馳せて、そっと静かに目を閉じた。







(うん、あついよ。)

(脱がせて。サスケくん)




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