レクイエムで蘇る

(アマしえ)
吸血鬼パロ
2万打記念感謝文







(あ、またいる‥)


夜も更けた深夜0時。
その黒い影は必ず隣の屋敷の屋根で、ボンヤリと月を見ている。





「お休みなさい」

しえみは両親に挨拶していつも通り自室に入った。ネグリジェの上から薄いカーディガンを羽織り、ベッドへ潜り込む。目を閉じると忽ち強い睡魔が襲ってきて、夢の中へと落ちていった。


夜中。
不意に物音がして、しえみは目を覚ました。起き上がって瞼を擦る。何気無く窓に目をやると外が見えていた。ここ最近カーテンを閉めずに寝るのは、あの黒い影が気になるからだ。
しえみはベッドから出ると、窓に近付いた。

「あ…」

窓から外を見れば、あの黒い影はまだ隣の屋敷の屋根上にいた。


(何故あなたはそこにいるの。)

しえみの胸に沸々と何かが込み上げてくる。

(何故、いつも空を見ているの。)
(夜にしか現れないのはどうして。)
(貴方は一体だれなの。)

聞きたいことは山ほどあった。
真相を確かめるべく、窓の鍵に手を掛けてゆっくりと開ける。夜風が部屋に入ってきて、しえみの体は僅かに震えた。

「くしゅん」

小さくクシャミをして、顔を上げる。
恐らくクシャミの音が聞こえたのだろう。黒い影が此方を向いた。
カチリと視線がかち合う。
初めて絡んだ視線に胸が大きく跳ねた。
しえみを射抜く鋭い目の持ち主は、黙ったままだ。

「あの…」

おずおずと声を掛けてみるが、返事はない。

「あのっ」

もう一度、今度は大きめの声を出すと、彼は首を傾げてから漸く口を開いた。

「僕に用ですか?」

「は、はいっ」

しえみは力を振り絞って声を出した。彼女にとっては最大のボリュームだが、然程大きくないので五月蝿くはない。家の者が起きる心配はなさそうだ。

「何の用でしょうか」

「お…お話を」

「話?」

「あ、貴方と‥お話をしてみたくて…」

顔を真っ赤にしながら叫ぶしえみを、不思議そうにマジマジと見てから彼は立ち上がった。部屋の前にあるベランダまでひょいっと跳んでくる。

「!」

驚いているしえみに構わず、彼は窓際に寄った。

「何の話ですか?」

「え‥?」

「話をしたいのでしょう?」

「は、はい…でも良いんですか?」

「はぁ…構いませんが。僕と話がしたいなんて、変な人間ですね。人間はよくわからないな。」

しえみは、無表情のまま淡々と言う彼の『人間』と言うところを少し妙に思ったが、直ぐに頭の片隅に追いやって、笑いかけた。

「ありがとうございます!よかったら、貴方のお名前を教えて下さいませんか?」

「名前?‥ああ、僕はアマイモンです」

「アマイモン、さん」

「はい。何ですか」

「あ‥すみません、その‥呼んだだけです」

「はぁ」

「私は杜山しえみです。そうだ、此処じゃ寒いでしょう?中へ入りませんか?」

嬉々として話すしえみに、アマイモンは少し驚いた顔をしてから首を傾けた。

「僕を‥中へ…?」

「はい。どうぞ」

「僕を招いて、君は大丈夫なのですか?」

「え?」

アマイモンの言葉に、しえみも首を傾ける。

「大丈夫ですけど‥」

不思議そうに見詰めるしえみから目を反らして、アマイモンは『わかりました』と告げるとヒョイッと窓を越えて中へ入った。

「‥もしかして、ご迷惑でしたか?」

不安げに尋ねるしえみを一瞥してから、アマイモンは視線を部屋の中へと移す。

「いえ。ただ…君が嫌なのではないかと思ったので」

「私?私は、嫌じゃありません」

「やはり君は可笑しな人間だ。」

「可笑しいですか?変わってるとはよく言われます」

「…」

黙ってしまったアマイモンに、しえみは再び首を傾げた。

「そうだ、アマイモンさん。貴方はいつも夜に、あんな危ない場所に座って空を見上げていますよね?」

「別に危なくなんかありません。それに、僕は夜にしか動けないので」

「夜にしか…?」

「はい」

(夜以外に動いたら、どうなるんだろう?)

聞きたかったが、それは聞いてはいけない気がして、しえみは開きかけた口を閉ざした。心にもやもやしたものが生まれる。なんとなく腑に落ちないながらも、しえみは話を続けた。

「なんだか、大変ですね」

「そうでもないですよ。僕には合っている」

「そう…ですか」

声に覇気がなくなってしまったしえみに気付き、アマイモンは彼女へと歩みよった。

「どうしました?具合が悪いのですか?顔色がよくない」

「いえ…、大丈夫です」

そう返しながらも、しえみはあることに気付いていた。それは今、彼が言った顔色のこと。近くで見たアマイモンの顔色は、数日前に葬式で見た、隣の屋敷に住む娘の死体みたいに白かった。彼の肌は、死人の色をしている。体が小さく震えた。

「あの…」

「はい」

「貴方は…何者ですか?」

恐る恐る尋ねると、アマイモンは微かに眼を見開き、そしてニヤリと笑った。その唇からは、鋭い歯が覗いている。しえみは堪らず小さく悲鳴を上げた。

「人じゃ‥ない」

「漸く気付きましたか。」

「まさか…隣の屋敷の娘は貴方が」

「はい。彼女は僕の餌だった。若い娘の血は特に美味しい。君も、とても美味しそうだ」

ペロリと唇から真っ赤な舌が覗く。

「わ、私も…っ殺すの?」

しえみの全身に悪寒が走った。カタカタと震えて怯えるしえみを、アマイモンはジッと見詰める。

「いいえ、君は殺しません」

「ほ…んと?」

キッパリと言い切った目の前の獣を見詰め返す。

「ええ。」

その返事にしえみは小さく息をついた。しかしその安堵は一瞬で終わりを告げた。

「君は僕の、花嫁にします」

「!?」

しえみは驚愕の表情を貼り付けながら後退りを始める。そんな様子も全く気にせず、容赦ない冷たい手がしえみの首に触れた。

「や、いやっ離して」

「それは出来ません。」

「どうして…貴方は私をっ」

「一目みた瞬間から、僕は君が欲しくて仕方なかった。君は僕の花嫁に相応しい。」

「っ、そんな」

「君に拒否権はありませんよ。僕を招いたのは君の方だ。」

しえみはハッとして、窓を見た。
そうだ、彼を招いたのは紛れもない自分。

「僕らのような生き物は、君たち人間からの誘いがなければ迂闊に近付けない。だけど一度でも招かれたらその家には何時でも入ることができるのです」

「私‥なんてこと…」

「安心してください。君さえ僕のものになれば、他は興味無い。君の家族に手は出さないと約束します」

「!」

「君は僕のものだ。」

しえみの瞳に恐怖と絶望が映る。
アマイモンはニヤリと笑うと、温かい彼女の唇に噛み付いた。







Fin..


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