サスサク学パロ




綺麗な漆黒の髪が風に靡いている。白のカッターシャツは、首もとがだらしなく開いていた。長い足を組んでスヤスヤと寝息を立てている一人の生徒。彼は、夢の中にいるのだろうか。
私は起こさないようそっと屋上の扉を閉めた。その足で柵に近付く。4階建ての校舎の頂から見る景色はなかなかのものだ。ここに来ると詰まったものが吐き出され、解放されたような気分になる。屋上は、私の密かなお気に入りの場所だった。
ネクタイを弛めて襟のボタンを外す。大きく息を吸い込んで深呼吸を繰り返した。


「叫んでみろよ」

不意に聞こえた低い声に、心臓がドクリと跳ねた。
声の方に顔を向ければ、寝転んでいた筈の生徒が体を起こして此方を見ていた。

「くたばれ先公、ってな。」

そう言ってニヤリと笑う彼は、名をうちはサスケという。サボり癖のある彼は、皆に問題児といわれていた。だけど凡てにおいて優秀で、成績は入学してからずっと学年トップを維持している。万年学年2位の私は、いつも惨めな気持ちで彼を意識していた。彼はきっと私の名前すら知らないだろう。


「私、別にそんな風には‥」

「思ってないってか?嘘だな。」

ふぅと小さく息を吐き出し、彼は頬に手をついて呆れたような顔をした。

「優等生のフリも大変だな」

「違う!フリなんかじゃ‥」

「お前、ホントは不満だらけなんだろ。みんな消えちまえって思っていそうだ」

「っ、」

耳がいたい。
確かに私は不満だらけ。それを吐き出す強さもない臆病者だ。すべてが不満で、世界は滅んでしまえばいいとまで思っている。

「どうしてそう思ったの」

「あ?」

「私が、そういう考えだって」

尋ねてみれば、彼はカラカラと楽しそうに笑ってみせた。

「お前いつも、こっちまでつまらなくなりそうな顔してる」

その言葉に足がすくむ。堪らず俯いて、額に手を当てた。
私はずっと良い子でいなくちゃならなかった。それが私の存在意義だったし、脆い自尊心はそれによって保たれていた。なのに私は、優等生の皮すらちゃんと被れていなかったのか。


「貴方は自由?毎日、楽しい?」

自分には鉛が、彼には羽根がついているように見える。他人のことは誰にもわからない。実は逆だったということもあり得うるのだろう。それでも。

「私…貴方みたいになりたいわ」

呟くように言えば、彼は露骨に眉をしかめた。

「言っておくが、俺になったところで毎日楽しくはならないぞ」

「そうなの?」

「ああ。ただ、つまらなくもねぇけどな」

ふっと力を抜いた笑みを見て、私は思う。

「…やっぱり私、貴方みたいになりたい」

「本気か?」

「…本気」

「なら、叫んでみろよ」

「え?」

彼は立ち上がり、トン、と自身の胸元を叩いた。

「ここから叫んでみろ、春野サクラ」

私を見据える眼差しと視線が絡み合い、心臓がまたドクリと跳ね上がった。


黙れよ、心臓



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