(サク→サス)
サクラ独白。




幸せな夢は必ず終わり、目覚めた後の現実に私はいつも絶望する。

思い出のあの場所は温かくて冷たい。
その場所へ未だに赴くのは、有り得ないとわかりきっている希望にまだ期待して、夢を見ている証拠だ。私は夢を見ていたいのだ。幸せだった頃を思い出しながら、無知で無邪気で盲目的に生きられたあの時にすがりたいと思っている。そうしなければ、本当は立ってすらいられないから。


その日は朝からずっと雨だった。
何度か大きな雷が避雷針に落ちて、川は増水し、橋は埋もれかけていた。陽が暮れる頃にようやく小雨になったけれど、相変わらず降りやまない雨に同調するかのように私の気持ちは低迷し続けた。
こんな時でも辺りが闇に包まれると私の足は、日課になっているあの場所へ赴く。
レインコートを着て、人っ子ひとり出歩かない通りをのろのろとなぞった。脚を運んだ先のベンチに腰を下ろしてただ時間の経過に身を委ねる。お尻の下にはレインコートが敷いてあるので濡れる心配はない。けれど私の気分は、濡れた布が肌に貼り付くあの不快感以上に最悪だった。馬鹿みたいだと自嘲気味に笑う。彼はここを通らないとわかりきっているのに、私は毎日ここで待つ。毎日毎日。例えナルトやカカシ先生に止められたって聞く耳なんて持たずに、自ら望んで出ていった彼をこんな場所で待つのだ。
私は流れる涙を誤魔化すように顔を上げて雨に打たれた。瞼を閉じて、天を仰ぐ。冷たい雨が私を冷やし、脳が冴えていく感覚で一気に現実へと戻されてしまう。温かい涙と冷たい雨が交ざって流れて行った。やっぱりこの場所は、温かくて冷たい。
彼が出ていった日は綺麗な満月だった。綺麗な満月に照らされる彼の姿も綺麗で、どうしようもなく愛しいと思った。あの日、彼はどんな表情を見せていたか記憶を辿るが、思い出そうとする度に苦しくなって、いつも断念してきた。思い出せないのではなく、思い出さないのだと気付いたのは最近のことだ。
不意に空が見たくて目を開けた。
空が見たい。
空に浮かぶ、月が見たいと思う。
だけど、落ちてくる雫に邪魔をされて見えなかった。濁った空は私の心そのものだ。彼の顔を、月を、見ようとしても、今は何も見えない。願いは叶わない。

「会いたいよ、サスケくん」

バラバラに砕けた四人の結束はもう夢の中でしか叶わないのだろうか。
濡れた睫毛が重くてそっと瞼を閉じる。
閉じた瞼の裏に映った彼の顔は、この空のように泣いていた。



懐かしい苦しみの空

(この雨のように冷えた貴方が落ちてきたら、私の熱で、全身で、受け止めたいと思うのに。)

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