君の前では無敵
(明智親子と元親)
※光秀が少し変。
2万打記念感謝文





「良い湯なのじゃ〜!父上もそう思わぬか?」

「え、ええ…」



(どうしてこうなった…)



光秀は、浴場の端の端で目を閉じながら必死に記憶を辿っていた。



光秀は今、目に入れても痛くはない愛娘のガラシャと、目に入れたら確実に痛い元親と三人で何故か温泉に入っている。
娘と二人ならば良い。友人と二人でも良い。しかし今ここにいるのは二人ではない、三人なのだ。

(珠子が一緒に温泉へ行きたいと言ったから私は内心はしゃぎながら来たというのに、何故に元親殿が先客としておられるのだろうか…、気付けばいつの間にか私は二人のオマケみたいに…何故…)

光秀は口を湯に沈めてブクブクさせた。


「父上?どうかしたのか?」

「…ブクブク」

「もしや具合がよくないのか?」

「…ブクブク」

「父上!」

「ブクッ!」

心配そうに覗き込む愛娘に気付き、慌てて顔を上げる。

「そ、そんなことは‥」

「ならば、何故そんな隅っこで震えているのじゃ?」

首を傾げた愛娘に何と言って返そうか考えていると、傍で盆に浮かべたお猪口へ酌をしていた元親が口を開いた。

「光秀はきっと熱い湯が苦手なのだろう。以前、俺がたてた茶も熱いと言ってなかなか口にしようとしなかった。」

さらりと告げられたその言葉に、光秀の動きが止まる。

「も、元親殿…まだそれを根に持って‥」

「別に根に持っていない。言えばお前の面白い反応が見れるのではと思っただけだ」

「悪趣味ですよ‥!」

憤慨した光秀を宥めるように、元親は『まぁそう怒るな、光秀』と言ってから、杯を差し出した。
光秀は『要りません』と拒絶して、大きく息をつく。

「第一、猫舌だからといって体を浸ける湯まで温くなければならないはずがないでしょう」

「そうか」

「元親殿…」

「ほむ。なるほど!」

「珠子?」

「父上は猫舌だったのか!」

「し‥知らなかったのですか…?」

「ほむ!」

ショックを隠せない光秀を余所に、元親は今まで手にしていたお猪口を盆の上に置いた。

「上がる」

そう言うや否や、ザパーッという音と共に立ち上がる。

「なっ!!」

その瞬間、光秀は悲鳴をあげながらガラシャの目を手で覆った。

「父上?何も見えないのじゃ」

「貴女は見なくていいですよ!」

「どうした?光秀」

「どうしたじゃありませんよ!何を考えているのですか元親殿!!」

「何のことを言っているのかわからんが」

「馬鹿ですか貴方!ご自分の格好を御覧なさい!」

光秀はガラシャの目を覆っていない方の手で元親の体を指差した。元親はその指先へ視線を移す。

「格好…?俺はいま産まれたままの姿になっている。この上ない解放感だ。何かいけないのか?」

「頭おかしいんですか貴方!?年頃の娘の前で一糸纏わぬ全裸なんていけないに決まっているでしょう!手拭いか、せめて桶でもいいから何かなかったのですか!?」

「今更なにを言うかと思えば…お前と俺の仲ではないのか」

「は!?」

「そして俺とガラシャの仲だ。そうだろう?」

「ほむ!」

「な、なんですって…」

光秀はあり得ないものを見るような目で二人を見た。
突然目眩を感じ、同時にとてつもなく遠くなったような疎外感を感じる。

「元親殿…?珠子…?」

「わらわは元親の裸なんてもう何度も見ておるのじゃ!」

「今更だな」

「なんですってぇええ!!???」

絶叫しながら勢いよく立ち上がったせいで光秀の腰周りの手拭いがずり落ち、産まれたままの姿になった。この上ない解放感だったそうな。







(産まれたままの姿になって、何かいけないのですか?)


Fin..


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