(金しえ夫婦+八百造)
『志摩兄弟の誰かとしえみちゃんでギャグ甘』
京都府50代男性からの投稿。
こんにちは。
私は京都で悪魔なんかを祓いながら慎ましく生活している者です。
この度、深刻に悩んでいることがあり、この祓魔新聞人生相談欄にお便りを出させていただきました。
私には子供が7人おり、内5人は男です。
私の悩みの根源は、この4男のことです。
ここから話すことは先日あった出来事で、ほんの一例として捉えて聞いて下さい。
それは麗らかな昼下がり。
志摩家の庭で、無心に花びらを毟る息子(私の4男坊)がいた。
俺のパンツ。
投稿者・少子化に抗う俺。さん(仮名)
「金造さーん」
トタトタと廊下を駆ける音が響く。
「金造さーんどこですかー?」
「しえみちゃん。どないしたんや?」
「あ、お義父さん。」
向かい側から歩いてきたしえみが、私にペコリと挨拶をした。
彼女は問題の息子の妻で、礼儀正しく愛らしい女性だ。正直なところ、なぜうちの息子なんかを…他にいい人沢山いたやろうに…と何度思ったことかわからない。だが彼女はいつも花の咲いたような笑顔を振り撒き、我が家を明るくしてくれている皆の人気者で、私としては嫁いで来てくれて本当に良かったと思っている。
どうしたのかと尋ねると、彼女は『さっきから金造さんの姿がみえなくて‥。お義父さん、金造さんを見られませんでしたか』と聞いてきた。
「金造か?さっき庭でチラッと見たような‥」
「お庭でですか?」
「うむ。そういえばアイツが一人で庭に居るなんて珍しいなぁ‥しえみちゃんが居ん庭で何しとったんやろ‥」
「うーん‥お水をあげていたとか‥?」
「いや、なんかしゃがみ込んどったような‥」
「‥。」
「‥。」
「わ、私、見てきますね」
「わしも一緒に行く」
この時、俄かに嫌な予感がしたが、首を振って何処かへ飛ばした。
庭というのは、しえみが嫁いできてから私の妻と彼女が管理をしている場所で、以前より花の種類も増え整えられたそこは、今では美しいと近所で評判だった。私も菊なんかをちょっと世話したりしているので、しえみとよく一緒に庭で草花を弄っては、話に花を咲かせている。
渡り廊下を通り過ぎ、下駄を突っかけて外へ出ると庭はある。
その美しい庭の真ん中に、金髪の男がしゃがみ込んでいた。
この男こそ、私の四男、金造だ。
「あ!お義父さん。金造さん、チューリップのところにおられます」
「ホンマや、あないなとこにおったんか‥」
しえみが私を誘導し、二人で近付いて行く。
だが。
私はそこでギョッとして足を止めた。つられてしえみも足を止める。
「お義父さん?」
「し、しえみちゃん‥あいつ花に話し掛けとらんか?」
「え?」
私を見上げてからしえみが耳を傾ける動作をした。金造のぶつぶつと言っている声が聞こえたようで、『ホントだ…』と少し困惑した表情を浮かべて私を見た。
「何やってんのやアイツは…」
正直引いていた私だったが、しえみがまぁまぁと宥めてくれたので、更に近付いていくことにした。
距離を縮めると、段々と金造が何を言っているのかがハッキリとしてくる。
「好き。嫌い。好き。嫌い」
息子はチューリップの花びらをちぎりながら好きと嫌いを延々と繰り返していた。
「き…金造…」
「好き。好き、すき…って、おおおオトン!?」
私が呼びかけると、金造は驚いた表情を見せた後、慌てて手を後ろに隠した。チューリップの花びらがヒラヒラと落ちる。
「ななっ、何でしえみも!?」
驚愕しながら喚く金造に、私は、『何でって、しえみちゃんはな、お前を捜してはったんや』と説明した。
息子は『ど、どないしたんしえみ』と言いながらしえみを見た。
そういえば私も、どうして金造を捜していたのか聞いていなかったことを思い出し、しえみが話し出すのを待った。するとしえみは怖ず怖ずと『あの、用って程でもないのですが‥』と申し訳なさそうに零した。
「金造さんの下着を、お隣の猫ちゃんがくわえて逃げて行ってしまって‥」
「「…え!?」」
私と金造の声は見事に揃った。この時ばかりはやはり親子だなと少し嬉しくなったのだが…。
金造は酷く焦った様子で『どのパンツ!?』としえみに聞き返したのである。私は盗られてオッケーなパンツとダメなパンツがあるのだろうか…と少し興味が湧いた。
「あの…黒字で、その‥し、し‥しえみLOVEってプリントされた金色の‥」
(なんやそのパンツ、気持ち悪っ)
私は心の中で声にならない叫び声を上げた。
「マジでか‥」
金造はあからさまに肩を落として落ち込んだ。ダメなパンツ、略してダメパンだったのだろう。
「ご、ごめんなさい金造さん‥」
「なんでしえみが謝んの。」
私はそうだそうだと頷いた。
悪いのはしえみではなく、多分パンツをその辺に置いておいた息子なのだから。猫は意味もわからずくわえていったのだから仕方ない。というか気持ち悪いパンツ、略してキモパンをくわえてしまった猫はむしろ被害者だ。
私は、とりあえずお隣りさんに謝りに行こうかと言おうとしたのだが、金造がそれを遮った。
「別にええねんで。気にせんとってや。同じパンツあと5枚あるんやから」
(同じのあと5枚!?キモッ!!)
私は再び、声にならない叫びを上げた。
「金造さん…」
「しえみ…SU・KI」
「あのー‥一応パパおるんやけどー‥」
「オトン?ああ、せやったせやった」
「…。」
この時、涙で視界が滲んだのは言うまでもない。
私は気にしていないフリをして『ところでな、』と本題に入った。
「金造お前、ここで何しててんや」
「…それ、しえみの前で言わせるん?」
「?おお、当たり前やろが」
「金造さん?」
引き続けている私と不思議そうに首を傾げるしえみを、金造は顔を赤くして見比べた。
私は心の中で、
(息子の照れた顔キモ)
と思ったのだが、顔には出さなかった。
「花占いしててん」
「…は?」
「やから、花占いしててんや」
「…」
私は言葉を失った。
唖然としている私を他所に、息子夫婦は、
「あ、だから足元に花びらの山が出来ていたんですね」
「はは、せやでしえみ。正〜解」
「でも、チューリップって花びらの数決まってるから、何度やっても結果は同じですよ?」
「…あ。そんで全部嫌いになってたんか〜おかしい思たわーしえみが俺のこと嫌いなわけないもんな、堪〜忍」
と、うふふあははな会話を始めた。
「金造…オトンなんか疲れたし…部屋戻るわ」
私は額に手をあて、よろめきながらその場を後にした。
去り際に『オトン、ちょっと早いけど誕生日プレゼント箪笥ん中に置いといたし』と言われたが、私はちゃんとした返事も出来ないままフラフラと立ち去った。
部屋へと帰った私は『父親の誕生日間違っとる…』と息をつきながら、息子が言っていた箪笥に手をかけて勢いよく開けた。
そして、自分の目を疑った。
そこには『妻LOVE』とプリントされたパンツがぎっしりと入っていたのである。
息子がアホすぎて困っています…
どうすればいいですか。
解答者の意見
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ご相談頂きありがとうございます。息子さんはどうやらパンツの妖精に憑かれているようです。金造という名前をやめて、銀造、または銅造という名前にしてみては如何でしょうか?
(あのアホは銀造なら銀色に、銅造なら銅色に髪染めるやろうな…。)
「………」
私は無言のまま新聞をビリビリに破き、ごみ箱へ捨てた。