「なー、イルミ」 「ん?」 「恋人になるのってさ……やっぱり、資格とか必要だと思う?」 「……どういう意味?」 「や、そのまんまの意味だけど」 「それはもしかして、オレへの当てつけ?」 「え?」 「ハンター試験の時に、オレがキルとゴンにやったことを、まだ怒ってるの?」 「……まだ、っていうか、」 「オレは、兄弟には資格は要らないと思う」 「そうかな?」 「……何? 刺されたいの?」 「いや、滅相もございません! ……ただ」 「何?」 「ただ……イルミ、変」 「……何が?」 「俺が今、何が言いたいか分かる?」 「まぁ、大体は」 「だったら何で、止めてくれないの?」 「止めてほしいの?」 「いや、そういうわけじゃ……もう……はぁ」 「……ちょっと落ち着いたら?」 「落ち着けるか! ………………あのさ、イルミ」 「ん?」 「俺……もう、いい加減、この関係に飽きてるんだ」 「そうなんだ」 「友達と恋人の間くらいだよな。なぁ、お前の中で、俺の立ち位置ってどんなんなんだ?」 「……どんな、って言われても」 「俺はさ……俺の中のイルミは、おっきいよ、凄く。俺の人生の3分の2は占めてるね」 「……3分の2か」 「がっかりしない! ……それでさ、もし、イルミがよかったらなんだけど」 「何?」 「もうそろそろ……こんな、微妙な関係、やめたいんだよね」 何でもなかった。数日前の、俺たちの関係は。 敢えて名前を付ける必要すらないくらいの、紙切れのような絆だった。 実際、イルミはそれを求めていた。暗殺者は恨みを買う。恨みを買った時に、大切な人は隙になる。枷になる。 だから、俺と触れ合う時、いつも彼の手は戸惑ったように空をさ迷うのだ。 「……職業病とか、言わないよな」 「ん? 何が?」 「いや、別に何でも」 俺も怖い。この手を放してしまうのが。死と隣り合う以上、いつかその温もりをなくしてしまうことを、いつも覚悟しなければならないのだけど。 「――へへ」 「……何? 気持ち悪いんだけど」 「うわ、ひっど! それって恋人に言うことか?」 がばっと起き上がって言うと、イルミはばつの悪そうな表情をした。いや、実際には殆ど顔のパーツは動いていない。 そんな気がするだけだ。でも、そんな関係を築いてから、イルミの表情が徐々に見分けられるようになってきた。 「そうだった……忘れてた。オレとなまえは今、恋人状態にあるんだった」 「……忘れてほしくないんだけど」 その時、イルミは言った。オレはいつ死ぬか分からない、と。 俺は言ってやった。イルミなら、俺が望むだけ死なないでいられる筈だ、と。 「それよりさ……イルミって、意外と表情豊かだよな」 「そう?」 「うん」 「初めて言われた」 だろうな。 「だって、見てれば分かる。こんなに近くに居るし」 あ、今、ちょっと照れた感じですね。分かります。 可愛い、と笑って、イルミの上にのしかかる。 肌を触れ合わせ、唇をねだった。 「なぁ、イルミ」 「――イル」 「ん?」 「そう呼んで」 俺は、至近距離でイルミの黒の瞳を見つめる。それは真っ暗で、今にも吸い込まれてしまいそうだった。 「……イル?」 「そう」 「なんか恥ずかしいな……イルがねだるの、珍しいな」 笑いながら言うと、なまえのせいだから、と言われる。 「へっ?」 「オレにそんな事言わせるなんて、なまえが初めてだから。全部、なまえが悪い」 「……あー、はいはい、そうですか」 そんなこと言われたの、初めてだ。というか、イルミが子供っぽい。 初めて見るその表情に、俺は小さく笑った。 「……何?」 「大好きだよ、イル」 キスをしながら言うと、オレは愛してる、なんて暗殺者にあるまじき言葉が返ってきた。 (それが、嘘だっていい) (まだ真実だと信じていられるから) (……でも、またいつか、) (愛の言葉を囁く時が来るなら) (その時もどうか、) (俺のせいにしてほしい) |