処刑台の上は、風が結構冷たいものだ。それを知ったのは、今日。自分の剣を、お前の首を落とすために抜いた日だった。 久方ぶりに実際に見た(それまでは記事や噂で聞くだけだった)幼なじみは、ひどく傷だらけだった。俺と目が合い、そして驚いたような、或いは絶望のような色を浮かべて目を逸らす。 俺も、何も言わずに目を逸らした。 俺には正義があって、これは譲れるものじゃない。お前の入れ墨と同じさ。だからといってお前が嫌いなわけじゃない。好きだった、大好きだった。それでも譲れないものがあったんだ。いつかこんな日が来ると知っていて、お前が海賊になったと知っていて、俺は海軍のコートを羽織った。 ああ、処刑台の上はいやに寒い。青雉の大将の所為だろうか。うちの大将のそばなら温かそうなものなんだけど。 そういえば、エース、お前の手はいつだって暖かかった。今はもう、冷たいんだろうな。 眼下に広がる光景。彼の腹にぽっかりと空いた穴は、まるで俺の心を象徴しているようで。くそやろう、と小さく呟いて俺は剣を構えた。 なあ、エース。俺とお前は海軍だけど幼なじみで、それでも敵同士で、それでも俺はお前が好きで、だけどこの正義は譲れなくて。頑固なのは変わらねーな、というお前の声が聞こえた気がして、太陽のように笑うお前が見えた気がして、俺は目を拭った。 海軍、海賊、敵同士。お互い覚悟を決めてたんだ。だけどさ、 「じゃあな、エース」 せめて泣くぐらいは、許してくれな。 苦しみも飲み込んで |