季節の中で僕は一番冬が好きだった。寒いけれど、隣に大好きな人が居て、手をつないで抱きしめて、相手の温かさを沢山感じられるから。 吐息が白く染まり、そして雪が降ってはしゃいで遊ぶ。ジェームズとシリウス、リーマスとピーターと…雪合戦をしたり、楽しいことばかりの冬が好きだった。 そんな冬が、僕は好きだった。 「結婚、するんだってね」 静かに微笑みながら、僕はジェームズに語りかける。ジェームズは途端に目を逸らし、唇を噛んだ。 舞い落ちる雪をちらりと見て、そして小さく彼は呟いた。 「うん、知ってるだろうけど。…リリーと、結婚するんだ」 彼の言葉は震えていて、そして静かすぎる二人の空間に溶けて、消えた。 僕は笑みを絶やさないように気を付けて、そっとジェームズを抱き寄せた。 結婚すると言っても、まだ…していないのだから、これぐらいは許されるかなと強く抱きしめる。 「、…ごめん」 「どうして謝るの?…君は幸せになるんだ。それを止める権利なんて、僕にはない」 ジェームズは顔を上げて、迷いを含んだ目で僕を見つめ、そうしてしばらく動かなかった。動けなかったのかもしれない。 ただ、心を読むことなんてできない僕にはわからないけれど。 「君は、どうも思わないの?」 「……ジェームズ、」 君が僕に別れを告げる側なのに、その質問は…ずるいよ。 ジェームズが僕のことを好きだと言ってくれたのは…今からもう過去の話になるのに。 「…正直言って、苦しい、かな」 「っ!」 絶やさずにいようと決めていた微笑みを崩し、表情を無にした…笑えない。彼を抱きしめていた腕を緩めて言うと、彼は息を呑んだ。 そんな悲しそうな顔、しないでよ。もうすぐ幸せになる君が悲しそうな顔したら、僕はどんな顔をすればいいのかわからないじゃないか。 ねぇ…ジェームズ、僕のことはもういいから……早く幸せそうな顔を見せてよ。幸せになると決めたなら、そんな顔、しないでくれ。 「ジェームズ…好き、だったよ」 彼は僕の言葉に目を見開き、そして何も言えず僕を見ていた。 僕は気に留めない様子で言葉を続ける。そっと、優しく頭を撫でると…彼の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。 「だからさ、幸せになると決めたなら…何も気にせず幸せになりなよ」 「そ…な、こと、出来る訳・・」 言いかけた唇を自分のそれで塞いで、そして微笑んだ。 「ごめんね、ジェームズ…ありがとう」 そして…いつまでも愛することをどうか許して。 最後に骨が軋むくらいに強く彼を抱きしめて、口付ける。 腕をするりと離した後、彼は確かに泣いていて、だけど…僕は柔らかく微笑んだ。 「結婚式には…」 呼ばなくていいから、そう言おうとした僕の言葉を遮り、ジェームズは涙を拭った。 「呼ぶよ、…幸せ過ぎるくらい幸せなとこ、見せてあげるし」 「…そーこなくっちゃ」 お互いにやりと笑い合って、抱き合って、…手を振ってさよなら。 よかった、悲しい別れにならなくて。少しでも僕が、彼の中で良い思い出になるように。 僕は消えてゆく後姿をいつまでも見送りながら、柔らかく微笑んだ。自分の中でも、彼を良い思い出にできるように。 結婚式での彼はとても幸せそうで、隣で美しく笑うリリーととてもお似合いだった。 花嫁が投げたブーケは僕の手の中にすっぽりと収まり、僕や隣にいたシリウスやリーマス、ピーターは笑った。 招待されていた女の子達の視線はかなり痛かったけど、ジェームズ達が幸せそうに笑っていたから、いいや。 彼が幸せそうで、僕も嬉しかった。 だけど、彼の幸せは長く続かなかった。 「え…ジェームズが……、」 「…リリーと、一緒に……殺された」 「………うそ、だ」 ジェームズは殺された。誰に殺されただなんて僕には関係ない。彼が死んだ、…それだけが僕を支配した。幸せになるとわらった彼が、あっけなく、死んだ。 タチの悪い冗談にも程があると笑い飛ばそうとした、だけど…リーマスの真剣で悲痛な顔をみたら、信じるしかなかった。 「彼らの子供だけは、助かったらしい」 「………ハリーだけが。…でもそんなの」 どうでもよかった あんなにも愛した彼が死んだ。幸せすぎるくらい幸せになるところを見せてやるといつものように笑った彼が死んだ。愛した女性と共に。 僕はリリーが羨ましかった。…彼に必要とされ、最期に愛された。愛された彼女は、きっと幸せだっただろう。 彼は幸せになれたのだろうか?愛した人と共に、死ねることは彼にとって喜びに値することだろうか。息子を残して死ぬことは辛かっただろうか。酷く、苦しいことだっただろうか。 僕はわからない 彼は本当に幸せになれたのか 彼の最期を知るのは、きっと他でもない、最期まで愛された彼女だけなのだから |