作品 | ナノ




※死ネタ



綺麗だなぁ。と、流れる涙を見ながら思った。


「騙したの?」

「いいや」


道化染みた動作で肩を竦めて見せた。何千回と作りなれた笑顔を浮かべた。


「裏切ったんだ」

「予定調和さ」


初めからこういう目的だった。そう言うと、綱吉は潤んだ瞳でこちらを睨んだ。"怒"より"哀"を滲ませた目。ホント、こいつは甘いな。


綱吉の目から伝う涙が服に落ち、スーツに染みを作る。


聞こえるもの。
悲鳴。銃声。怒声。雨音。落雷。
火の手は迫っている、急がないと。


「どうして…?」

「"どうして"?裏切る為に近付いた人間に、何が聞きたい」


嘲る様に笑う。
伝う雫。電灯の光りに照らされて光って見える。
……同じヒトゴロシの涙でも、たぶん綱吉の方が綺麗なんだろうな。なんて馬鹿なことを考えた。


一歩近付く。終わらせる為に。
一歩後退る。見たくないから?

温い鬼ごっこは、何歩目かで綱吉が転け、尻餅をついたことで簡単に距離を縮められた。綱吉ってホント、ドジだよな。普通こんな場面で転けるかよ。


「…なまえ……」

「なんだ?綱吉」


"前"みたいに答えてやると、綱吉が更に顔を歪めた。


「言葉も、嘘だったの……?」


何も答えない。
答えられない。

瞬間、頭の中に廻る想い出。
(「話ってなんだ?」「えっと…その、お、おれ……なまえの、ことが……うあああっやっぱり何でもない!!」「……ぷっ変なヤツ」)(「よっ待ったか?」「うっううん!今来たところだから!大丈夫!」「そうか。……ん?どうかしたか?」「えっ?…あ、いやその……かっこいいなあって」「…!」)(「なまえ!やばい遅刻だよ!咬み殺される…!」「だぁいじょぶだって」「いやいや大丈夫じゃないから…!」「お前は俺が守ってやるから」「…!?」「はは、綱吉顔真っ赤」)(「…どうしよう…リボーンに怒られる…!」「また課題忘れたのか…しょうがねえな、手伝ってやるよ」「!ありがとうなまえ、いやなまえ様!」「現金な奴め」)(「どうしたの?」「……んでもねえ」「…そっか…。…俺、あんまり役に立てないかもしれないけど、いつでも相談にのるから」)(「…へへ、幸せだ」「…何だよ急に」「いや、何となく」「…こっ恥ずかしい奴め」)(「ねぇ、一緒にいてくれるよね…?」「あ?…当たり前だろ、離してなんかやんねえから」)

(「なまえ、大好きだよ」「…ばーか、俺のが好きだし」)



気持ち。感情。
過去。追憶。想い出。
笑った顔。泣いた顔。焦った顔。拗ねた顔。怒った顔。

何一つ、忘れてない。


「…馬鹿だなぁ、」


カチャリ。銃を構えた。絶望を浮かべる大きな目には、歪つな笑顔を浮かべた俺が映っていた。


「……ホント、馬鹿だ」


ドォンッ…!
一発の銃声なんか、この騒ぎに紛れて聞こえはしないだろう。膝から崩れ落ちる、寸前に綱吉によって庇われた。


「…なん…なんで…?」

「…うそ、に…」


顔を見上げた。
綱吉は泣いている
…綺麗だ。その辺の宝石よりは断然綺麗だと、伝う雫を見つめながら俺は思った。
顔に、涙が落ちた。


「……できたら、よかったのになあ…」


そうしたらお前は俺を憎めただろう?忘れられただろう?


「ごめんなぁ…」


こんな俺でも、精一杯に愛してしまったよ。(だからお前に忘れられることが恐くてお前の心に傷を付けて逝きたい。そうすれば忘れられないだろう?)

傷口を押さえる綱吉の手が血に染まる。雨の様に降り注ぐ雫は、霞む視界できらきらしてみえた。


(綺麗、だなぁ……)


「あいしてたよ、つなよし」




さよなら。









(君が流してくれた宝石を抱いて)(死に逝く俺を許さないで下さい)(…忘れないで、下さい)

(酷い人を好きになりました)(意地悪で嘘つきで意地っ張りで、少しだけ優しい卑怯者です)(全部嘘だったとぐちゃぐちゃにした癖に)(言葉は嘘にしてくれなかったんです)(全部全部、嘘だったって笑ってくれたら俺は憎めたのに)(最後に大きな傷を付けて彼は死んでしまいました)(本当に卑怯な奴です)(彼を忘れるなんて、出来るわけなかったのに)(きらいになれたら、よかったのに)


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