作品 | ナノ





注)死ネタ
―――


あの我儘な男を、数馬は心底好いていました。

ああ言えばこう言って、口から出る言葉は酷く棘だらけ。くさって捻じ曲がっていつだって不機嫌で、嫌われ者のみょうじなまえという男が、大好きでした。
みんな忘れているのです。なまえは最初からこんな捻くれ者だったわけじゃありません。
入学したばかりの頃、置いて行かれた忘れられたと泣く数馬の頭を、困った顔をして何度も撫でて、「泣いてないで、今から走れば追いつくさ。俺も一緒にいってやるから」と慰めたのはなまえでした。
何度も何度も手を繋いで、何度も何度も数馬の名を呼んでくれました。
優しい優しい子供でした。とっても優しい眼をした、不器用な子供でした。

長期休暇毎に、なまえの眼は荒んで言葉は冷たくなって行きました。
その理由を問うても、返って来るのは棘だらけの言葉だったので、だぁれもなまえの事を心配しなくなりました。


ほんとはね、ちょっとだけ、それがうれしかったのです。
内緒内緒の秘め事ですよ。
だってこうなったら、なまえが優しいって事を知っているのは数馬だけになります。
綺麗な宝物を、こっそり隠しているような、そんな気持ちでした。


なまえはあまり身体が丈夫ではないので、よく医務室で寝込んでいます。
身体を拭いて額に濡らした手拭いを置いてあげて、甲斐甲斐しく世話を焼く数馬にも#nane#は辛辣でした。恩知らずだなんて陰口を言われても馬耳東風。数馬も何も気にせず、なまえの世話を焼き続けました。だって見返りなんてはじめから求めていなかったのです。
保健委員の仕事に、ちょっとだけ私情が混じっただけの事。好きな人には特別優しくしたいだなんて、当たり前でしょう。






「…あのさあ」
「なに?」

寝ずの番の日、またいつものように熱を出して医務室で寝かされたなまえが、衝立の向こうで言いにくそうに声を出しました。




「いつもさ、…ありがとな」




絞り出したかのようなその言葉が、意外で。ぶっきらぼうなソレが、照れ隠しだとわかりやすすぎて。「えー?聞こえない、もう一回言ってよ」そう言い返しました。うるせえ寝てるんだ邪魔するなと怒鳴り声が返ってきて、愛おしくて笑えました。


それがまともに話した、なまえとの最期の会話です。



元から体が弱くて、一年の夏休みにはあともう少ししか生きられないと医者に告げられていたそうです。学園にもいられないほどひどい状態だったのを、意地になって無理をしていたそうです。
ええ、知っていました。
言葉では伝えられなかったけど、誰よりもなまえを見ていた数馬はわかっていました。



どうせなら最期を看取りたかったのに、なまえと来たら昼寝のふりをして彼岸に行ってしまいました。まったくもって、酷いやつです。





さいごのさいごで欲しかった言葉を押し付けて、忘れさせてくれなくしてくれた。
あの狡い男を、数馬は心底好いています。きっと、彼岸の向こうでまた会う日にも。


back








「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -