たった3人の生徒会に、メンバーが増える事は無い。各委員会の委員長が助っ人の様な形で作業に関わる事はあるけれど、一時的なもので常任というわけではない。それでも普段の活動だけならば何の問題も無い。なんとか回っているのだけど…イベントの時にはさすがに厳しい。体育祭のよつな生徒会の関与が比較的少ないイベントですら昨年は泊まり込みだったと聞いている。


「じゃあ、そういう事で明日からよろしく。」

「はい。」

「…ちょっと待って。この予定表だと、あなたは一週間泊まるということなのだけど?」

「えぇ、そうですけど?」


濃先輩の質問に、だからどうしたとでも言いたげに竹中が答えた。学園祭まで残り1週間。これまで、私達が最終下校時刻に帰れた事は一度も無い。もとより全校生徒1千人近い人数を取りまとめるのに、たった3人で動いてどうこうできるはずが無いのだ。竹中は帰れる日は帰ると言うけれど、帰れる日があるとは思えない。生徒会室の固い椅子で眠って、クラブ棟のシャワーを使って、そんな生活を1週間も続けて働き続けて、体を壊さないはずがない。


「仮にも女性をこんな所に泊まらせるわけには行きません。その代わりしばらく早朝の登校と下校時刻が遅くなりますがお願いします。」

「…えぇ。」

「わかったー。」


竹中の反論を認めない笑顔に思わず濃先輩と顔を見合わせた。あぁやって言い切ってしまう時の竹中には何を言っても無駄だ。私も先輩もそれをよく知っているから、もう何も言わなかった。ただお互いに頭に描いたのはいつもの作業ペースを倍にするつもりで働く事だった。

学園祭本番が近付いてくると、飲食を除く大半の仕事が片付いてくる。竹中の様子と言えば先週とさして変わってはいないように見えた。だけど表情や言葉の厳しさからここ数日のストレスは推し量れる。


「君たちは…バスケ部だね?どうしてここに屋台が?」

「あ、えっと…それは…」

「場所は決められているはずだよね?即座にこちらが指定した場所に戻るように。」


書類の確認をして欲しくて竹中を探せば、中庭で揉めている場に遭遇した。そこでようやく思い出した。竹中のストレスは言葉に出るってこと。すぐに濃先輩を呼んで二人の中に割って入る。女が一人でどうこうできるはずがない。でも、濃先輩さえ来てくれれば…


「…!竹中!歯食いしばって!」

「は?どうし……」


バシッという音に周囲がシンと静まり返った。冷やかしに来ていた観衆も、静観するだけだった教師も、事の発端だったバスケ部員も。その場にいた私と濃先輩以外の全員が凍りついた。学校中、それも教師すら恐れる生徒会長に平手打ちができるのは、おそらく濃先輩ぐらいのものだ。


「貴方、馬鹿じゃないの?私たちでこの後のパトロールを済ませるから巡回表を渡しなさい。」

「なっ…」

「竹中は私達がいいって言うまで生徒会室で仮眠を取ること!いい?」

「邪魔だから早く行きなさい。」

「…はい。じゃあ、後はお願いします。」


濃先輩の物言いには、バスケ部の面々も竹中ですら呆然としていた。迫力美人な濃先輩の命令に逆らえる人はいない。それがたとえ絶対的な権力を持つ生徒会長であったとしても。
濃先輩と一緒にバスケ部の話を片付け、別々に巡回に回った。提出した書類に記載されていない食材を使おうとしていた屋台や、ゴミの処理のなっていない屋台なんかを取り締まりながら校内を歩く。ふと気が付けばもう2時間はそうしていた。私は没収した荷物を一度置きに生徒会室に戻った。


「…なんだ、君か。」

「竹中。…ちゃんと寝た?」

「おかげさまで。君が入って来たお陰で目が覚めたよ。」


並べた椅子の上で寝ていたのか、背中を痛そうに撫でる竹中を横目に、机にドカッと荷物を下ろした。本当に寝ていたのかは怪しいけれど、少し気だるそうな竹中は寝起きにしか見えない。仕事ならこの部屋にも山ほどあるけれど、そんな中濃先輩の一言で大人しく眠るなんてどれほど可愛らしいことか。


「私達だって生徒会なんだから学校にいる時ぐらい頼ればいいのに。」

「一人でやった方が状況が把握できていいんだよ。」

「あのねぇ…根詰めてやったって効率悪いよ!ほんっとに馬鹿じゃないの!?」

そう言った所で、タイミング良くチャイムが鳴った。竹中はまたさっきみたいに呆然としていたけれど、知ったことじゃない。仲間が馬鹿だと思ったから馬鹿だと言った。ただそれだけ。私は竹中を置いて必要な書類を持って部屋を出ようとした。


「さて、僕もそろそろ行こうかな」

「ダメ!濃先輩の許可が下りるまで竹中は寝てなさい!」

「くすっはいはい。…ありがとう。一応、お礼は言っておくよ。」

「…っ、お礼なんかどうでもいいから今度からちゃんと周りにも仕事回してね!」


今まで一緒に仕事をしてきて、初めて竹中が優しく微笑むから危うく書類を散らしそうになった。ありがとうと言われるのは初めてじゃないのに、今までとは違って心から言われたような気がして。




うましかもの
 頼りない私だけど



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休憩様に提出!


written by 凪 (hp)




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