〆切がやばい。だけど頭には何の言葉も浮かばない。浮かぶものは、お腹が空いただとか眠いだとか、そんな言葉だけ。
季刊誌は漫画研究会と一緒になって以来、大半が漫画になってしまった。漫画が悪いとは思わないし、私は漫画も好きだ。ただ、活字の方がより好きなだけ。
読んでいる人も少ない季刊誌に、読みやすさを意識して書くような人はいない。ただ自分の書きたい物を書きたいように書く。もちろん私も考えた事なんてない。そんな小学生の文集のような季刊誌に対して創作意欲が湧くような青春はしていない。だから私は、いつも頭を抱え込む。

「もうそんな季節か…。お前の場所と頭の悩ませ方で季節が分かる…お前は昔の日時計のようだな。」
「私で季節を感じないで。分析しないで。理論付けないで。」

この男が来た事で、眠いから鬱陶しいへと脳内に浮かぶ言葉が自然とシフトする。浮かぶ言葉が変わっても、どのみちどう頑張っても何かのストーリーに繋がる気はしない。

「今回は何割が漫画になるんだ?」
「7割。多分ね。」「3割も文芸が占める自信があるのか。」
「…私一人で1割取ってやる。」
「ふ…まぁ、頑張ってみろ。」

自信を持って言えるのは、季刊誌に投稿する文芸部員は前回より減るということ。元々の人数が少ないために、更に減ってしまっては薄くなるしかない。最近はライトノベルのようなものも増えてきた。ただ純文学を読みたいなら、図書室にある本でも読んでいる方がよほど有意義だ。…だけど、私はそれじゃ満足出来ないんだ。

「次はどういった物を書くんだ?」
「誰が?部長は前の続編って言ってたよ。」
「お前に聞いているんだ。」
「現状をからかっておきながらよく言うよ。」

プロットを書くために広げたノートには一つの汚れも見当たらない。ただ数日後の日付が赤く記されているだけ。このノートを堂々と見ておきながらそんな疑問を平然と投げかけられる柳蓮二には、やはり虫酸が走る。
柳蓮二に腹が立つ事、苛立つ事なんて常時の話だ。だけどこの男は校内でも数少ない季刊誌の読者で、各部の予算において絶対的な権力を持つ生徒会会計。万が一逆らって季刊誌が発行出来なくなっては元も子もない。だから私も、強く出る訳にはいかない。

「難しく考えずとも、お前の書きたいように書けばいいと思うが。」
「残念ながら私の書きたい物が分からないの。」
「そうか、それは確かに残念だな。お前の言葉遊びは好きなんだが。」

以前から彼が私を誉めている事には気づいている。彼が季刊誌の中で私の作品を一番気に入ってくれている事も知っている。からかうフリをして、書きかけの原稿を先に読もうとしてくれているのも知っている。彼は、優しい男だ。

「あ、そうか。」
「ん?どうした。閃いた、か?」
「うん。この状況をそのまま小説にしちゃおうかなって。」
「それは…純文学なのか?」
「純粋な気持ちで言葉を並べるからある意味では純文学なの。」
「ふっ、見事な屁理屈だ。」

日記にならないように多少のフィクションを交えながら、今の自分を描いてみるのも面白いかもしれない。おそらく完成しても彼の気に入ってくれるような素晴らしい作品にはならないだろう。彼の好きなタイプの作品とは程遠いものになるだろう。
だけどどういう訳か、彼ならば“面白かった”と感想をくれるような気がする。他の誰が批判をしようとも、彼だけは誉めてくれるような気がする。これは、自惚れすぎなんだろうか?

「完成したら、読ませてあげる。」
「あぁ。楽しみにしているよ。」


物書きのすすめ
 大事なのは発想の転換

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written by 凪 (hp)
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