短編 | ナノ
ホット・アイスクリーム
人気者ってよく分からない。学校の中心にいるような奴っていうのは、やっぱり思考回路が普通じゃないのかもしれない。
「…暑い。うざい。離れろ」
「嫌。嫌だ」
でなきゃこんな、男なんかに堂々とくっつかないし甘えたりしない。まして───
「だって好きなんだよ、池田が」
───男に告白なんて、するはずがない。
*
俺は結構淡白な人間だと思う。そのせいか、よく他人には「冷めてる」とも言われる。友達もそんなに多い方じゃないし、騒ぐこともあまり好きではない。クラスでも大人しいし(というかあんまり授業出ないから分からない)、人気者とは程遠い奴だとは思う。
だけど、この学校の王子様とも言われる千早は違う。千早はいつでもみんなの中心だし、男友達も女友達もたくさんいる。ファンクラブもある。先生にだって気に入られてる。まさしく俺とは正反対、芸能人みたいな奴だった。
でも、まさか、そんな俺とは全く接点のない、無縁な奴が俺に告白してきたなんて、誰が信じるんだろうか。
「池田は、冷たいよね」
晴れ渡る空の下。普段使われない屋上でいつものようにサボっていると、見計らったかのように千早がやってきた。あの日の告白から、もう1ヶ月が経つ。俺は千早をフったはずだった。だけど千早は、めげずに毎日やってくる。
「…べつに」
極力話したくなくて、ぶっきらぼうに言う。それでも千早は笑った。
「でも、いつも屋上にいるよね。おれが来ること、分かってるのに」
「…変えるの面倒だから」
「うん。分かってる。ありがとう」
なにが分かってる、だよ。ありがとうなんて言われるようなことはしていない。やっぱり人気者は、よく分からない。
「いーのかよ」
「え?」
「女子。探してんじゃねーの」
俺ばっかりに構ってるコイツは、少しファンクラブの女子ことも考えていいと思う。俺だって暇じゃないし、イケメンに構われても嬉しくない。
「いいよ、べつに」
千早は寝そべる俺の隣りに座り、あぐらをかいた。
「池田と一緒にいたいから」
「…」
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