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ゆめが訪れたのは生徒会室だった。
「しっつれーい。」
ガラリと戸を開ける。
そして思わずゆめは仰け反る。
「(うわあ…、)」
そこにはおおよそ生徒会室の雰囲気には似合わない女子の群れがあった。
いかにも今どきの女子高生、だ。
スカート丈は短くブラウスは第二ボタンまで開けるというかなり大胆な格好。
今ここに風紀か生徒指導の教師がいたら彼女達は間違いなく反省文を書かされるだろう。
「あら、ゆめ。」
「こんにちは小南先輩。」
「こんにちは、イタチに用かしら。」
「あー、えっと…用って程のもんでもないっていうか…そもそもあの状況じゃ無理っていうか…。」
「…ごめんなさいね。」
「え、あ、いやいや!小南先輩は悪くないですよ!」
申し訳なさそうに言われゆめは慌てて訂正した。
「人気者も苦労するわね。」
「…まァあれだけ揃ってる獲物を女子がほっとく訳ないですよね。」
「ゆめも?」
「私なんかにイタチは勿体ないですよ。」
女子の群れの中心で黙々と仕事をこなしつつ、適当に女子達の会話に相槌を打っているイタチを眺める。
いつか倒れたりしないか、それだけが気がかりだ。
「…って、そういえばペイン先輩はどうしたんです?今日はご一緒じゃないんですか?」
2人は常に、と言っていい程一緒に行動している。
仲が良いとかそうゆう次元ではなく、最早夫婦といっても過言ではない。
それなのに今日はペインがいなかった。
それを訊ねると小南は若干顔を曇らせながらあるところに視線をやった。
ゆめもそれに続く。
「……うあちゃー…ペイン先輩もなかなか人気ありますね。」
「……………。」
イタチ程ではないかもう1つ女子の集団があった。
そしてその中心には小南の恋人であるペインがやや困った顔をしながら仕事をこなしていた。
「あ、ああでもほら!ペイン先輩、全然なびいていないじゃないですか!やっぱこれは小南先輩一筋だからですかね!」
「…当然よ、ペインは私のもので私はペインのものなんだから。」
少し拗ねたように言う小南に不覚にもときめいてしまったゆめ。
彼女も彼女で、ファンがいるということを理解しているのだろうか。
いや、きっとしていないだろう。
「はは…な、なんか聞いてて恥ずかしくなりましたそれ…。」
「?そうかしら、事実を言ったまでよ。ペインは私以外の女の子には絶対なびかない自信と確信があるもの。」
「…ペイン先輩小南先輩にベタ惚れですねー、やっぱり毎日好き、とか愛してる、とか言ってるんですか?」
「お互い確かめ合わなくても相手のことは1番よく分かってる。だからそんなこと言う必要はないわ。」
「(この2人すげえ。もうカップルじゃないし熟年夫婦並みの恋愛してる。)」
大人過ぎる2人の恋愛事情にゆめはただただ感心するばかりだった。
それと同時に羨む気持ちが芽生える。
「(…いいな、先輩は。)」
なにも言わなくとも気持ちが通じ合うことができて。
なにもしなくても相手のことが分かり合えて。
それが心から愛している者が相手ならばなおさら羨ましく思った。
「ゆめ?どうしたの?」
小南がゆめの顔を覗き込む。
ゆめはハッ、として慌てて笑顔を繕う。
「や、なんでもないです。」
「大丈夫?」
「はい。そろそろ私行きますね、イタチは立て込んでいるみたいですし。」
「用件なら伝えておくわよ?」
「あ、いえいえそんなに大したもんじゃないですし。」
ただ絵のモデルになって欲しかった、ということだけだったので伝えるのは遠慮した。
「そう?じゃあまたいつでもいらっしゃい。」
「はーい。」
小南に別れを告げるとゆめはまた違う場所に足を運んだ。
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