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チュンチュン、と鳥の鳴き声がしたのでもう朝なのか、と頭の中で理解した。
ベッドからもぞもぞと上半身を起こして、カーテンの隙間から差し込む朝日に目が眩んだ。
「(…今日、入学式…)」
面倒だな。
サボりたい。
でも角都怖いしな。
まだ覚醒してない頭であれこれ考えながらベッドから出た。
「(朝は…鮭でいいか。)」
私の朝はまず洗顔してから。
そのあと着替えて洗濯機を回す。
からの朝食作り。
朝食が終わったら準備してゴミを纏める。あ、でも今日はゴミ出しの日じゃないから違うか。
まァそんなこんなで色々忙しい。
「お早うゆめ、やはりお主は早起きじゃのう。」
チヨバアが客間から出てきた。
既に身支度も完了していたらしく、服装もきちっとしてる。
「おはよチヨバア。」
「うむ、朝食も美味そうじゃの…もうサソリの嫁になって我が家に戻ったらどうじゃ?」
「朝からなんつー話持ち込んでんの…。」
「割と本気ぞ?」
いつも通り豪快に笑うチヨバアは本日も通常運転らしい。
納豆に卵を入れてかき混ぜながら苦笑した。
「サソリはまだなのか?」
チヨバアが椅子に腰かけながら問う。
「うん。」
「あやつめ…自分の入学式だというのに暢気なものじゃな。」
あいつはチヨバアの血を引いているくせしてかなりの低血圧だ。
寝起きも悪いし寝つきも悪い。
起きたときなんか機嫌が最高に悪く、数回本気で殺されかけた。チヨバアが荒療治ではあったが止めてくれたから…まァ良かったけど。
「私、絶対起こしに行かないからね。」
「…ゆめ、頼む。ワシではもうどうしようもないのじゃ、最近反抗が激しくてのう…。」
「だってあいつそこら辺のもん投げ飛ばすわ、関節技キメるわ、首は締めるわ…もう散々だよ。」
一緒に暮らしていた頃のことがフラッシュバックする。
鳥肌立ってきた。
「ほっとけばそのうち来るでしょ。」
「さすがに入学式で遅刻はまずいじゃろう、もうそろそろ起こさねば…。」
「ほら見てこの腕の痛々しい傷。これね、あのバカが寝ぼけて鋏投げてきたんだよ。辛うじて避けたからこの程度で済んだけど。」
「…それは初耳じゃな。」
「言ってないもん。」
捲り上げたワイシャツを元に戻す。
ほんの小さな、5cm程の小さな傷だけどマジであれは人生終了のお知らせなのかと思った。怖かった。
「頼まれてはくれんかの、ゆめ。」
「丁重にお断り致します。」
「…どうしてもダメか?」
「ダメというか怖い。無理。」
今度こそ死ぬ気がする。
なんかカッターとか飛んできそう、やばい想像できてしまうダメだこれ。
「…ふむ、ちょうど貰ったケーキがあったんじゃがのう…。」
ピク、と言葉に反応する。
…ちょ、ちょっと待て。
「つい先日いくつかの財閥が集まって懇談会があっての、そのときに風影も来ておったのじゃ。」
「風影…あァ、風影社長か。」
「覚えておったか…そやつがお前にと有名なケーキ店の箱を渡されたんじゃが…。」
「……………。」
「まァいいんじゃぞ、そんなに言うならばこのあれは他の者にやっても…」
「う、うぐ…っ!」
ちくしょう卑怯だチヨバアめ…!
風影社長…彼は若くしてとある財閥のトップで有名な人だ。そんな人から私は昔から可愛がってもらっている。
あの人からの差し入れとか絶対美味しいに決まってる。しかもケーキなんて私の好物じゃないか。
ニヤニヤしてるチヨバアの顔が恨めしい。
でもさすがあのバカの親族なだけはある。
そうやって人の弱味とか弱点につけ込むところなんかがそっくりだ。
「…じゃあもう分かったよ、少し様子見て来るから先に食べ…、」
言いかけたところで階段を降りる音がした。
眠り姫ならぬ、眠り王子のお目覚めらしい。
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