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『…泣かないで、サソリ。』
『っく、ひく…っ、』
『おじさんとおばさんも、サソリが泣いてたらきっと悲しむよ、だから、』
『と、さまっ…かあ、さまぁっ…。』
『…サソリ……。』
どうしたって泣き止んではくれなかった。
まだ幼く無力な自分に腹が立った。
『父さ、まっ、母様っ…、』
『……………。』
『どうしてっ…ぼくを残して…、』
不慮な事故だった。
車同士の衝突事故。
不幸なことに、相手はダンプカーだった。
サソリのご両親は重体で助かる見込みはないと言われた。
そのときから既にサソリは大粒の涙をポロポロ零していた。
数時間後、サソリのご両親は私とサソリ、チヨバアに看取られて逝ってしまった。
不思議と苦痛に歪む顔をしていなかったことは鮮明に覚えている。
しかし、まだ6歳の子供にとって両親の死を受け止めるには荷が重過ぎた。
『……サソリ…。』
『…っ、ゆめ、ちゃん。』
不意に名前を呼ばれる。
サソリの頬を伝う涙を拭いながら、私はサソリの顔を覗き込んだ。
『ん…?』
『ゆめちゃんは、っ、ずっと、ずっと…っ、』
『ずっと?』
『ゆめちゃんは、ずっと、ぼくの幼なじみ、だよね?』
『……………。』
『ずっとっ、ぼくと一緒でしょ……?』
ポロポロと流れ出てくる涙はそのままに、充血した瞳で見つめてくる。
か細い声で、そう哀願してきた。
"ゆめちゃん……サソリのこと、頼むわね…"
"おばさん…"
"私達はもう…傍にいてあげられないから………"
"……………"
"…サソリを…お願い、ゆめちゃん…"
"……………………………分かった"
『もちろんだよ、サソリ。』
ずっと傍にいる。
サソリを置いていったり、しないよ。
私はそれだけ淡々と言った。
『…ほんと、に……?』
『大丈夫、約束はちゃんと守る。』
『ずっと、一緒にっ…いてくれる…?』
『うん…だから、泣き止んで…。』
最後の一言は震えていたかもしれない。
それでも私はこう告げた。
『サソリは私が…私が守るから。』
ぎゅ、と抱き締める。
彼はくしゃり、と笑った。
私の心は泣いていた。
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