1/2 ある日を境に、彼は笑わなくなった。 「…サソリ。」 作業机に向かって傀儡を組み立てているそいつを呼ぶ。 「…なんだ。」 俺の方を見ることなく声だけが返ってきた。 昔とは違う対応にツキン、と胸が痛む。 「チヨバア様が呼んでる。新作の毒について相談が、」 「分かった今行く。」 用件を伝えるオレの声を遮り、立ち上がったかと思うとスタスタと前を横切って出て行ってしまった。 「……………。」 ご両親が亡くなってから様子がおかしいとは薄々分かっていた。 でもここ最近は違う。 様子がおかしいとかじゃない。 あいつ、なにか隠してる。 「…どうしちまったんだよ、サソリ…。」 昔はあんなに話したのに。 あんなにふざけ合ったのに。 怒って泣いて、それから笑って。 俺らは、友達じゃなかったのか。 お前にとって、俺という存在は…、 「サソリ…。」 呟いたそれは虚しい空間に溶けていった。 「…奇襲任務、ですか。」 風影様の言葉を復唱した。 「そうだ。」 急なことに俺は少なからず動揺した。 「しかし…俺でなくとも、もっと優秀な者に頼べば良いのでは…」 「お前の力を見込んで頼みたいんだ。」 風影様は俺を真っ直ぐ見つめた。 彼には返しても返しきれない恩がある。 この俺を、壮大な砂漠で捨てられて途方に暮れていた俺を拾ってくれた。 そんな彼が、俺の恩人が 『お前にはまだ早い。』 『無理はしなくていいんだぞ。』 それが、 『お前の力を見込んで頼みたいんだ。』 人間誰しも褒め言葉に弱い。 それは俺にも言えることで。 「…分かりました、その任務承ります。」 敬愛する風影様が俺の力を認めて、そのうえで頼んでいるんだ。 断れる訳が無い。 深々と頭を下げて了解の意を示す。 だから分からなかったんだ。 風影様が一体どんな表情をしていたかなんて。 数日後、俺がどうなるかなんて。 [*前] [次#] |