1/6 初めて見た彼は顔が傷だらけで目つきは悪く人を寄せつけないオーラを放っていて、とにかく一目で喧嘩三昧の日々を送っているのだと分かるような奴だった。 「…ミョウジナマエ、とりあえずよろしく。」 自己紹介だってそんな感じで。 制服の裾から見事に変色した痣が見えた。 「なんだ野郎か…つまらねェ。」 「旦那、一応クラスメイトなんだぜ、うん。」 「野郎に世話を焼く程お人好しじゃねェんだよ、俺は。」 面倒ごとが嫌いで世渡り上手な旦那は奴を見てくあ、と欠伸を漏らした。 奴は好奇に溢れた周りの視線は全て無視して席に着くと、窓の方へと目を向けていた。 …仲良くなれそうにねェな。 それが最初に抱いた印象だった。 ------------------------- 「くっそ…最悪だ、うん…!」 手に持った重い資料達を恨めしげに見る。 今日程日直であることを恨んだことはない。だが担任があの角都なので断ったら断ったで後が怖い。薄情者の赤髪のクラスメイトは自分を置いてさっさと部活に行ってしまった。 「あー重てェ……。」 いくら男と言えど、筋肉の塊である運動部とはまた違う。情けない話だが腕力は男子の中では弱い方なのだ。なのでこれだけ大量の資料を抱えるのもなかなかキツイものなのだ。 「おい。」 あー誰か手伝ってくれねェかな。 「おいってば。」 早く部活行きてェな、ちくしょう旦那め。 「無視すんなよ。」 てかさっきからうるせェな誰だよ。 「そこの金髪で間抜けな丁髷。」 「誰が間抜けだコラァ!!」 失礼な物言いに怒鳴りながら振り向いた。 「お、やっと向いた。」 反応悪過ぎ、と呆れたように言うそいつは今日転校してきたばかりの…、 「…ミョウジナマエ?」 「なんでフルネームだし、変な奴。」 「…なんか用かよ、オレ暇じゃねェんだけど、うん。」 初見から関わりたくないと思った奴だ。だって見た目がこんななんだ、中身だってどうせロクでもない奴だろう。 「それ、重いだろ。手伝う。」 「………は?」 「ほら貸せ。」 ひゅっ、と手に持っていた大半の資料を奴に掻っ攫われた。 え、待て、なんなんだ。 「な、なに、ちょ、おい!」 「俺が運んだ方が絶対効率良いだろ、お前フラフラしてたじゃん。」 「…余計なお世話だ、うん。」 「その余計なお世話になっとけよ、これどこに運べばいいんだ。」 スタスタと先を歩く奴の両手には大量の資料が。それはついさっきまでオレが持ってたやつで。 …面倒ごとにわざわざ付き合うとか、なに考えてるんだ。 そうは思ったが、手伝ってくれることには感謝した。 資料室にポンポンと放り込む奴の背中をジッと訝しげに見つめる。 …まァ早く仕事が終わって助かったと言えば助かった訳だが。 「…っし、これで終わりだな。」 「……………。」 いい仕事した、と言いたげに額にうっすらと滲んでいた汗を拭った奴の顔は読めない。 …なんだかイメージと違って調子が狂う。 「…と、とりあえず礼だけは言っとく。手伝ってくれて、助かった。」 正直誤解していた。他のクラスメイト達だって手伝わなかったのに、こいつは今日転校してきてそれなのにやってくれた。もしかしたら見た目はアレだが、それなりにいい奴なのかもしれない。 そう言うと、奴はキョトンとして突然吹きだした。 「ふ、あっははははは!!」 「な…なに笑ってんだ!」 「い、いや…お前みてェな、素直な奴久しぶりだか…ぶふっ、」 「バカにしてんだろてめェ!!うん!!!」 腹を抱えて笑い転げる奴に顔を真っ赤にさせて怒鳴った。 [*前] [次#] |