1/1 まだ午前中の屋上で俺は1人、寝転がっていた。 誰も来ない。 それも当たり前のことで今はまだ授業中だからだ。サボってここに来る奴は俺くらいのもんだろう。 「(天気いいな…。)」 真っ青な空に白い雲がふわふわと浮かんでいる。それがゆっくりと流れているのを見てまた眠気が襲ってきた。そういえばここんとこ、平均で数時間しか寝てなかったっけな。 ゴロンと硬いコンクリートの上で寝返る。ここで寝ると枕が欲しくなる。 「(あー眠い…。)」 降りてくる瞼に逆らうことなく、そのまま瞳を閉じようとした。 「おい!なに寝てんだ!」 「…なんすか、飛段先輩。」 「おれをほったらかして寝んなよ!」 「なにガキ臭いことを…。」 頭上で笑う1つ上の飛段先輩。 今日はピンでハーフバックに決めてる。いつもワックスでオールバックなのに。多分寝坊して時間なかったんだな。 てかこの人3年なのに勉強しなくていいのか?成績はそこまでじゃないけどよくないらしいが。 バカは嫌いだ。 「今日は来たんすね。」 「毎日来てんぞ。」 「学校じゃなくてここっすよ。」 「あー暇だったしな。」 俺はあんたの暇潰しかよ。 だるいよ先輩。 「勉強したらどうなんすか、数学ヤバいって言ってたじゃないすか。」 「うるせーよ!そーゆうお前は…」 「俺こう見えても学年トップ3っすよ?」 あ、絶対信じてねェな。 見るからに疑いの眼差しを向けてきた。 確かに普段の行いがどちらかといえばよろしくないから仕方ないけど。 「おれの後輩はなんで頭いい奴ばっかなんだろうな、分かんねェもんだ。」 「奈良の奴っすか。」 「あいつ全国模試10番以内だってよ。」 「バケモン並みっすね。」 「ナマエは?」 「俺ギリギリ100以内っす。」 「それもすげェだろ。」 そうは言われても奈良の奴のことを聞いてしまったらなんか大したことない気がしてきた。あいつに頭脳で勝とうなんてことはとうの昔に諦めた。高校入って知り合ったが奈良は天才なんだきっと。 ちなみに中学からなにかと付き合いがある飛段先輩は話すのをやめない。 暇だなホントに。 「飛段先輩卒業できます?」 「バカにし過ぎだろ!」 「バカにしてんじゃなくて、心配してやってんですよ。毎回テスト結果悲惨なくせに。」 「うっせバカ!!」 右の二の腕に拳が入った。 この人力強いってこと自覚してんのかな。 「おれの方が年上なんだから敬えっての!」 「そうは言われましてもね、敬えるところがないんで無理っす。」 「んだとコラ!」 嘘っすよ、飛段先輩。 そんな風に怒ってる顔もバカみたいに無邪気な笑顔も映画ごときで泣くところも。 バカ素直なとこも義理堅いとこもそのナリで動物好きなとこも勉強ができないとこも。 俺は全部全部、いいなと思ってますよ。 「そろそろ寝かしてくんねェすか?俺眠いんすよ。」 「ざけんな!放置プレイとかざけんな!」 拗ねた顔をする先輩。 ああ、今この人は俺だけを見てくれている。そう考えるとこれ以上ないくらい高揚した。体温が少し上昇したかな。 そうやって俺だけを見ていてください。 ホントはもう眠気は吹っ飛んだけど、飛段先輩が俺を見てくれている。そのシチュエーションをもう少し味わっていたかった。 なあ先輩。 あんたは鈍感だからきっと気づいてなんかいないんでしょうけど。 俺先輩のこと好きなんすよ。 あ、恋愛感情の方で。 もうどんぐらいかな。 多分会って割と早く自覚したからもう4年は片想いだ。 男相手にしかも年単位で片想いとは、自分でも気持ち悪くて反吐が出る。 まァ仕方ない、惚れちまったもんは。 そうして結構安易に受け入れられた。 「先輩なにしに来たんすかマジで。」 あんたに会えるのは嬉しい。 「あーあのな!ナマエに聞かせてやりたい話があってよォ!」 そう言って満面の笑み。 「ヘェ、面白い話っすか?」 「おれにとっては最高な話!もーホントに誰かに言いたくて仕方なくてェ…」 「あー…なんか察しました。」 俺が大嫌いな話だ。 飛段先輩。 俺、あんたのこと好きだけど。 「昨日、角都ん家行って来たんだけどな…」 あんたが大嫌いだ。 憂鬱な今日この頃 好きな人の惚気ほど聞きたくないものはない [*前] [次#] |