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「……落ち着いた? 」

凛月くんの前にコーヒーを置く。先程までだいぶ取り乱していた彼は、どうやら少し落ち着いたらしく、カップを手にとってありがとう、と言って一口コーヒーを飲んだ。凛月くんがあんなに取り乱したのを見たのは初めてだった。いつだってマイペースで、のんびりしているような子なのに。学校で何かあったとしても、あんな風にはならないだろうに。色々考えて無言になっていたら、凛月くんが私のことをじっと見つめて、口を開いた。

「ごめんね、取り乱しちゃって。なまえのこと考えてたらなまえに会いたくなっちゃっただけだから。」
「あ、え、そ、そうなの? 」
「うん。熱出てるのにねぇ。ごめんね。」

そう言って私の方に近づいてきたかと思うと、ピタリと凛月くんの手を私の額につけてきた。凛月くんの手はとても冷たくて気持ちいい。未だに熱はそんなに下がっているわけじゃないから、その冷たさが心地よかった。

「やっぱ暑いなぁ。俺のことは良いからもう寝なよ。」
「り、凛月くんが人の心配するなんて珍しい……!」

そう言うと額にデコピンをされた。痛い。おもむろに立ち上がった凛月くんは、私の腕を取って立ち上がらせる。そのまま私の部屋まで引こうとしたので、私をベッドに向かわせるつもりなんだろう。何だかんだ凛月くんは優しい。さっきまであんなに取り乱してたのに、もう今は普通の凛月くんだった。どうしたっていうのだろうか。でも元に戻ったみたいで良かった。そう思っていた時だった。

「あらあら、まあまあ、りっちゃんじゃない! もしかしてなまえの看病に来てくれたの?! 」

ガチャリと音がしたかと思えば母親が嬉しそうな顔をして帰ってきた。



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「せっかく来てくれたんだからご飯食べて帰ってよ! 」

帰ってきた母親が、凛月くんの姿を見つけるなり嬉しそうな顔をしてそう言った。一応病人の娘がいるのにそれはどうなのだろう。私が一度凛月くんを連れてきてた時から、お母さんは凛月くんが大のお気に入りになっていた。凛月くん自体愛想が良いわけではないのだけど、ちょっと懐いてきた時の笑顔に母性が擽られるらしい。

「あ〜……。」
「ほら、お母さん凛月くん困ってるじゃん。駄目だよ、病人のいる時にそんなこと言っちゃ。」
「えーでもせっかくなまえのお見舞いに来てくれたんだからお礼したいじゃない。」

さっきまで安静にしてろ!とキレていた母親とはまるで別人だ。ゲンナリしていると、ね、りっちゃん、と言って母親が凛月くんの手を取っていた。勘弁してくれ。

「俺もなまえの看病したいんで、もし貰えるんだったらなまえの部屋でご飯食べても良いですか? 」
「え?! 」
「勿論よ。なまえもちょっとずつ熱下がってるみたいだから。」

そう言うと母親は鼻歌を歌いながらキッチンに入って行った。いや、もしそれで凛月くんに移ったらどうするんだ。ご両親に悪いだろう。ていうか朔間先輩がめちゃくちゃ心配するのが目に見える。想像しただけでため息が漏れてしまった。それに気づいたのか、凛月くんは、

「俺は風邪移んないから大丈夫だよ。」

と言った。いや、そういうことじゃねぇ。



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「うわぁ、ま〜くんからめっちゃ連絡来てた。」

ご飯を食べ終え、お母さんから貰った風邪薬を飲んでいた時に、凛月くんが携帯を見ながらそう言った。ディスプレイを見ると、「ま〜くん」から10件ほど電話がかかっており、メッセージも何件かあった。もしかして真緒くんに無断で来たのか。真緒くんのことだからめちゃくちゃ心配しているだろう。今の時間帯は生徒が帰宅している頃だから、たぶん凛月くんの家にも行っている。

「電話してあげなよ。」
「え〜今はなまえといるからねぇ。ま〜くんのこれは趣味みたいなもんだからいいんだよ。」
「え、いいの……? 駄目でしょ。 」

そんなことを言いつつ真緒くんからのメッセージを嬉しそうに眺めている凛月くんを見ていると、幼馴染っていいなぁとぼんやり思った。ふと私も自分の携帯を見ると、「衣更真緒」から何件か連絡が来ている。メッセージ内容も、「凛月がいるんだったら連絡して欲しい。連れて帰るから。」と言ったもので、ごめんね、という可愛らしいスタンプ付きだった。大体どこにいるかは見当が付いてるらしい。おお、流石真緒くん。

「凛月くん、真緒くんにバレてるよ。」
「うわぁ、流石ま〜くん。じゃあ邪魔されないうちに帰ろうかな〜。はぁ、せっかくなまえと一緒だったのになぁ。」
「はは、明日になったら治すから。」
「うん。……まぁ眠そうだしね。もう寝ていいよ。」

凛月くんはそう言って頭を撫でてくれた。とても優しい顔つきをしていた。何だかんだ言っても一つ年上だからか、こういう時はとても落ち着くなぁ。……本当に眠くなってきた。

「電気消すから。おやすみ。」
「おやすみ、ありがとう……。」

明日には学校行けるようにしなくちゃなぁ。





なまえの寝顔を見ながら、再び頭を撫でる。スヤスヤと眠るなまえの顔を見て、一安心した。来た時は結構体調悪そうだったけど、だいぶ顔色が良くなっていた。

「…………。」

帰りたくないな、頭の中はその思いで占められている。なまえと一緒に眠りたい。なまえの体温を感じたい。なまえの柔らかい体に触れたい。

「ふふ、可愛いなぁ……。」

寝顔をまじまじと眺める。ああ、満たされる。なまえの顔が見れただけでも嬉しい。でもそろそろそれだけじゃ十分じゃない。

「でも病人だからねぇ。今日は止めとくね。」

ーー置いていかないから。
そうなまえが言ってくれた。俺が弱ってたからだろうけど、確かにそう言ってくれた。甘いなぁ、なまえは。甘すぎる。

「その言葉、忘れないでね。」

あの時なまえに言った言葉を、もう一度刻み付けるように言った。
月明かりに照らされたなまえの寝顔は、とても安らかだった。