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「凛月くん、またこんなとこで寝てるの、今からレッスンだから起きてよ。」

困ったように言うなまえの声が好き。こうやって、どんなに面倒くさくてもいちいち起こしてくれるとこも好き。

「ちょっと、凛月くんてば」
「んん〜……でも無理やり起こしてくるなまえは嫌い〜……。」
「何言ってんの。ほら、早く支度して。」

ははっと笑うなまえは、俺の腕を引っ張ってレッスンの場へと連れて行く。俺はどちらかと言うと体温が低いからだろうか、なまえの手はとても温かかった。
ああ、やっぱり笑った顔が一番好きだな。

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「り、凛月くん、これ、なに、 」

昨日は眠るのが遅くなったので、寝ぼけながらなまえを起こしに行けば、何だか怯えた様子で俺のことを見て、そう言った。なに、って何が、そう思ってなまえが示す方向を見れば、ああ、と合点がいった。

「何って、分かってるよね? 枷だよ。」
「な、何で、」
「ん〜まぁ今だけだよ。どうせ学校行かないと駄目だしねぇ……。面倒くさいけど。そんな心配しなくても、いつか外には出してあげるから。」

そう言って、ベッドサイドのテーブルに軽めの食事を置いた。俺が他人のために準備するなんて、自分で言うのもなんだけどきっとこの先もないのだろうな、と思ったけれど、これはなまえの身体を気遣っての行為だった。だってさ、

「……昨日さ、」

そう言ってさらり、と髪を撫でると、なまえは分かりやすくビクリと震えた。やっぱり無理やりすぎたかなぁ。さっきから一度も目が合わない。昨日、初めてなまえの血を飲んだ。ずっと我慢していたからか、止まりそうもなく、気づけばなまえは意識を失っていた。あーあ、となまえを見て思ったけれど、俺は何だかなまえを帰す気にもならなくて、自宅まで連れ帰って、彼女がどこにも行かないようにしなくちゃ、という焦燥感に駆られて、縛り付けた。あいにく今日は土曜日だったので学校はないし、なまえの母親には俺から連絡してある。ああ、仲良くしておいて良かったなぁ。簡単に信じてくれたもんね。

「痛かったでしょ? ごめんねぇ、初めてだから加減が分かんなかった。」
「え、あ、あの、」
「でもなまえが悪いんだよ。セッちゃんの所に行こうとしたから。約束したのにね。」
「そ、それは、そういう意味で言ったわけじゃなくて……、」

俺が話を進めていくとみるみるうちになまえの顔が青ざめていった。何をそんなに怯えているんだろう、昨日血を吸ったことだったら今謝ったのに。何かを言いかけたまま俯いたなまえに不思議に思って、ねぇ、と声をかけると、おそるおそるといった感じでこちらを見てきた。瞳は揺れている。

「り、凛月くん。」
「ん? 」
「お願い、これ、外して。お願いだから。」

これ、となまえが動かせば、ガチャリ、と鎖の音が響く。なまえが意識を失っている時に付けた手と足の枷だ。先ほどまで揺れていた瞳は、俺をじっと見据えている。それでも、怖いのだろう、少し潤んでいた。

「え〜……。さっきも言ったけどさ、いつかは外すよ。」
「だ、駄目、今、今すぐ。お願い。お願い、しま、す。」
「ん〜どうしようかなぁ……。」
「ど、どうか、お願い、何でもするから、外に出して、」
「……ふーん。」

なまえは馬鹿だ。簡単に男に、しかも自分に好意を持っている男にそんなことを言ってしまうのだから。ただ、そんな馬鹿ななまえが、俺に縋って、腕を震える手で握っている。目は潤んでいて、俺を上目遣いで見ている。そう思ったら体がすぐに動いた。なまえの腕を逆に掴めば、なまえはビクッと一瞬震える。細い腕。

「ねぇ。」
「……、り、凛月くん、痛い……。」
「なまえの全部、俺に頂戴。」

え、となまえが声を発する前に俺はなまえを押し倒した。ジャラジャラとした鎖の音が響く。なまえは呆然として動けないようだったが、すぐに状況を察したのか、分かりやすく震え出し、瞳は益々潤んだ。やだ、やだ、と言って手足をばたつかせる。その度にまた鎖が音を立てていた。

「やだって言われても待つ気なんてないんだけど……。」
「お、お願い。ご、ごめんなさい。ごめんなさい。それだけは、どうか。」
「何でもするって言ったじゃん。自分の発言には責任持ってよね。」
「や、やめて、嫌だ、や、やめ」
「あんまりやだって言われたら傷つくんだけど。そんなに言うんだったら血、吸いながらするよ。」
「……え、」
「血出たらやばいでしょ? 死んじゃうかもしれないし痛いんじゃないの? 痛いか気持ち良いかだったら気持ち良い方が良いと思わない? 」
「……っ」
「俺はあんまり気が長くないんだよね。知ってるでしょ? こういうのはなまえ初めてだから優しくしようと思ってたんだけどねぇ……。」

そう言って首筋を撫でる。昨日のことがよほど恐ろしかったのだろうか、なまえは涙をポロポロと零し始めた。涙だって血なのに零すと勿体ない。そう思って舐めとると、彼女の息を呑む音が聞こえた。そこまで怯えなくてもいいじゃん。

「ねぇ、どっちが良いの? 言ってよなまえ。」
「……。」
「よしよし、偉いねぇ。大丈夫、優しくするからね、……たぶん。」

なまえの頭を優しく撫でる。彼女の涙は止まりそうもなかったけれど、抵抗することもなくなり、両腕はダランとしていた。足もばたつかせることはなくなって、もう鎖の音は鳴らなかった。なまえの服の下に手をスルリと入れれば、一々分かりやすく震える。ああ、可愛いなぁ。手の動きを止めることはなく、なまえに軽くキスを送る。なまえは目をずっと固く瞑っていたけれど、その時は驚いて目も口も薄く開いた。途端に舌をねじ込めば、苦しそうな声を出していたが、だんだんと頬はピンク色になってきた。

「ねぇなまえ。」
「っはぁ、ひっ?! 」

唇を離して下半身に触れる。驚いているなまえに御構い無しでそのまま俺は口を開いた。手は勿論動かしたままだけど。

「安心毛布って知ってる? 」
「う、むう、ん。」
「子どもが執着する物そのものをそう呼ぶみたいなんだけどさぁ。知ってるでしょ? 漫画の男の子が毛布を肌身離さず持ってることから付けられたんだって。」
「ひっ、り、凛月く、んっ」
「確かに子どもの執着ってすごいもんねぇ。それがないと落ち着かないからって言ってずっと持ってて、取られたりしたら泣くんだもん。……でも、俺からするとそれがなまえなのかもしれないねぇ。」
「あっ、?! 」

必死で声を出すまいとしているなまえが、一際高い声を出した。ここか、と思いながら集中的につく。なまえがセッちゃんの話をする度に、心が抉られるような気持ちがした。離れてしまう。そう思った。だって、話をする度に、俺が見たこともない表情をして笑っていた。駄目、駄目、何故、離れていくの。そうやって何故みんな俺から離れようとするの。なまえからセッちゃんが好きと聞いた時は、もう何も考えることが出来なかった。ーー離れないよ。分かっていた、あの約束だって、本当になまえは何も考えずに言ったことだって、本当は分かっていた。でも俺はそれに縋るしか出来なかった。俺は、子どもだから、安心できるものから離れられない。子どもだから、兄者にも毒を吐くし、ま〜くんにも甘えるし、なまえからも離れることなんて出来ない。だから、あの時なまえにそう言ってもらった時、心の底から安心したんだ。それなのに、なまえは俺から離れて行こうとした。毛布は肌身離さず持つものだ。それが離れていったらどうなる。俺にとってのそれはなまえなのに。なまえにもそう思っていて欲しいのに。

「ずっと俺の傍から離れないでね。」
「うっ、ひっ、」
「約束だよ。……今度こそこの言葉、忘れないでね。」

そう言って彼女を抱きしめた。抱きしめ返してくれることはなかったけれど、いつかきっとまた抱きしめ返してくれるよね。また、笑ってくれるよね。
俺の腕の中にいるなまえは、毛布のように温かかった。