×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



「え? モデルやってる先輩にマフラーあげるの? 」

洗い物を一通り終えたお母さんが、私の話を聞いて眉を寄せた。何故そんな反応をしたのか分からず、首を傾げた私の方へ、お母さんがお茶を持ってきた。お、茶柱。

「てことはお洒落な人なんでしょう? 大丈夫? ちゃんとその人の趣味に合ったものとか考えてる? 」
「あ……。」

そういえば全くそんなこと考えていなかった。センスとかにはうるさいだろうと思って真剣に選んだけれど、よくよく考えたら彼の服に合うとは限らない。もし合わなかったとしたら、絶対ぐちぐち言われるのだろう。はあ、ほんとセンスないよね〜? とか言われそうだ。うわぁ、いきなり不安になってきた。冬だから冬小物がいいだろう、そう思ったのが仇になったかもしれない。頭を抱える私に、どこからか視線を感じた。見ると、横にいた母親が何故かニヤニヤしていた。

「何笑ってんの? 」
「いや〜青春よね〜。」
「は? 」
「お母さん、凛月くんがなまえの彼氏になると踏んでたんだけれど、予想外れちゃったみたいね。」
「は?!! 」
「でもどちらにしてもイケメンだものね、あんたもなかなかやるわね〜。」

でもお父さんも昔は男前だったのよ〜と嬉々として語り出した母親にげんなりしながらお茶を啜る。何か勘違いしているようだったが、面倒臭いことになりそうだったので湯のみを片付けて部屋に戻った。戻った後に、じっと考える。彼氏。かれし。カレシ。先輩が彼氏、かぁ。考えたこともなかったけれど、私は最近ずっと先輩のことばかり考えている。これはもしかしたら先輩のことが好きということなのか。

「いや〜、ないない。」

ベッドに体を預けながら一人呟く。先輩は意地悪で陰険だ。遊木くんを追いかけましている変人だ。絶対ない。それだったらまだ凛月くんの方が良い。それなのに、どうして私は先輩にお礼をあげるだけでこんなにグルグル悩むのか。考えているうちに瞼が自然と閉じてくる。ああ、明日、どうか喜んでくれますように。


------


「せ、瀬名先輩。今日もお勤めご苦労様であります! 」
「いきなり現れたと思ったら何その口調。え、怖いんだけど。」

3年の瀬名先輩のクラスの前まで来て敬礼をする私を見て、瀬名先輩は明らかに嫌そうな顔をしていた。そりゃそうだ。私だってこんな変なことをするために来たわけではないのだ。お勤めご苦労様って、どこの営業マンに言うセリフだ。敬礼ポーズのまま固まってしまった私に、先輩は不審者を見る目つきをしている。しかし緊張しすぎて私の体が言うことを聞いてくれない。

「何か用あるんでしょ? 教室入れば? 」
「先輩のクラスのメンツ苦手なんで嫌です。」
「あんたよくそんなこと大きい声で言えるよねぇ……。気持ちは分かるけど。じゃあ何、要件あるんだったら手短にお願いね。」

こっちだって手短にしたい。ただ先輩にこの前はありがとうございましたって、お礼のものを渡すだけなのに。これくらい普通に出来るはずだろうに。何故か嫌に震えている私の手は、背中に隠している綺麗に包装されている贈り物を揺らしている。その上お礼の言葉まで口に出来そうにない。何故か喉がカラカラなのだ。

「あ、あの……。」
「ん? 」
「えっと……。」
「何、さっさと言ってよね。」
「うーんと…………。」
「…………。」

ああ、早く言わないとまた瀬名先輩を怒らせてしまう。あんまり怒らせると怖いのだ。そうは言っても、なかなか切り出すことが出来ない。何故、前ならこんなことなかったはずなのに。

「何、これ俺にくれるの? 」
「え?! せ、先輩? 」
「は? 何、違うの? 」
「え、あ、あの……。こ、この前のお礼です。ありがとうございました。」

急に瀬名先輩は、私が後手に持っていたプレゼントをひょいと奪ってきたかと思えば、まじまじとそれを見ている。途端に汗がいっぱい出てきて、顔も赤くなったような感覚がしたが、とりあえずお礼の言葉を伝えるので精一杯だった。お礼を伝えるだけでここまで恥ずかしくなるなんて、何だか今日は変だ。先輩が包装を開き始めたのを見て、私は先輩の様子を恐る恐ると見つめる。センスが悪いとなじられるのだろうか。

「え、マフラーじゃん。」
「はい。冬だったら、べ、便利かなぁと思いまして……。」
「ふーん……。でもこの色俺の私服と合わないよねぇ。」
「え、そ、そうなのですか?! 」

何にでも合うと思って、無地の青色のマフラーを買ったのだが、先輩の趣味ではなかったようだ。ああ、そもそもモデルをやってる人に服装関係のものをあげるのは間違っていたのかもしれない。

「えー……すみません。先輩の目が青色だから、青色にしようと思ったんですけど……。気に入らないなら自分で使うので返してください。」
「は? 誰が気に入ってないなんて言ったの? 」
「え? 私服と合わないって言ったじゃないですか。」
「言ったけど別に貰わないとは言ってないじゃん。 着方によっては合うだろうし。っていうか俺に着こなせないわけないでしょ。」
「先輩……。」
「ありがとなまえ。」

そう言って先輩は微笑んだ。見たことのない先輩の顔を見て驚愕した私の顔が面白かったのか、何その変な顔、と人のことを馬鹿にしてきたが、先輩がお礼を言ってきた上に笑顔まで見せたことが貴重すぎて私は何も言い返さなかった。

「先輩ってお礼言うんだ……。」

思わず出た言葉に、先輩は私の頭を叩いた。


先輩が教室から出た後、立ちすくんでいた。あんな顔、初めて見た。喜んでくれた。ドクドクと鳴り止まない心臓、また赤くなる顔。ああ、これって。本当にもしかして。



レッスン終わりにマフラーを巻いて瀬名先輩が月永先輩と帰宅しているところを見つけるのはまたこの後すぐの放課後のことであった。