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「え? 一緒に帰れないの? 」

そう凛月くんが目を丸くして言った。今日からテスト前期間に入るため、放課後の活動もなくなる。だいたいこの期間はいつも遊んでしまうが、今回は補講がかかっていた為私も必死だ。何とかして成績を上げて冬休みは遊びまくりた……もといみんなのプロデュースに専念したい。なのでしばらく放課後は図書館で勉強することを決めた。というより、決めさせられた。

「うん、ごめんね。凛月くん。」
「え〜……何で急に勉強とか……。しても無駄な気しかしないけど。」
「な、何だと! 出席日数が危うくてまた留年しそうな癖に! 」

凛月くんは興味もなさそうにふぁぁと欠伸をし、私をチラリと見た。

「別に良いよ留年しても……。ああ、眠い〜……。」
「別に良くないと思うよ……。一旦家帰って夜になってから勉強したら? 」
「勉強はめんどいからいい〜……。ねぇ、本当に帰らないの? 」

恨めしそうな顔をしてこちらを見てきて罪悪感が湧き上がってきたが、それとこれとは話が別である。何としても補講を回避したい、というのもあるが、さっきから携帯のバイブの振動が止まらないというのも私の焦りを高めていた。確実に瀬名先輩である。放課後の時間になったら五分で図書室に来てね〜と無茶なメッセージが先ほど来ていたため、早く来いとばかりにまた送ってきているのだろう。普通の先輩なら五分十分くらい遅れても大丈夫だろうが、瀬名先輩は別だ。面倒臭い。最悪凛月くんも誘って一緒に勉強すれば、とか思っていたけれど、彼は随分と眠そうだったからその考えはなくなった。勉強とか面倒くさいって言いそうだし、勉強が終わるまで待ってもらうのも申し訳ない。

「補講になっちゃったら凛月くんと冬休み遊べなくなっちゃうからさ! ほら、クリスマスとか、お正月とか、ね! 」
「冬休み……? 」
「あ、そっか、凛月くんは朔間先輩か真緒くんと過ごすのかな? 」
「……いや、ま〜くんとは遊ぶけど兄者とは全くだから。」

朔間先輩の名前を出した瞬間、凛月くんは顔を顰めた。しまった、この名前出すんじゃなかった。

「……冬休み、」
「ん? 」
「遊んでくれるんだよね? 」
「も、勿論。」
「ふふふ……。じゃあ良いや。補講にならないように頑張って、それで俺と遊んでね。」

凛月くんは私の頭をポンとした後、下駄箱の方へ向かっていった。冬休み、てっきり凛月くんは家族か真緒くんか、もしくは恋人とかと過ごすのかと思っていたのだが、私と約束してくれるのか。ちょっと前の凛月くんだったら想像できないなぁ。ぼんやり凛月くんの後ろ姿を眺めていた時、また携帯のバイブが鳴った。恐る恐る確認すれば、やはり瀬名先輩だった。ひぃぃ、恐ろしいぐらい着信がきている。携帯をカバンにしまい、急いで図書館へ向かった。


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「ちょっと、ここ。また間違えてるよ。」

瀬名先輩がシャーペンでトントンとテキストを叩く。ずっとイライラしているらしく、私が図書館に着いた時点で、来るのが遅いと頭を叩かれていた。女子に対する態度ではない。あらかじめ何を教えて欲しい、と聞かれていたため、今回というか毎回のわたしの敵である数学を教えてもらっていた。申し訳ないが数学はさっぱり意味が分かっていない。必死で起きようと思っているのだが、気がつけば寝てしまっているのである。だから根本から分かっていないため、一から教えなければならないという現状に先輩は絶句した。絶句したと思えば彼は数ページの計算問題から解くようにと指示をしてくれ、それまでは先輩自身のテスト勉強をしていた。ここまでは良かった。ここまでは。

「……なぜ間違えてるのか理解できません。」
「それこっちのセリフなんだけど。さっきやったよねぇ? この方法使ったら一緒でしょ? 」
「でも数字が違うじゃないですか! 」
「あったり前でしょ?! 何言ってんの、馬鹿じゃないの?! 」

答え合わせになってからただでさえ怖い瀬名先輩が鬼のようになってきた。私が馬鹿なのも悪いけど、そうやって怒んなくても良いじゃないか。いや、私が馬鹿なのがだいぶ悪いんだけど。

「ああ、もう、もう一回説明するからよく聞いてなよ? これで分かんなかったらもう二度と教えないから。」

そう言って私のテキストをひったくり、スラスラと問題を解きだした先輩をチラリと盗み見る。モデル活動やレッスンで毎日忙しいはずなのに、先輩はいつだって成績が良く、かと言ってそれを誇っている様子はなかった。出来て当たり前、といった感じだが、それを人にも押し付けないで欲しい。何せ私は元々の頭が悪いし容量も良くないのだ。

「……ちょっと、聞いてんの? 」
「あ、は、はい。聞いてます。」
「俺のことじっと見てたじゃん、集中してないでしょ? ほら、とりあえず理解できたか確認させて。」

先輩は自作と思われるプリントを私に手渡した。こ、これいつの間に作ったのだろう。私がぼーっとしている間に作ったのだろうけど、早い。本当に先輩って何でも出来るんだな、そう思ってプリントを眺めていると、

「……何? そんな呆然とする程分かんないわけ? 」

そう瀬名先輩は怪訝な顔をして尋ねた。完全に人を馬鹿にしている顔だった。






「お、終わった〜〜〜! 」

ぐんと伸びをすると、あくびが出てきた。外を見れば空はもうとっぷりと暗くなっている。時計は七時を指しており、そろそろ帰らねばならなかった。勉強はというと、瀬名先輩の厳しくも分かりやすい説明のおかげでだいぶと理解することができた。何やかんや言いながらも、彼は私が分かるまで何回も繰り返し繰り返し教えてくれた。イライラしたら頭を叩かれたけれど。体罰だ。

「お疲れ。はい。」
「え、わ、ジュース! ありがとうございます! 」

プリントを全部終わらしたところで、瀬名先輩は何処かは行ってしまったのだが、戻ってきた先輩は私にジュースを買ってきてくれた。何と優しいのだろう。優しすぎて気持ち悪い。

「あ、先輩。これいくらでしたか? 」
「は? いいよ別に、お金は。」
「え、で、でも、駄目ですよ。」
「いーよ、後輩なんだし。頑張ってたからご褒美だよ。」
「……遊木くんの写真はあげれませんよ。」
「別に何も言ってないじゃん! なぁに、そんなに言うんだったらゆうくんの写真の一つくらい要求してもいいわけ?! 」
「そ、そんなに怒らないでくださいよ。ありがとうございます。」

先輩に貰ったジュースの缶のプルタブを急いで開く。私の好きなマスカットジュースだった。さわかな味が口の中に広がり、勉強で疲れた体によく効いた。

「なまえ、帰ろ。」
「あ、はい! 」
「靴とって裏門のとこまで来て。」
「え、裏門ですか? 」
「そう、送る。バイク乗せてあげるから。」

先輩の言葉に目を丸くする。バイク乗せてあげるって言った? ていうか送るって言った? 今までの瀬名先輩だったら、こんなこと言わなかったのに。また何か裏があるのか、硬直していると、

「ちょっと、何思ってんのか知らないけど早くしてよね〜。……暗いと危ないでしょ、これぐらいさせてよ。」

先輩はそう言った後、ポイとヘルメットを私に投げた。慌てて受け取ると、瀬名先輩はもう裏門の方まで歩いて行っていた。暗いと危ないでしょ、なんて、そんな女の子みたいな。

「……さっきまで頭叩いてた癖に。」

こんな優しい先輩未だかつて見たことがない。何だろう、何か。今日の先輩はちょっとかっこよく見えた。