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無自覚が一番罪深い




「え、ホリデー帰ってこないの?」

久しぶりに幼馴染の双子の片割れから連絡が来たと思えば、開口一番にホリデー帰んないからよろしく〜とのんびりした口調で言われ、私は電話を取りながら固まっていた。

「な、なぜ。」
『なぜって、海が凍ってて帰れねえからだし。』
「アズールがいるんだったら何とかなるでしょ!お得意の魔法で何とかしなよって言って!」
『だってさアズールぅ。今の聞いたぁ?』
「え、アズールいたの。」
『いましたよ横に。僕は何でも屋さんじゃありませんよ。僕ほどの実力があっても自然にはなかなか勝てませんからね。』
「グズ!ノロマ!」
『ぐっ、人の地雷を軽々と……!』

アズールは悔しそうに唸った。後ろでフロイドの笑い声が聞こえる。今日はどちらかというと機嫌が良さそうだ。一通り笑った後、フロイドはてかさ〜、と声を上げた。

『なぁんでそんな焦ってるわけ?昨年のホリデーも帰ってねーんだから今年もムリって、ナマエだって分かってたでしょ〜?』
「いや、それでも今年は苦難を乗り越えて帰ってくると思ってたのに……。」
『僕たちがそんな少年漫画の主人公のようなことをすると思います?』
「思わない。むしろそれを阻止する悪役がふさわしい。」
『ぐ、この女…。』
『まぁまぁ〜。っていうかぁーナマエがそんなにショックを受けてるのは、オレらに会いたいからじゃないでしょ〜。』
「え。そ、そんなことないよ!会いたいよ二人とも!」
『白々しい。どうせジェイドに会いたいだけでしょう。』

アズールが出した名前に、胸がドキリとする。今ここにはいない、双子のもう一人の方、胡散臭い笑みを浮かべている方の、ジェイドの名である。私は電話で一回もその名を出していないというのに、二人は私の意図を見抜いているようだった。

「ま、まぁジェイドにも会いたいよ。幼馴染だし、そう。」
『違うでしょ、だぁ〜い好きな、幼馴染だし、でしょ。』
「フロイド!聞こえたらどうすんの!」
『安心してください。今は同好会の活動に行っていていませんから。』
「ああ、あのよく分かんない同好会……。」

ジェイドは陸にある山という存在に心を奪われたらしく、一人で同好会を作って地上ライフを楽しんでいるらしい。たまに連絡が来たかと思えば「キノコ」の写真がびっしりだ。
このキノコは食べられるだの、このキノコは珍しいだの、模様が綺麗だの、とっても満喫している。私がいなくても平気そうな様子に、内心ムカついているのだ。

まぁ?私は?別に?ジェイドの彼女というわけではないし?いいんだけどさ!!!
ただ私が昔から片想いしてるっていうだけで、ジェイドからしたらただの幼馴染である。

『すみませんねぇ〜ナマエ。ジェイドはキノコに夢中で。こんなに貴方が思っているのに、ああ可哀想なナマエ。』
「思ってないでしょ。謝るんだったらホリデー帰ってきてよ。」
『無理と言っているでしょう。ナマエは昔から思考力が足りない。』
「一言余計!」
『ねぇもう飽きたんだけど〜。そろそろモストロ・ラウンジの仕事しないといけないんじゃねぇの〜。』
「ふ、フロイド。良い子だから。もうちょっと繋いで、ね?」
『じゃーね、ナマエ。またあったかくなったら帰るから。バイバ〜イ。』
「フロイド、フロイドー!!!」

ブチ、と無情にも切れた通信に、涙が出そうなる。分かっていたさ、海が凍るのも。きっと帰らないというのも。でもだからって。三人がナイトレイブンカレッジに行ってからしばらく会えてないから会いたかったのに。

ぽん、と携帯から音が鳴った。一件のメッセージが入っている。送り主は、あのジェイドだった。

見てください。このキノコ、レア中のレアですよ。

またキノコの写真かよ、腹が立って携帯を壁に投げた。


-------


ジェイドがフロイドとともにNRCへ入学してしまってから早2年。初めて陸に行くというから最初はとっても心配したのだが、アズールの話を聞く限り上手く……上手く?馴染んでいるらしい。こっちでも双子はおっかないということで有名だったのだが、どうやらNRCに行った今も三人できわどいことをしているようだった。しかし、いつまで経っても帰省する気配がない。ホリデーの時期が冬だから仕方がないとはいえ、こう、可愛い幼馴染が待ってるんだからちょっとくらいさぁ顔出すとか?すれば良いじゃん。

『無理ですね』

私が言ったことを電話越しの幼馴染がスパッと否定してきた。あまりの無情さに思わず無言になる。
ジェイドから先ほどメッセージが届き、すぐに電話をかけて早数十分。ずっと同じ問答を繰り広げていた。

「そんなスッパリと言わなくても良いじゃん!」
『はぁ。ナマエだって冬の海の難しさは知っているでしょうに。無理なものは無理ですよ。』
「で、でもNRC行ってから全然帰ってこないし……。顔、見たいじゃん……。」
『では今度ビデオ通話でもしましょう。』
「ほ、ほんと?!……ってそうじゃなくて!」

あまりにも私の思いが伝わらず声を荒げる。『そんな声を荒げないでください。落ち着いて。』と電話口から漏れる声。落ち着いた声だが、おそらくこれはにやけながら言っている。くそう。ジェイドとはいっつもこうだ。

昔からジェイドにずーっと片思いしてきたけど、そんなことを知ってか知らずか、一緒に遊んでいてもフロイドかアズールに何かあったらすーぐそっち行っちゃうし、来るもの拒まずだからすーぐ他の女の子と付き合っちゃうし(本人はいつも本気じゃないって言うけど)NRCは男子校!よし!って思っても全然帰って来ないしひどい時はモストロ…なんだったけな、で忙しかったら全然メッセージ返してくれないし、いざ電話できてもいっつも正論パンチだし。まあ電話できてるだけで幸せだけどさぁ。

「私はジェイドに会いたいって言ってるのに……。なんで分かんないかな……。」

言ったところで、ハッとした。
なんてことを口走っているのだ。これじゃあまるで私がジェイドのことを好きみたいじゃないか。
いやまぁそうなんだけど!まだバレるわけにはいかないというか!
まぁそんなことで動揺するタイプでもないし脈なしなんだけど……。

『……。』
「ジェイド?」
『…………。』
「ちょっとジェイド?」

え、まさか私が会いたいって言ったことで動揺してる?あのジェイドが?
うっそ、めちゃくちゃレアじゃない?
もしかして私に会いたいって言われて嬉しかったとか?ははーん。ジェイド、結構私のこと好きだな?
でもそれならそうと言ってくれれば良いのに。今は会えないって分かっているけど、
ジェイドから会いたいって言ってくれるだけで満たされるよ私は!

「ジェ、ジェイドあのね。」
『あ、なんだ誰かと思えばナマエかー。まーたジェイドに電話してたわけぇ?』
「え。フロイド。」
『明らかにテンション下がってんじゃーん。ハハハ、ウケるー。』
「なんでフロイドなわけ?ジェイドは?」
『ジェイドは今眠りこけてるけど。』
「え?」
『今日山登り行ってたからさ、疲れてんじゃない?』
「……。」
『ナマエ?』
「バーカ!もう知らない!」

電話を切り、乱雑に携帯をベッドに投げつけた。そのまま体をベッドに沈ませる。
怒ったって仕方がないことは分かっているけれど、せっかく電話してたのに。……でも疲れてたら寝るよね。それに、別に私彼女ではないし。いつも連絡は私からだし。ジェイドの中で優先順位が低いことだって理解している。でも山>久々に電話してきた幼馴染ってのがちょっと……いや、だいぶ納得がいかない。ただジェイドにも私に会いたいって思って欲しいのに。

「4年なんて長すぎるよ……。」

ポツリと呟けば一人の部屋で私の声が響いた。
それにもなんだか虚しくなって、私はふて寝をすることにした。
しばらくジェイドのことは考えないようにしよう。そうしよう。


────


「重いわね。」
「?!』

部屋に入ってきた母親が開口一番にそう言ってきたもんだから度肝を抜いた。
え?もしや私が昨日思っていたことが全部口に出ていた?そしてお母さんが全てを聞いていた……?
そしてなんだって?重いだって?

「やっぱり?!私重い?!」
「え?何の話?この荷物の話だけど……。」
「え、あ、あー荷物ね!ハハ、ハハハハハ!ここに持ってきたってことは私の荷物かな?!」
「ええそうよ。ジェイドくんから。」
「なるほどねー!ジェイドから……ジェイドから?!」

お母さんから奪い取るように荷物を預かると、確かにそこにジェイドの名前があった。お母さんはもーなに?急に……びっくりするじゃないの、とブツブツ文句を言いながら私の部屋を出て行った。それを確認した後、急いで荷物を床に置く。魔法で開かないようになっているその荷物を、解除魔法で開けるようにした。
私が住んでいるところは比較的寒いところにあるというにの、興奮してしまって体が熱くなっていた。
だってジェイドが荷物って。珍しい。しかも速達で送ってきているところを見るに、相当大切なものらしい。ジェ、ジェイドが私のことを思って荷物を送ってくれるなんて……。昨日あんなに怒っていたことも忘れて、ドキドキしながら荷物を開封する。さて、ジェイドは私に一体何を……。

「え。」


────


「ちょっと何アレ!何であんな大量に送りつけてきたわけ!しかも速達で!」
『おやおややはり海でも速達で送ったら1日で送り届けてくださるんですね。大変参考になりました。』
「私の質問に答えてないじゃん!何よあの”キノコ”は!」

荷物を見てすぐに、それを送りつけてきた本人に連絡をした。「また電話ですか、おはようございます。」と相変わらず嫌にきっちりした話し方でジェイドが電話に出た。ジェイドが送ってきたのは大量のキノコであった。以前にレア中のレアと言っていたものだった。

『ナマエ、これは本当に貴重なものなんですよ。あんなに派手な見た目をしているのに、毒がありません。賢者の島周辺にしかないものです。香りは控えめですが、焼くと旨みが出て……』
「別にいるって言ってないよね?!」

早口で長々とキノコについて語りそうだったので、急いで止める。荷物を送ってくるなんて初めてだったから楽しみにしていたのに、斜め上の贈り物だった。ほんと女子心を分かっていない……!人の心もなさそうだけど……。

『はあ。欲しいとは言われなかったのですが、このキノコを見つけた時に、ナマエにも分けてさしあげたいと一番に思い浮かんだものですから。』
「……え。」
『というか、その様子ですと最後まで荷物を見ていませんね?ナマエは本当にせっかちだ。底の方に厳重に包んで送ったものがあるから見てください。』
「ほ、ほんと一言余計だな……。」

ジェイドに言われた通り、大量のキノコを漁ると、確かに底の方から布で包まれたものが出てきた。魔力も感じるので防衛魔法のようなものもかけられているのだろう。こんな厳重にしているってことはガラス製品とかかな……。ツボとか?あり得る。
丁寧に梱包された物を広げると、中から水槽のようなものが出てきた。中には水でなく植物が入っている。
これは以前ジェイドが写真に送ってきたものに似ている気がする。確か名前は……。ええっと……。

「……テラリウム?」
『そうです。ナマエが寂しい寂しいと言っているとフロイドとアズールから聞きましたので作ったんです。確かに帰るのは難しいので、これ見て僕のこと思い出してくださいね。』
「え、いや、別に寂しいとかそんなことでは……。」
『寂しくないと?』
「……寂しいよ。」

ふふふ、と笑うジェイドの声を聞き、ちょっと恥ずかしかったけど、昨日とは打って変わって、私の心はじんわりと温かくなっていた。アズールとフロイドが茶化したからとは言え、ジェイドが私のためにこれを作って、わざわざ私のために贈ってくれるだなんて。ははーん、じゃあこのキノコも照れ隠しだな?さてはジェイド、私のこと大好きだな?

『あ、ナマエ。昨日言いそびれてしまったのですが。』
「ん?」
『僕も会いたいと思っていますよ。』

今からモストロ・ラウンジの準備がありますので、と言ってジェイドは電話を切った。
取り残された私は、先ほどのジェイドの言葉が頭に響いていた。
僕も会いたいと思っていますよ、いますよ、いますよ、いますよ……。

え???