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捕食者の品格


「たのもー!!!」

朝から鳴り響く馬鹿のようにデカい声に、思わず目が覚めた。ドンドン、と相手は外からドアを叩き続けている。お止めくださいナマエ様、と焦る従者や護衛の声が聞こえ、俺はゴロリとドアとは逆方向に寝返りを打った。くわぁ、と欠伸をする。朝から大声出されるのは不愉快だ。毎回デカい声を出すなと言っているはずなのにアイツはいつも突然現れてはこうやって俺を起こしにかかる。ダリぃ。舌打ちをした後にそのまま寝ようとした時だった。

「レオナ様!おはよーございます!お話ししたいことがあるんです!」

バン、と扉が開く音がした。どうやら従者は止めるのをしくじったらしい。仕方がない。俺の国では女にあまり乱暴ができないからだ。俺も起きてしまうとアイツのやりたい放題になるのは分かっているのでそのまま無視することにした。朝に来るお前が悪い。

「起きてるんでしょ?分かってるんだからね。」
「…………。」
「久しぶりに帰ってきた今がチャンスなんだよ、結構大事な話だから聞いて?」
「…………。」

うるせぇ。耳元で話しかけてくんじゃねぇ。っていうかお前も俺が久しぶりに帰ってきたというのに朝にくんじゃねぇよ。もうこれは無視だ。どうせ夕方までいるんだろうから話は昼ぐらいでいいだろ。お前は義姉上とお喋りでもしてろ。
だんだん微睡んできていた時だった。ナマエが徐に俺の耳を掴む。は、ふざけてんじゃねぇ。耳持ったくらいで俺が起きるかよ。アイツは一通り俺の耳を触ったかと思えば、ふぅーと耳に息を吹きかけた。
ぞわ、として飛び起きた俺に、レオナ様おはよーとニコニコしながら言う。

「朝から何しにきたんだよ!ふざけてんのか!」
「言ってるじゃん、大事な話があるんだって。」
「許嫁とは普段手紙で連絡取れって言われてんだから手紙で言えば良いだろが!」
「いや、手紙中身見られるじゃん。ちょっとそれは困るの。それに、これはレオナ様に相談した方が良いかなと思って。」

そう言ったかと思うとコイツは平然とした顔で俺のベッドに座ってきた。コイツの王宮の世話係は何を教えているのか。だが俺も無碍にすることはできないので、仕方なくナマエが座りやすいように体をずらした。わざと大きな溜息を吐いたが、ナマエはケロリとした顔でこちらを見た。おい。俺の気遣い。

「……んで?話って何だよ。悪いが俺は睡眠を邪魔されて気が立ってる。端的に言え。」
「分かった、端的に言うね。レオナ様、私との婚約を解除して欲しい!」

は?

「あのね、私、生まれてからずっとこの国にしかいないの。でもレオナ様とか他の王族の人はNRCとかRSAに呼ばれて他の場所へ行くでしょ。だから私も他の世界を見てみたいと思って。でもそうしたらいつ戻ってくるかも分からないし、このままじゃレオナ様にも迷惑かけちゃうから、だったら婚姻関係も解消した方が良いかなと思って。……レオナ様?おーいレオナ様ー。」

碌に敬語も使わない癖に無駄に「様」呼びしてくるナマエに余計苛立ってきた。まず俺がハイと頷いたところでそんな簡単に婚約解消できるわけねーだろ馬鹿か?ナマエの国がどれだけ俺の国に依存してるのかコイツ知らねえのか。仮に解消できたとしてもだ、その歳になってもいまだに学校に通わしてもらえてない箱入りお嬢が急に旅に出たいと言ったところで周りが止めるに決まってるだろ。そんなことも分かんねーのかコイツは。
ゆっくりと体の向きを変えると、ナマエと目が合った。至極真面目な目をしている。俺がそのまま目を細めても、ちっとも効いている様子はない。


「んな面倒なことできるわけねーだろ。俺は忙しいんだよ。」
「えー?ほぼほぼ寝ているのに?」
「そうだよ、寝るのに忙しいんだよ。」
「寝ぼけたこと言ってないで。お願い、今までやりたいこととか自分で考えたことなかったけどどうしてもやりたい。」
「……時にはな、諦めないといけないこともあるんだよ。」

人間生まれた時からある程度運命ってのが決まっているものだ。ナマエも一国の姫として生まれたからにはどうにもならないことがある。誰だってそうだ。俺だって。寝転んでいた体を起こしてナマエと向き合う。しん、と静寂が広がった。ナマエは、分かりやすくシュンと落ち込んだ。すると、ギュッと俺の服の裾を掴む。おいシワになるだろが。

「駄目……?」
「そうだな。」
「どうしても……?」
「……ああ。」
「私がレオナ様のこと嫌いになるって言っても……?」
「…………。」
「レオナ様……?」
「そもそも婚約解消したいんだったら嫌われても一緒だろ。」
「う、」
「…はぁ。じゃあ俺が卒業したら何箇所か連れてってやるよ、他の国。」
「え?!」

分かりやすく目を輝かせるナマエに、しめた、と思った。釣れる。

「ば、薔薇の王国へ?!」
「おう。」
「き、輝石の国も?!」
「ああ。」
「茨の谷も?!」
「そこは無理。」
「じゃ、じゃあ賢者の島も?!?!」
「連れてってやるよ。」
「ほ、ほんとー!?嬉しい!」
「ああ、でもお前は俺と婚約解消したいんだって?だったら無理な話だな。じゃあ頑張れ、お前の父上を説得するの。応援してやるから。」
「し、しません!レオナ様と婚約解消しません!ごめんなさいこんなこと言って!もう一生言わないです!」
「おーおー。じゃあとっとと帰れ。俺は今から寝るから。」


そう言ってナマエに背を向けて寝転がった。ナマエはえーもう寝るの、と不満そうな声だったが、要件が済んだからかその後は何も言わずに帰って行った。いつもだったら相手してるとこだが今日はもう無視して寝る。ちょっとは気に入ってやってるのに婚約解消するとか言いやがったからな。