×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
サイコ・ステップ・ラヴァーズ


※過去零




あの朔間零の幼馴染なんでしょ?いいなぁ〜
零くんかっこいいよね、あんなかっこいい幼馴染がいるなんて、ナマエが羨ましい。
あんなかっこいい人がそばにずっといたら、好きな人なんかできないんじゃないの?


これは三大「朔間零の幼馴染と言うことがわかった瞬間に言われる定番フレーズ」である。
皆私が朔間零の幼馴染ということが分かるなり目の色を変える。
零に近づきたいがために、今まで私のことなんて見向きもしなかった人たちが私に近付いてくる。
そしてさっき言ったセリフを皆決まって言うのだ。
私からするとそんなにいいか?と思う。

「ナマエ、明日朝から用事あるから朝の6時に起こしに来い。」
「ナマエ、今日日中仕事だから着いて来い。あ、お前の学校には言ってる。」
「ナマエ、もう今日は動けね〜から家まで運べ。」

いつも急に零から電話がかかってきたかと思えばこれだ。
皆本当にこれ良い?パシリだよコレ。
代わってくれるなら代わっていただきたい。
やってくれる?零のお気に入りのトマトジュース買ってこないとゲンコツくらったりするけど、それでも良いですか?
いや、良いって言う人いるだろうな……。なんていうか、零のファンって結構過激な人もいるからな。

それは置いておいて、確かに私は零の幼馴染だけど、昔から零とはなんとなく上下関係があると思う。
命令されるのは悔しいけど、零には逆らえない。
悲しいことに、私には零しかお友達がいないのだ。小さい頃から周りを惹きつける美貌を持っている零は、いつも周りに人がいたけど、その横にいるちんちくりんの私は、どっちかというと目の敵にされることが多かった。
何であんな奴が零くんと!という視線をヒシヒシと感じた。今もたまに感じる。
幼いながらも、零の異常な美に気付いていた私も、そりゃ〜そうだよな……と思って友達を作るのは諦めた。
お友達作れた〜と思っても零目当てのことも多かったし。
でも零だけは何故かこんなちんちくりんと距離を置こうとする姿勢を見せなかったので、
零が側にいてくれるなら良いや、と思って思考を放棄した。
その結果私には零以外の友達がいなかったのだ。
零もそれをよく分かっていて、一度私が零の頼みを断ろうとしたら、「良いけど、やってくれね〜ならもうナマエと喋んないから。」「絶交するから。」と小三女子もびっくりするようなことを言われた。そして当時の私は、零に絶交されたら敵わん、と思って泣いて謝った。
その時に、

「じゃあ俺の言うこと絶対に聞けよ」
「うん」
「他の奴の頼みも聞くなよ」
「うん」
「それなら俺もずっとナマエと一緒にいてやるよ。」

と約束させられた。今でも零の頼みを渋るとこの時の約束を人質に出される。だから何でも言うことを聞いているわけだが、ちなみにこの約束をしたのは確か小学生のことである。今思えばなんてませたガキだ。もう時効だと思う。今や私も零も高校生で別々の道に進んでしまってるし、零はアイドルの学校に進学してからなんか忙しそうで、私もたまに仕事の手伝いをさせられているけど、前ほど頻繁に会うことはなくなった。
高校に進んでからは友達もできた。ちなみに進学は、零が夢ノ咲に行くなら私も夢ノ咲かなぁって思っていたけど、近くの女子校に行けと言われたのでそれに従った。本当に何でも零の言うこと聞くよな、私……。我ながら零への依存っぷりにドン引きである。自覚はあるが、長年の付き合い故に離れられない。
まぁそれは置いておいて。零の進言通り女子高に通い出した私は驚愕した。近所で零は有名人とは言え、零のいない生活。零のいない学校。色眼鏡で見てこない同級生。な、なんて……なんて快適なんだろう?!
おまけにみんなめちゃくちゃ優しい。中学なんて零が側にいたからか、女子に刺々しい言動をされていて、女子はめちゃくちゃ怖い存在だと思っていたのに覆された。廊下にすれ違い様に舌打ちされたり悪口言われたりしない。むしろ挨拶してくれる……!
放課後にプリクラ撮ったりアイス食べたり一緒に勉強できたりする……!!!
零に女子校行け、って言われた時は、

「何でそんな酷いこと言うの?!」

って流石に泣き喚いたけど、

「は?」

っていう零の返しと睨みですっこんでしまったが、今となっては零に感謝している。ありがとう零……!
ちなみにあの時の零の睨みは、弟の凛月くんが零に対してやっているそれと酷似していた。怖かった。

まぁしかし友達ができたとは言え零との謎の主従関係は今でも継続しているため、友達と遊んでいても零から「来いよ。」と言われてしまえばすぐにそちらを優先しなくてはならない。途中で抜ける素振りを見せると、友達は「彼氏?!」と目を輝かせてくるが、顔を青ざめながら否定する。あれが彼氏とか恐ろしい。毎日零の言うこと聞かないといけないとか考えただけで嫌だ。唯一の小さい時からのお友達といっても、零といると何言われるか分からないから落ち着かない。

しかし、そんな日々に少し平穏が訪れそうだった。

「聞いた?ナマエ。零くん海外に行くんですって。」

母がご飯を作りながら私に話しかけてきた。ふ〜ん零海外行くんだ。へ〜。…………え?!

「え?!」
「え、ナマエ聞いてないの?」
「最近会ってなかったから……、ってそれ、本当?!」
「そうみたいよ。前からちょこちょこ行ってたみたいだけど、今回は結構長期だって朔間ママが。」

今夢ノ咲で生徒会長もやってるとかで、顔も良いし優秀よね〜とうっとりしながら言う母を横目に、私は頭をフル回転させていた。零が長期留学……。長期留学って大体どれくらいなんだろう、半年、一年?……一年も零がいないと言うこと?!
思わず目を輝かせた私に、母が不審そうな目で見てきた。

「なぁにナマエ。何か嬉しそうじゃない?」
「そ、そんなことないよ!」
「まぁそうよね、ナマエ、ほんと零くんしか友達いないから寂しくなるわね〜。たまにはりっちゃんと遊んであげなさいよ。」

凛月くんはたぶん私に心を開いてないからその必要はないと思うけどな〜。たまに零くんの家まで呼び出された時に、零くんは不在で、凛月くんとその友達の赤毛の子と遊んでる時に遭遇するけど、いっつも邪魔すんじゃねぇみたいな目で見られる。零に言ったら反抗期なんだよな、と珍しく悲しそうにしていた。その弟に対する愛を私に一ミリでもいいから分けて欲しい。まぁそれは置いておいて。

零が長期でいない。これは、つまり私もその間は自由ってことだ!やった!カラオケとか、土日にショッピングとか行ける!
この前友達にカラオケ誘われて行ったら零から「今どこにいんの?」って連絡が来たから友達とカラオケ来てるよ!って送ったら「家帰れ」って返ってきた時の辛さたるや。
自宅に渋々帰ってきたら、零が待ち構えていて、

「カラオケ行くんじゃねぇ。」
「あとゲーセン。ダメ。」
「てか土日は基本空けとけよ。仕事あるから手伝え。」

以上である。その後零が泊まるって言い出したから青ざめながら添い寝した。零は何故か私が零用の布団を敷いても私とベッドで寝るのだ。何故?でも一緒に寝ると機嫌が治るからいつも大人しく従う。

そんな日々ともおさらば……?!期間限定だけど……?!例え期間限定だとしても良い。少しだけ自由な時間を楽しめるのだ。最近零と離れたところで過ごして気付いたけど、私と零の関係ってちょっと変だ。高校の友達のそれとは全然違う。友達と過ごしてるうちに、「なぁにナマエ。そんな言うこと聞かなくてもいいよ!」とケラケラ笑いながら言われて、衝撃的だった。私は友人にはひたすら尽くすものだと長年の経験から思っていたけれど、どうやら違うらしい。
外の世界へ出ないと人間気付かないものだ。
どうか零も海外に言っている間に気付いてくれますように。


------



「ナマエ、海外行く準備しろよ。」

久しぶりに零が家に来たと思って部屋を必死に掃除して、零にコーヒーを差し出したら、零がコーヒーカップを片手に一言。
ズズズ、とコーヒーを啜る音が部屋に響く。

「え。」
「何驚いてんだよ。」
「え、海外……?え、え?何で私が?私は別に、そんな予定ないけど……。」
「俺が海外行くって聞いてるだろ?」
「う、うん。」

聞いてるよ!いつから行くかも聞いてるよ!
それがどうして私が海外に行くということになってるの?!ああ、駄目だ。急に心臓がバクバク言ってきた。

「あ、あの零。でも何で私が海外の準備を?あ、零のパッキング手伝えってこと?それだったら勿論やるよ。何が必要なの?」
「?いや、ナマエも連れて行こうと思って。」
「どこに?!」
「海外。」

系列の学校行くから何ヶ国か行かないといけねーけど色んな国行けるからおもしれーぞ、と零は携帯で私に地図を示しながら言った。あ、この国も、あの国も、行ったことないな……。じゃ、なくて!

「な、何で私も一緒?!」
「え、いーだろ別に。留学だよ、おばさんに言ったら喜んでたぞ。」
「お母さんにも言ったの?!」
「おう。」
「嘘でしょ……。」

ヘナヘナとその場にへたり込んだ。零はまだ余裕そうにコーヒーを飲んでいる。いつも零はこうなのだ。零が何でも私のこと決めて、周りも巻き込んで、でも周りからすると零が魅力的だから正義みたいになるのだ。だからといってホイホイ言うことを聞き続けてきた私も私だけど……。だけど!
これはちょっと酷いんじゃない?私だって私の人生があるわけだし、零が決めるもんじゃないと思う。ギュッと拳を握りしめた。コーヒーを啜っている零の顔を向けて、口を開いた。

「……嫌だ。」

カップの底の方を見ていた零の視線が、私を捉えた。真っ赤な血のような色の目に、心臓が嫌な音を立てる。バクバクバクバク。自分の心臓の音が聞こえる。やばい。うっかり口に出してしまった。久しぶりに零に反抗した。
ガチャン、とコーヒーカップを置く音が大きく響いた。私の体は反射的にびくりと揺れる。

「は?」

腹の底から出てるような零の低い声に、背筋がピンと伸びた。同時にブルリと悪寒がする。零の顔が見たくなくて、目線を床に下げた。

「何?何て?」
「……あ、あの、」
「何て言ったの?ハッキリ言えよ。」
「いや、その…………。わ、私も高校生活があるから、海外には行きたくない……。」

零は別に私に対して捲し立てて何かを言っているわけじゃないのに、嫌に圧を感じて、思わず言葉が詰まってしまう。零に意見したことなんてあまりないから、久しぶりに恐怖のような感情を抱いた。

「…………あー、そう。あー。マジで失敗だったわ。他のところ行かせれば良かったな……。」
「れ、零?」
「ん?」
「あ、あ、あの……、」
「……いーよ別に。ナマエの言うこと聞いてやっても。」
「え」

ほ、本当に……?本当に?!あの零がそんなこと言うなんてなんてめずらし、「でもその前にさ。」

「ナマエの学校行かせて?今度。」
「え、な、何で……?」
「挨拶するんだよ。オトモダチに。ナマエのこと俺がいない間にヨロシク〜って。」

そんなことしたら今まで築いたものがきっとなくなってしまう。今まで仲良くしてくれてたあの子とか、あの子とか、きっと零を目にしたら零のことしか考えられなくなってしまう。私が零の友達と分かるや否や、「ナマエちゃん、今日は零くんいないの?」「零くんに会いたいからナマエ、零くん呼んできてくれない?」だの言ってきたかつての同級生たちの顔が思い浮かぶ。みーんな零の虜。零がいればそれで良くて、私なんてオマケ程度の存在で。そんな日々に戻ってしまう気がする。

「そ、そんなことしなくていい、よ。」
「嫌。俺ナマエのこと一応心配してるんだよ。最近はオトモダチができたみて〜だから楽しそうだけど、ホラ、お前不器用じゃん?」
「そ、そんなことない、よ……。だからやめてほしい、」
「ナマエが来ないって言うならそうする。」
「え……。」
「来るんだったらやらねーよ。別にそんなことする必要もねーし。」

零が再びコーヒーカップを手にした。いつも通り余裕綽々である。その反対に、私は汗も書いてるし、頭もぐるぐる混乱してるしで、まるで余裕がない。言うこと聞いたら海外行かないといけない、でも言うこと聞かなかったら、みんなが私を零の幼馴染として色眼鏡で見てしまう、またオマケになってしまう。どうしよう、どうしたら良いのかな?ぐるぐるぐるぐる。頭がこんがらがりそう。でもやだな。また中学の時みたいになったら。みんなが私を前にすると零、れい、レイって言うの。時には悪口も言ってくる人もいるし。やだな。それだったら零と一緒にいる方がマシかな。零だけしか友達がいない状態に戻る方が、いいかもしれない。

「…………留学、行く。」
「え、マジで?嫌って言ってたのに。」
「ううん、行く。」
「ふ〜ん。じゃあ荷物まとめるか。明後日だから。」
「…………学校には」
「行くと思ってたから言ってる。」
「…………そっか。」

俯く私を他所に、あ、そうだ今日泊まるから、だのそういえば今日ナマエのご両親帰ってこねーんだよな、だの言っていたが、全て頭の中を通り抜けていった。明後日。明後日かぁ。早いなぁ。

「ナマエ。」

零が後ろから声をかけてきたかと思えば、私の背中はいつの間にか床に付いていた。途端に零の顔が私に近付いてくる。


「え、」






------




ナマエって言語苦手だよな?別に無理して覚えようとしなくていいから。え?頑張るって……。いいって別に。ただでさえお前に無理言って連れてきてるんだから、ナマエは家にいれば良い。
何でじゃあ連れて来たのって……、んー言ってもいいけど、泣くなよ?
ナマエがオトモダチ作ったのムカついたから。俺だけでいいだろ。女子苦手だろ〜から友達作れないだろうなーと思って女子校入れたけど、あれは失敗だったからな〜。
だから俺が海外行くタイミングで連れていけば、言語も喋れないとこだったら俺以外は喋る相手いねーだろ?
あ、そうだ。ここ家なんだけどさ、良くない?綺麗だろ?ここ好きに使っていいから家居ろよ。


そうやって飛行機の中で写真を見せたら、ナマエは泣きそうな顔になりながら、綺麗だねって言って無理やり笑っていた。
あ〜その顔も可愛いな〜。