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独白


生まれた時から一緒にいるこいつは何なんだろう。大きくなるにつれそう思って、母に聞いた。世話になっている臣下の娘で、同じ年に生まれたからぜひ仲良く、とその臣下の妻に言われたそうだ。レオナも同い年の子がいると気が楽でしょ、と母は笑いかけていた。宮廷生活が長い母らしい気遣いだったと思う。
俺としても、そいつはいつも俺の後ろをついてくるし、俺のことを否定しないその態度が気に入っており、よくナマエと遊んだ。

しかし、そいつの父親を良く思っていない別の臣下にある日言われた。

「レオナ様、ご友人は気を付けて選んだ方が良いですよ。」
「え?エレメンタリースクールの友達のこと?」
「そうではなく、あのナマエですよ。あの子はね、あなたと仲良くなってこの国を乗っ取るつもりなんですよ。あなたは第二王子ですから、あなた自身ではなくあなたの位を狙っているのです。これからそのような女はたくさん出てきますから、ちゃんとご友人は見極めてくださいね。」

俺はこの話を話半分に聞いた。そいつがナマエの父親を良く思っていないのは知っていたからだ。俺は幼い時からそういうことには少し敏感だったので、相手の悪意くらいは分かった。しかし、なんとなく気分は良くなかった。ナマエの俺に向けるあの顔も、態度も、全部家の地位のためだというのか。気になって、ナマエと母親が会話しているのを何度か盗み聞きした。ナマエの母親は聡明だったので、公の場でそのような話をすることはほとんどなかった。何度聞いても普通の会話である。やはりあの臣下の嘘だろうと思った。
しかし、ある日の夕食後。

「ナマエ、レオナ様とは仲良くなった?」
「うん、レオナくんやさしいからだいすき!」
「そう、そうやってどんどん仲良くなってね。そうしたらレオナ様はナマエを選んでくれるから。」
「えらぶ?」
「ええ、そうよ。」

ナマエは選ぶの意味があまり分かっていないようだったが、母親が何を言っているのかは俺にはよく分かった。そうか。やはりそうだったのか。幼い頃から一緒にいた少女は、どうやら母親に言われて俺と仲良くしているらしかった。俺の持っている地位のために。
まぁこんなことはよくある話だし何とも思わなかった。ナマエ自体は母の言うことをそのまま聞いているだけで何にも考えていなさそうだったし、例えそれが媚だろうが何だろうがどうだって良い。要は親の陰謀で俺たちは動かされているだけなのだから。

そう思いながら、何にも知らない顔してそのままナマエを側に置いた。
父に粗末な扱いをされ泣いた時も、兄に王位が譲られた時も、ユニーク魔法を初めて発動した時も、甥が誕生した時も──。14の時に、思わず取り乱した俺をあいつが受け入れ、どうしようもなくナマエを独占したいという気持ちが芽生えた。ミドルスクールの時にナマエに懸想を抱くやつを全て片っ端から排除するというガキっぽいこともした。あいつは一ミリも気付いていなかったが。
15の時はナマエに対して試すような行動もした。甥の誕生にイライラしていたのは事実だが、別に甥に対して嫉妬したわけじゃない。ただ単にあいつがどちらを取るのか気になった。あいつは俺のことを理解しているから、俺がナマエの写真をばら撒くなんて思っちゃいないだろう。俺がナマエを脅すならもっと撤退的に裏から手をまわして脅すだろうから。結果、あの時ナマエは俺を選んだ。そのことにひどく安堵したのを覚えている。ガキだったから、目に見える形で俺を選んで欲しかった。あの後俺に対し上下の一線を引き出したのはイライラしたが、俺の側にいたのでそこは気にしないことにした。こいつも王室で生きていくために必要な一線なのだろうと俺たちの陰口を叩く奴らを見ながら思った。

だから今度も俺を選ぶだろうと、そう思っていた。
ナマエが婚約するという話は最初は兄から聞いた。その日は最悪の気分だった。
聞くに親父がナマエの父親に勧めたらしい。病床についているというのに随分と親切なことである。
イライラしながら自室で頭を巡らせていると、部屋に入ってきたラギーがはあ、とため息を吐いた。

「物に当たらないでくださいよ、片付けるの誰だと思ってんスか~ったく……。」
「お前ならどうする。」
「え?」
「お前なら、どうしようもなく欲しいものが目の前から奪われそうになっていたらどうする。」

ラギーは怪訝そうな顔をしていた。
分かっている。ラギーの答えは。

「何だ、そんなことでイライラしてるんっスか?そんなん奪われる前にこっちが奪うに決まってるでしょ。」
「……ハッ、だよなぁ?」

先ほどまで不機嫌だった奴が突然上機嫌になり、より眉を顰めたラギーは、俺の顔を見るのをやめて掃除を始めた。
そうだ。またナマエを試せば良い。恐らくあいつは俺を選ぶはずだ。そうと決めれば早く実家に戻らなければならない。急に戻ったとなれば兄や従者が面倒だ。目立たないよう裏口から戻るとしよう。どうせだったらナマエが家を出る当日に戻ろう。急な選択を迫った方が良い。ギリギリを追い詰めて考える隙を与えさせないようにしよう。

俺はこの時点でナマエに対し異様な感情を持っていることなんて考えもしなかった。


────


砂埃が舞う中、ナマエの母親の叫び声が耳に入ってきた。
はぁはぁ、と荒い呼吸を繰り返す。俺は何を。ユニーク魔法を発動させたところは覚えているのだが、それをどうしたのであったか。ただ、いつもより多く魔法を発動しているのが分かる。体力の消耗が段違いだ。ブロットも溜まっているだろう。

ふ、と足元を見ると、ナマエが倒れていた。
左足がない。周りには砂がこぼれていた。
─ああ、そういうことか。ついにやったか。
俺はぼんやりとナマエを見つめた。その瞬間、昔の記憶が山のように降ってくる。

俺が発動した魔法を見て喜んでいたこと、
部屋に強引に泊まりにきたこと、
チェスをしたこと、
入学が決まった時に声をかけてきたこと、

急に湧いてきた記憶に、無意識のうちにボタボタ、と目から水滴がこぼれ落ちた。
ナマエがうっすらとした目でこちらを見ていた。何でお前が泣くんだよ、と思っているのだろう。

「ナマエ」

思わず声が出た。
すると、ナマエが震える腕で俺の背中に手を回した。そっと頭を片手で撫でている。いつだっただろうか。幼い頃に落ち込んだ時は何故かいつもナマエがこうやってきた。俺はこいつの母親の入れ知恵だろうなと思いながらそれを受け入れていた。こんな目に遭っているのにまだガキ扱いかよ。馬鹿じゃねーのか。

「ナマエ。ナマエ。」

そう思いながらも、俺も無我夢中でナマエの背中に手を回した。そういえば、あの取り乱した時もこうやってナマエの名を何度も呼んだなとぼんやりと思った。

「好きだ、ナマエ。どこにも行かないでくれ。」

ポツ、と呟いた声に、ナマエは涙を零した。今まで思っても見なかった言葉だったが、ようやく分かった気がする。
我ながら遅すぎると自嘲した。
今好きになったというより、振り返れば多分ずっとこいつのことが好きだったのだろう。
それが幼いうちに明確に自分の気持ちが恋だと自覚できていたのなら、何かが変わったのだろうか。
考えても答えは出ないだろう。もう、遅すぎるのだ。
やがて頭が朦朧としてきて、二人で床に倒れ込む。
従者の焦燥した声が聞こえる中、俺はナマエを腕の中に閉じ込めながら意識を手放した。