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お別れは簡潔に


「何だよ。突然呼び出して。ていうかお前昨日全く電話にもメッセージにも出ないってどういうことだ、あ?」

登場からいきなり凄んでくる彼氏っている?顔が物凄い怖い。しかもグルグル唸りながら登場したので、私のHPは既に0に近かった。開始早々弱すぎないか、って思いました?私もそう思います。いやでもレオナさんに睨まれて怯まない人なんてそういないと思う。
私はというと、朝にヴィルさんと話し合った末に決意した別れ話をするべく、お昼休みにレオナさんを呼び出した。ちなみに昨日の着信履歴は、お察しの通り無視している状態である。そのためメッセージを開けたら200件以上連絡が来ていた。涙がこぼれ落ちそうになったが、気にしなかったことにして昼休みお話ししたいことがありますと連絡すれば、秒で返信が来た。うえーん、怖いよぉ。しかし、いつまでも誤魔化していたも埒が明かないので、恐る恐る口を開いた。

「別れてください。」
「断る。」
「早い!」

しゅ、瞬殺だ……!まるで何を言うつもりだったのか分かっていたかのような速さだ。もしかしてレオナさん勘付いちゃってた……?いやまさかなぁ。レオナさんは、私を伺うようにジロジロ見ていたと思ったら、途端に私の手首を掴んできた。ヒィ、物理的に逃げられない。

「なまえ、今から何の授業だ。」
「?飛行術です。」
「よし。サボるぞ。」
「え?ちょ、レオナさん、どこへ連れて行くおつもりで?」
「植物園。」
「へ、へー。」
「今からしっかり聞かないとなぁ……。まだ昨日この俺からの連絡を無視した理由も聞いてねぇし、突然別れ話なんぞ言い出すし、おいたが過ぎるんじゃねぇの?じっくり躾けてやるよ。」
「……わ、私、バルガス先生の手伝いしなくちゃなので……。」
「別に良いだろ、そんなもん。」

レオナさんが楽しそうに私を引きずって歩く。私はというと少し抵抗して彼に引っ張られないように地面に足をしっかり固定しようと努めたけれど、全く暖簾に釘である。普段は怠惰でダラダラしているとは言え、毎年マジフトのNRC代表に選ばれてるような体力オバケには全く敵わず、ただただ地面に私が引きずられている道が出来ているだけだ。
しかし、彼の言動から察するに、私がこのまま植物園へ行くと、おそらく先程言った体力オバケという異名が本領を発揮してしまう。それだけは避けたいのだ。ツノ太郎とも一夜を共にして分かった事なのだが、レオナさんは恐ろしいほど長い。多分ツノ太郎も一般的な男性よりは長いししつこいのだが。この前寮に止まったときは、跡を付けないでくださいと泣いて頼み込んだらそれを受け入れてくれたと言ったが、その代わりもうちょっと付き合えよ、と言われて顔を青ざめたのを思い出す。
今、彼はどちらかというと怒っているし、私の言うことをあまり聞いてくれない可能性の方が高い。もうここは植物園に着く前に終わらせて、あの恐ろしく長い時間を回避したい。こうなったら嫌われる覚悟をしてでも、どこが嫌だったとか、別れの理由としては真っ当なことを言うしかない。自分が蒔いた種だ。自分で解決しなければ。



「……………そ、そういうのが、嫌………。」
「あ?」
「レ、レオナさんのそういう強引で人の話を聞かないところが、嫌、なんです……。別れてください。」

レオナさんはようやく立ち止まってくれた。無言の時間が怖い。でも流石にここまで言われれば、レオナさんだったら離してくれるだろう。レオナさんは私よりずっと賢い人だし、一週間付き合ったくらいで音を上げる弱い女を側に置くなんて、そんな非効率的なことはしないはずだ。元来面倒くさがりだし、何度も別れ話をする人なんて私だったら面倒だし。だからきっと受け入れてくれるよね……。何で無言なのレオナさん。さっさと私をボロ雑巾のように捨ててくれ……。二股をかけているという罪悪感もあるから、手酷い言い方をされても受け入れるつもりだ。しかし、レオナさんから出たのは驚きの言葉であった。

「ふーん。嫌われても別れるつもりねぇよ俺は。」

Why?何で?何故?驚きで顔を上げた私の前には、腕を組んで踏ん反り返っているレオナさんがいた。うーん、高貴な佇まい。いや、そうでなく。レオナさん別れ話を持ちかけられている側ですよね……?どうしてそんなに余裕そうなのか。こちらは先日から余裕なんてちっともないんだけどな。レオナさんと会うたびにツノ太郎の顔が浮かぶのは本当にしんどかった。逆も然り。私が悪いのだけれど。

「め、メンタルがお強いのですね……。」
「嫌われ者の第二王子だ、慣れてるんだよ、そんなもん。もう失うもんもねぇ。」

途端にレオナさんの目が暗くなった気がした。そうか。レオナさんは以前から他人に嫌われることは慣れていると言っていた。努力しても自分は王位に就けない、自分が何をしたって誰も見ちゃいない、とどこか自分を諦めている様だった。最近はマジフトの朝練を始めたり、オクタヴィネルの時は助けてくれたり、徐々に変わってきている様だったのだけど。今、私は、彼に私という存在をまた諦めさせようとしている……。なんだかこんなこと言っちゃったらすごく自意識過剰みたいじゃない?でも事実だ。う、ダメダメ、ここで折れてしまっては意味がないのだ。それに、レオナさんの周りは何も私一人だけじゃない。ラギーさんやジャック、ちょっと変わっている彼の同級生や、彼を慕う寮生、そしてレオナさんを待つ家族だっているのだ。それはきちんと分かって欲しい。

「…………そ、そんなこと言っちゃ駄目ですよ。レオナさんの周りには何でもありますし、あなたを慕ってる人もいっぱいいますよ。」
「一生王になれない俺を、周りは同情してるだけだろ。」
「………………。」

駄目だ。これ以上言っては。だって本人の苦しみなんて本人にしか分からない。ましては王族としての悩みである。私が説教じみたことを言ったって響かないだろうし、きっと私の無知さにレオナさんが余計傷つくだけだ。そう思って口を噤んだ。

「……なまえが傍にいてくれんなら、ってちょっとは思ったんだよ。だから別れたくねぇ。」

レオナさんがとどめの一言を刺す。もうここで勝負は決まった。勝利のゴングが鳴り響く。レオナさん側に。勝者:レオナ・キングスカラー!頭の中のラギーさんが楽しそうにそう叫んでいた。私はというと、彼にそういうことを言われてしまったという新たな罪悪感が生まれていた。完全なる敗者、レオナさんの立場から言うと立派な被食者である。じっと私を見つめるレオナさん。心なしか耳が垂れている気がする。ええ、そんなことしちゃう?急に動物っぽくなるの卑怯じゃない?うう、顔が良い。レオナさんの瞳って綺麗なエメラルド色なんだよな。正直ずっと見られる。そう思っていたら、縋るようになまえ、と呼ばれてしまった。今朝のヴィルさんの顔がどんどん薄れていってしまう。ヴィル先生、ごめんなさい。

「……分かりました。」

なまえはワカメです。

「ん。おいで。」

レオナさんがポーカーフェイスで腕を広げた。私は流れ上彼の胸に飛び込んだ。もうこれは仕方がない。今日の放課後はツノ太郎と話を着けなければならないけれど、今はもうどうとでもなれ。次は絶対別れ話を完遂してみせる。
そう思っていた私は、レオナさんが(チョッロ〜〜〜)と思っていたことなんて知るはずもなかった。


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「おい、なんでヴィルと連絡してんだよ。」

植物園に着いてレオナさんが三角座りしたと思えば、間に座るように顎で指示されたので大人しく従った。ああ、飛行術……。次出た時には筋トレ10倍かな……。レオナさんはと言うと、私を間に座らせたまま、腕を私の肩に乗せて携帯を弄っていた。え?それ私の携帯じゃない?ってメッセージ一覧!

「何してるんですか?!」
「いや昨日何してたのかって質問答えてねぇから。」
「き、昨日は早く寝たって言ったじゃないですか!」
「ふーん、でもヴィルにはこんな朝早く連絡してんじゃねーかよ。俺のメッセージ無視して。」
「いや、これは、モーニングしよって言ってただけで……」
「もうじゃあ用済みか?」
「?いやまぁそうですけど」
「じゃあ連絡先消せ。消さねぇって言うなら俺はお前と付き合ってることを公言する。」

王子様ムーブ怖い。