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この世の地獄


不定期にふらりとオンボロ寮の前に現れるツノ太郎と夜中の散歩をしていた時のことである。いつも通り、夜空を眺めながら、あの星は何?あれはどういう意味があるの?と質問しまくり、ツノ太郎が長ったらしくペラペラと語っていたかた思えば、突然止まったのでなんだなんだと思った瞬間であった。


「好きだ」
「……え?」

時が止まった。ぱーどぅん?何だって?好きだって、さっきまで話してた星の話?ごめん、ほんと、あまりにも長々と喋ってたから半分は聞き流していた。右から左にうけなが……げふんげふん。そんなに星が好きなの、ツノ太郎……。私の顔を大真面目にじっと見ているけれど、それだったら好きな星をじっと見たほうが良いんではないか?あ、流れ星。

「ん?言い方が悪かったか?
言葉を変えよう。僕はお前のことを好ましく思っている。愛しているんだ。」
「あ、愛?!」

ツノ太郎は私がずっと無言でうんうん頷いていたのを不審に思ったらしい、さらに追い討ちをかけてきた。あ、やっぱり星のことではなかったんですね。ごめんなさい。誤魔化そうとしました。ぶっちゃけ私もそこまで少女漫画のヒロインばりの鈍さではないので、好きだって言われた瞬間に分かっていたさ。ツノ太郎はイケメンだ。そんじょそこらの男の何倍、いや何百倍も色男である。私の世界の人と比べても圧勝である。私の幼馴染みのかっちゃんなんか屁だ。……かっちゃんごめんよ、突然比べて。元気かい。いや、そうじゃなくて。だからといって、私はツノ太郎とお付き合いできるのか?というと答えはNOだった。そもそも私は異世界の人間であって、いつかは元の世界に戻る身なのだ。この世界に恋人等、未練を残すものを作るのは自分にも相手にも、良くない。まぁ、それは建前として、友人としては博識だし面白いけど恋人としては駄目なタイプの人っているじゃん?その波動を感じる。失礼を承知だけど。しかし、マレウス・ドラコニアという人物は、皆に敬われ称えられる妖精属の王だ。今私はツノ太郎っていうふざけたあだ名で呼んでいるけれど、強大な魔力だって持っている本当にすごい人……人?なので、たぶんきっと、ストレートに言って振るのは絶対に違う。相手を立てるべきだ。ここは、何とか話題を逸らし、鈍感少女漫画ヒロインを演じるのだ。相手に振られた、と思われないような展開に持っていこう。

「え、ええと……。わ、私もツノ太郎のこと好きだな!と、友達だし!ははは。」

必殺!「友達として好きなんだよね?嬉しいなー私も友達として好き!」攻撃!どうだ。私が読んだ少女漫画で、鈍感ヒロインが当て馬キャラに告白された時によく発動していた攻撃である。こう言われてしまえば、相手も友達としての関係が崩れてしまうのを恐れ、うかつに手を出してこなくなるのである。我ながら本当に良い作戦だ……。さぁ、どう出る。ツノ太郎をチラリと見ると、バチリと目が合った。一瞬彼の目がドロリと濁った気がする。うぇ、な、なんか目に光がないと怖いなと、私がボーッとしてたのがいけなかったのだろうか、ツノ太郎がおもむろに私の腕を掴んだ。え、ちょ、なんか痛いんだが?!

「……僕はそういう意味で言っているのではない。お前も分かっているんだろう。」
「ひぃ!ツノ太郎、腕!腕なんかミシミシ言ってるよ!は、離して?ね?いい子だから!」
「離して欲しいか?」
「痛っ!離してください、お願いします!」
「では僕の恋人になってくれ。」


え、怖い。ツノ太郎の目が妙にギラギラしているし、腕はギチギチ鳴っているのに一向に離してくれないしで、私は半泣きだった。私の少女漫画ヒロイン作戦は失敗だったようで、むしろ小賢しい真似をしたことに怒らせたしまったようである。……そういえば、わざとかわしすぎて壁ドンされて返り討ちにされていた漫画もあったなぁ〜。まだまだ勉強不足のようだ。私が一人で悶々と己の短絡さの反省をして黙り込んでいたら、ツノ太郎は聞いているのか、僕の恋人になれ、と再び言ってきた。片手は私の腕を掴み、片手は私の顎をすくっていた。ツノ太郎は本当に顔面が国宝級に綺麗だけれども、おおよそ馬鹿力なので、腕が悲鳴をあげていた。

「そ、それは〜……。」
「駄目なのか?」
「そんな犬みたいな目で見られても、私はそんな……、」

やめてくれ。そんな顔をしないでくれ。私はイケメンのションボリ顔に弱い。……ションボリしているのに全く手を離してくれないのは何故なの?
ツノ太郎の右手を私の右手で剥がそうとしたけれど、びくともしない。ば、馬鹿力だ……。彼の手は恐ろしい程に白く女性のようだけれど、腕力は全く可愛くない。すると、必死に剥がそうとしていた私の右手が、私の腕を掴んでいる彼の手とは反対側のそれによって掴まれた。彼はニコリ、と人の良い笑顔を見せた。あ、これあかんやつ。

「本当にいいのか?僕はこのままお前のこの腕を吹き飛ばすことができるんだぞ。」
「ぜひお付き合いしてください。」

私は地面に頭を擦り付ける勢いでそう言った。実際は掴まれてるからできないけれど。この腕力と彼の魔力ならやりかねない、そう思ったからついうっかりそう言ってしまった。汗をダラダラと流す私に対して、楽しそうに微笑むツノ太郎は、パッと掴んでいた手を離したかと思えば、ゆっくりと私の体を包み込んだ。

「嬉しい。必ず幸せにしてみせる。」
(変わり身早い……怖すぎる……)