×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
登校する


「おはようなまえちゃん。」

朝になってリビングへ出て行けば、何故かみかがニコニコして私に挨拶をしてきた。おはよう、と返すも、朝なので頭が上手く働いてないようだと一旦顔を洗いに行ったが、戻ってもそこにはみかがいた。彼の手にはマグカップがある。それお父さんのやつ。

「何故ここに。」
「なまえちゃん迎えに来たらなまえちゃんママが入れてくれてん。」
「なまえ、あんた何ぼやっとしてんの、みかくん迎えに来る時間じゃないのよ。朝ご飯用意してるからお母さんもう行くわよ。」

お母さんがカリカリしながら自分の食器を片付けている。お母さんが働きに出る時間ということは今大体7時半を過ぎた辺りという所か。でもみかと毎朝待ち合わせしてる時間が8時の10分前だ。私の家の前にみかが来るのが50分なのである。……ん?

「え?! 8時?! 」
「今日朝の読書タイム間に合わんのちゃうん? 残念やなぁなまえちゃん。ていうかこの紅茶美味しいなぁ。」
「そんなこと言ってる場合じゃない! ちょ、ダッシュで準備しなきゃ。みか、もう先行って良いよ。」

朝の読書タイムに間に合わないと生徒指導の先生に怒られてしまうのだ!
ただでさえ遅刻が普段から多いため、怒られ慣れてはいるけれど、ただ今イエローカードが二枚溜まっている、後一枚貯めれば、つまり後一回遅刻すれば反省文を書かねばならないのだ。それだけは避けたい。制服に早着替えしてパンを食べながら髪を梳かす。何故今日に限ってクセ毛だらけなんだ、嫌になる。そうこうしているうちに準備が整い、鞄を持ってリビングまで戻った。

「何故まだいる。」
「だってなまえちゃんと通うの日課みたいなもんやし。」
「いいのに、っていうか私今からダッシュするから付いて行くんだったらしんどいよ。」
「ええよ、別に。しんどいこととかには慣れてるし。」

うーん、でもみかがいることを気にするとちょっと走りが遅くなるんだよなぁ、と微妙な顔をしているのがバレてしまったのだろうか、みかが徐ろに焦った顔をした。しまった、変なスイッチを押してしまったのかもしれない。

「……俺と行くのそんな嫌? 」
「へ?! い、嫌じゃないよ! っていうか時間やばいから歩きながらでも、」
「俺はなまえちゃんと朝おることだけで幸せやねん、こうやってなまえちゃんの家まで迎えに行くことが俺の役目やと思ってんねん。」
「んん?! う、うん、感謝してるよ! 今日もみかがいたことで時間のやばさに気付いたからね! というか、それ歩きながらでも、」
「やから俺と学校行くのそんな嫌な顔せんとって〜!!! 何でもするから!!! 」

そう言ってみかは私に抱きついておいおい泣いた。何でそんな急に敏感になってるんだ、過去に一緒に行けない瞬間なんて何回もあったというのに。時計の針は無情にも進んでいる。ああ、私は今日反省文を書く羽目になるのだなぁ。


-----


昼休みになった瞬間に、先生に呼び出されて一枚の原稿用紙が渡された。何の紙かは言わなくても分かるだろう。先生はそれはそれは鬼のような顔をしていた。いや、私は悪くない! 何故か今朝繊細すぎたみかのせいなんです! とも言えずちょっとした先生のお説教を耐え忍んだ。

「なまえちゃん、なまえちゃん。」

クラスに戻れば友人が私を手招きする。お弁当袋を提げて彼女の元へ向かうと、彼女は何故かニヤニヤしていた。
すごく嫌な予感がする。

「ねぇ、聞いたんだけどさ。」
「何、遅刻して、イエローカードが3枚溜まってしまったことだったら笑い話にならないからね。」
「違うよ、その遅刻の原因だよ! 」
「へっ?!! 」

友人が目をキラキラ輝かせている。この目は間違いなく恋話をしようとしている時の顔だ。私だって他人の恋話を聞くときはこういう目をしている。しかし、自分自身のこととなると話は別であるし、ましてや相手がアイドルとなるとややこしいことになるのである。友人、クラスメイトにはアイドル科の影片みかと知り合いであることは誰一人にも話していない。別に言う必要もないという判断のもとだった。だいたいこういうことを言うとややこしくなるのだ。隠していたことがバレてもややこしくなるんだけど。というか毎朝一緒に登校してる時点でどうかと思うのだが。

「何、ただ、単に家出るの遅く、なっただけだ、よ、」
「まーたまたー。三組の小林さんが見たって言ってたよ! 超絶黒髪美少年とデートしてたって! 」
「ちょ、ちょうぜつくろかみびしょうねん? 」

おそらくそれはみかのことであるが、一緒に登校していた所をデートだと思われたらしい。何とまぁお気楽な視点である。なぜなら今朝の登校は、みかをなだめるのに全神経を注いだものであったからである。何をそんなにセンチメンタルになってるのかは知らないが、彼がメソメソ泣いているのを何とかフォローしようと必死になっていたのである。私だって泣きたいよ。遅刻の反省文書かされんだぞ。あれがデートに見えたならそれはそれはお気楽である。

「ねぇ、付き合ってるの? 」
「付き合ってないよ。」
「もう、照れちゃって! あんなイケメンと付き合ってるなんて何で教えてくれなかったのさ〜。」
「いや、違うって。」

私が何度も否定すると、友人は何だかつまらなそうに頬を膨らました。人の恋路がそんなに楽しいのか。私がみかと付き合うなんてありえない。まずみかは斎宮先輩が好きなのだ。

ーーなまえちゃんって影片くんと仲良いよね。
ーー本当に! ずるいよね。

……嫌なことを思い出した。やっぱりみかと近すぎると周りに誤解されかねない。何とかしないとなぁ。ようやく開いたお弁当の中から、卵焼きを口に頬張る。友人は何か言いたげにこちらを見ていた。