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「みかちゃん、みかちゃんてば。」

机に突っ伏してたら、ゆさゆさとなるちゃんが揺さぶってきた。でも起き上がるわけにはいかん。俺は今怒ってんねんから。

「んもう、そうやってすぐうじうじするからなまえちゃんに友達としてしか意識されないのよ! 」
「んああ! ひどい、なるちゃん! 今それ言わんでええやん! 傷つくやん!! 」
「あら、起きたわね。ずっと無視するなんてひどいじゃないの、そっちの方が傷つくわよ。」

その言葉にうっと言葉を詰まらせれば、なるちゃんははぁ、とため息を吐いた。俺が拗ねたのが悪いとはいえ、そんないじわるせんでええやん。なるちゃんは時計を指差して、移動教室よ、と伝えた。そういえば次は音楽室やったっけ。

「ほら、リコーダーいるわよ、教科書も持った? 」
「う〜。持った、持ったけど、」
「早くしないと遅刻するわよ! 」

そう言って軽やかに去っていくなるちゃんの後ろ姿は、ものすごく美しかった。ていうか、走るの早。置いていかれしもうた。時計を確認しても、音楽の授業まで後5分くらいある。そんなに急がんでもええのに、何でそんな急いでてんやろ、なるちゃん。そう思っていると、急に携帯が震えた。

「あ、なまえちゃん……! 」
『みか? 今休み時間だよね? 』
「う、うん、そう。」
『今日暇? お母さんとお父さん夜遅くなるらしくて、どっかでご飯食べようかな、って思って。』
「え、そうなん? また遅なるんか……。ん〜行きたいけどなぁ。」

頭の中にパッとお師さんの顔が出てくる。レッスンの後出かける、なんて言ったら何やかんや叱られそうや。帰るのが遅くなったら寝てたのにバタバタうるさいのだよ!と怒られたことがあるからなぁ。あの時はお師さんが深く眠り込んでたこともあってめちゃくちゃ怖かった。

『やっぱ厳しいか、じゃあ良いよ。ごめんね、ありがとう。』
「え、なまえちゃん、」
「こんなところで何をしてるのだよ、影片。」
「あ、お師さん。」
『え、斎宮先輩? 』

向こうからお師さんが声をかけてきて、思わず声を上げると、なまえちゃんが電話越しで不思議そうな声を上げた。お師さんは、恐らく三年生の教室に戻る途中だったのだろう、後ろからお師さんのクラスの人たちも歩いてくるのが見えた。

「こんなところでモタモタしていると次の授業に遅刻するのだよ、全く、いつまでたってもノロマな奴め。」
「あ、なまえちゃんから電話掛かってきて、今日夜ご飯一緒に食べれへんかって。」
「みょうじ? 親御さんが作ってくれるんだから大人しく帰ったら良いだろう? 」
「それが、今日は遅くなるから家一人やねんて。だから俺誘ってくれてん。」
「ふん、そんなもの一人で食べれば良いだろう。高校生にもなって寂しいなんて言うわけじゃあるまい。」

相変わらずお師さんは厳しい。これは、流石に無理やなぁとガクリと肩を落とした。なまえちゃんとご飯食べたかったけど、こればっかりはしゃーない。そう思っていると、お師さんがおもむろに俺から携帯を取った。って、え。

「おい。」
「え? お師さん? 」
「今日はいつもより材料を多く買いすぎてしまったのだよ。処理したいから家まで来ると良い。」
「ん? え? 」
「何だ、別にお礼を言われる筋合いなんてないのだよ。ただ材料の処理をしたいだけなのだからな。お前の為じゃない。レッスンが終わるのが19時頃だからその後くらいに来い。」

そう言ってお師さんは無情にも通話を切った。最後らへんに、なまえちゃんの戸惑ってる声が聞こえてきた。っていうかお師さん、まず昨日材料二人分しか買ってへんやん。何やの多く買いすぎたって、むしろ一人前足りひんやん。

「お、お師さん。」
「今日のレッスンは19時までにして先に家に帰っててくれ。」
「……買いもん行くん? 」
「何の話だ。ちょっとやることがあるだけなのだよ。」

そう言ってお師さんは、俺を通り過ぎて教室まで戻って行ってしまった。う、後ろ姿がかっこよすぎる。いつもやったらそんなお師さんを、単純に尊敬できるねんけど。でも、そんなかっこよかったら、なまえちゃんが。廊下で立ちすくしていると、キーンコーンと、虚しくチャイムが鳴った。

「あ、授業やん。」