閲覧注意。
 酷く後ろ向きな跡部くんです。





 生まれてこの方一度も負けた事が無い――そんな人間存在しないと知っているのだけれど。此処最近、跡部は、敗北を目にする度に、厭な焦燥感に駆られるようになった。
 只、跡部は専ら当事者ではなく、負けを直接味わうのはあくまで、テレビ・新聞の中の人――プロのテニスプレイヤーになった手塚国光、だ。
 仕方ない、仕方ないとは思いながらも――手塚が敗者になる度に、跡部はどうしようもない恐怖に襲われている。プロの世界は当然甘くない、幾ら手塚が強くとも、その時の体調、モチベーション、様々な要素が加われば、負けることも屡ある。それは、或る意味公平に誰だってそうなのだ。
 だから、仕方ない、仕方ないのだと分かっているが――矢張り、跡部はすすんで想起してしまう。手塚国光が負ける度に、仮に彼がきちんと手塚ゾーンも零式ドロップも使えたとしても――本当は、まだあの左腕は完治していなくて、それが原因で、こうなったのではないか、と。
 彼の腕が本当に大丈夫なのか、なんて、医者ですら分からないだろう。手塚が当時の壮絶たる痛みを思い返して無意識に力が弱まったなら、そしてその隙を突かれてポイントを取られたのなら。それはきっと、何時まで経っても跡部のせいなのだ。と、跡部は少なくとも、そう思っている。
 事実、あの一度の試合が、跡部を手塚に縛り付けた。唯一無二の衝撃が、手塚に一生興味を持つよう、洗脳した。たった、齢十四の若輩者の時から、十数年先に至るまで、ずっと――。

 だったら、こう思ってしまうのもまた仕方ない、仕方ないといえるだろう。
 そう、お前が、憐れな姿を全世界へ配信され、惨めな気持ちでテニスを止めることになるくらいなら――俺が殺してやる。殺す、まではいかなくとも、俺のせいでテニスを止めさせてやる、止めざるを得ない状態にまた、俺こそが追い込んでやる。お前は傍から見れば最高の選手のまま、突如、その身に起きた不幸でもって、惜しまれながら世界を去るんだ。
 いつもいつもいつも!頼られたが最後、その通り何でもかんでも背負い込んで、何か起きたら「俺が至らなかったからだ」と言いのけてしまえるお前が、初めて、百パーセント他者のせいにしてしまえるんだ。抗い様の無い力でもって仕方なく、仕方なく諦めさせられてしまうんだ。
 ――素敵だろう?

 お前と別の道を歩むことになってから、今まで築き上げてきたものを捨てる覚悟なんて、端から出来ている。お前の為ならきっと、たとえ愛するお前にすら憎まれることになっても、この世の全てに対して無責任になれる。

 だから、救われたくなったら――何時でも呼んでくれ、手塚。




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 淑やかなる殺意
 (お題配布元:ギルティ)

 補足はmemoにて
 

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