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月神香耶side



史実では土佐、讃岐、阿波、伊予の四カ国に領主が割拠していた四国。それをたった一代で席巻したのが長宗我部元親だった。

元親は初陣前まで“姫若子”、すなわち女のような若者と陰で呼ばれていたが、永禄三年五月の初陣で一軍の将として勝利に貢献。これがのちに“土佐の出来人”と賞賛される、四国統一への第一歩であった。
初陣の翌月に亡くなった父の後を継ぎ、十五年で土佐を統一。その後十年で四国の大部分を平定している。しかし天正十三年、豊臣秀吉の四国征伐の前に降伏し、土佐一国の領有を許された。内政面では領内の検地を進め長宗我部検地帳を作り、長宗我部元親百箇条などの法令を制定した。
そして長宗我部元親が四国統一するにあたって、補給部隊として活躍したのが長宗我部水軍なのである。



ただこのBASARAの世界、長曾我部軍は軍勢というよりなぜか海賊団の印象が強かった。



「よう、ずいぶん急ぎみてえじゃねえか。毛利さんよ」

「海賊風情がわずわらしい。我の前から失せよ」

「かてえこと言うなって。運んでるんだろ、お宝をよ」

長曾我部軍の船は帆にあしらわれた大きな七つ酢漿草(かたばみ)の家紋が印象的だ。
砲台の砲筒が私たちを射程距離に捉える中、毛利さんと長曾我部元親と思われる人物が船首で向かい合うのを物陰から覗き見る、私と千景君と慶次君。

「あれがこの世界の長曾我部元親か……強そう」

「けど向こうは男ばかりで華がないねぇ」

「ふん。海賊風情と呼ばれるだけあって、ならず者の集まりのようだな」

長曾我部さんに視線をやれば、羽織る紫の衣から惜しげもなく鍛え上げられた肉体が晒され眼にまぶしい。手にした得物は炎の婆娑羅を纏う碇の形の一本槍。兵士達からアニキと慕われ士気を鼓吹する姿からは、織田さんや豊臣さんたちとはまったくタイプの違う統治者であることがうかがえる。

うん。すごく強そうだ。凄絶にな!

対峙するおふたりを尻目に、かつて私がいた戦国無双の世界とそこで出会ったヴィジュアル系な元親公のことを千景君と慶次君に軽く語って聞かせてあげた。
そうしてるうちに、小田原へと先を急ぎたい毛利さんと、毛利さんが持ってるお宝が欲しい長曾我部さんのふたりは一触即発の雰囲気になっていた。



「やろう共、身の程知らずの田舎者に、海賊の流儀を教えてやんな!」

「行け、兵士達よ。我が策の糧となれ」

そして海上戦が始まってしまう。

どうも毛利さんは口調で損してるというか……。あの面倒見がよさそうで単純そうな長曾我部さんには、部下をないがしろにする毛利さんの言い方が気に入らないらしい。



「どうする、香耶」

「んん、毛利さんが危なくなったら助けるよ。この船がないと小田原に帰れないし」

それに毛利さんから黒い手の正体をまだ聞いてない。



たまに目ざとく襲ってくる長曾我部兵を当て身で昏倒させ確実に数を減らしていくわたし達。
そのおかげか戦況は毛利軍がやや優勢だが、国主ふたりの実力はほぼ拮抗していて時々ひやりとした。

攻撃範囲が広く打撃力に優れた長曾我部さんの技は豪快でトリッキーだ。トリッキーさでは毛利さんも同じだが。
ふたりとも得物からして自己主張が強いからね。

長曾我部さんが碇槍を叩きつけ横になぎ払うと、毛利さんは後退して端に追い込まれる。が、すかさず光の婆娑羅で壁を生み出し長曾我部さんの動きが止まったところを反撃に転じた。
千景君の話ではあの弾き手「壁」という固有技、ミサイルさえも弾き返す盾のようなものらしい。光輪で敵を捉えそこに壁を放てば己の技さえ弾いて消失を防いだ。

それをしのいだ長曾我部さんはどこからともなく出てくる網で毛利さんをつり上げ動きを止め、怒涛のコンボを叩き込んだ。
毛利さんの固有技は隙が大きく狙われやすい。しかし彼が吹き飛ばされる直前。



ふたりの間にちりりと火花が散った。

その火花が、黒い、夜の炎の火花だと毛利さんは気付いただろうか。



「な……っ」

「参の星よ、我が紋よ!」

驚いて間合いを取る長曾我部さんに、毛利さんはバサラ技で追撃を仕掛けた。



「日輪に捧げ奉らん」

自分で言うのもなんだけど、これ以上ないくらいの絶妙なタイミングで援護を受けた毛利さんは、避けようのない日輪の照射を伴うバサラ技で長曾我部さんを……遠巻きに観戦していた敵味方の雑兵までをも蹴散らした。

うわぁ、バサラ技って……ヤバイ。
バサラ技をちゃんと見たのは初めてだった私は、その威力に若干引く。あれはガードできないわ。
無双奥義もエグいけどさ。武器によるし。



ともかく長曾我部さんをメッタメタにして勝利した毛利さんは、物陰から様子をうかがうわたし達にちらと視線をやり、やはりあくどい笑みを浮かべた。

「全ては我が策のうちよ」

……気付いたにもかかわらずこの言い草か。いい性格してるわ。

そして毛利軍からかちどきの声が上がったのだった。

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