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冬も終わりに近い2月中旬の屋上。
私はいつも通りにそこで空を見ていた。
風はまだ冷たいが、温か過ぎる日差しとの相性はとても良い。

「何か用?」
「用が無ければ来ては駄目ですか?」
「いい加減ウザいよ、あんた」
「それは失礼」

こうして笑って私の隣に座る。座るだけだ。こいつはそれ以外には何もしない。暇なのだろうか。多分違う。確かうろ覚えだったけどこいつは生徒会会長だった様な違ったような。よし当たってたらジュース買おう。

「ねえ」
「はい?」
「あんたって生徒会会長だったっけ?」
「そうですが、何か?」
「よっしゃ当たった。ジュースゲットだ」
「突然何言ってるんですかあなたは」

怪訝な目で私を見る。いきなりだったから当たり前ではある。

「賭けてた。あんたが生徒会会長かどうかで。当たってたからジュースゲット」
ますます怪訝な目をされた。解せぬ。

「誰と賭けてたんですか」
「ああ、そゆこと。誰とでもないよ。ただの思い付き。よくやるんだよね、一人ギャンブル」
「何ですかそれは」

今日は妙に食いつくなと思った。いつもは私もこいつも黙って座ったり寝転んだりするだけだからか。いつもがおかしいのだろうか?

「自分でお題をだして、勝ったら何か欲しい物を買う。負けたら何も無し。今のお題はあんたが生徒会長かどうか。それで私は当てた。だからジュース買ってくる」

言っても怪訝な顔を止めない。それどころか顎に手をあててまで考え始めた。

「おーい大丈夫ー?」

顔の前で手を振ってみる。そうしたらハッとしてこっちを見た。

「すみません、考え込んでました。メリットがわかりなかったので」
「メリットぉ?」

考えたこともなかったかもしれない。気がついたらいつの間にかやっていたから。

「うーん、強いて言えばだけど……負けても特に何もない、当たったら気分が良い、あと金が減る……かな。私結構お金持ってるんだ」

全国の金欠高校生に言ったら総スカン食らいそうな台詞だと自分でも思う。

「もっとわからなくなりましたね。使わなければならない理由でも?貯金はしないのですか?」
「貯金も良いけどね。……使わないと、怪しまれるんだよ」

ザア、と風が吹いた。頭の後ろでひとつに纏めていた髪が流される。
瞬間、奴の雰囲気が変わったのがわかった。獲物を見据えるような目。私はこいつのこういうところ嫌だったのだと今気付いた。

「怪しまれる、とは」

そらきた。私なんぞに興味を持ったところで何も無いというのに。

「親だよ。私一人暮らしでちょっと前に仕送りを溜め込んで倒れたことあるの。それでちゃんと使わないと怪しまれるんだよ」

ああ失敗した。
そう思った。
自分でも下手くそな嘘だとわかっている。でも息を吐くように嘘が口をついたのは流石だと内心皮肉に思った。
よりによって親に怪しまれる、なんて嘘をつくなんて。

「そうですか」

納得したような風を装ってはいるが、疑いの目は変えない。私は先輩なんだからもう少しオブラートに包んでくれないだろうか。兄の友人(仮)だぞ。いやこいつは分かっててやってる。性格悪いなと思った。

「じゃあ私ジュース買ってくるよ。君も何かいるかい?」

面倒くさくなったから逃げようとして立ち上がる。年上の好だ。奢ってやろう。

「ではお茶を」
「わあ予想通り」

自販機は屋上には無い。元々生徒立入禁止だから当たり前だが。アレ何か此処に生徒会長いるんだけどヤバくね?

「そういえばあんたもう此処に来るの止めた方が良いんじゃない?生徒会長でしょ」

すると彼はまるで気にしないとでも言うように笑った。

「気遣いは有り難いですが大丈夫ですよ。万が一教師に何か言われたら全て貴女になすり付けますから」
「貴様……っ!」

その言葉に引き攣り笑いしか出なかったのは仕方ないと思う。もう良いジュースだけ買って来ようと思って走り出した私の足をまた奴の声が止めた。

「あああと、私の名前は宗像礼司です。あんたや貴様ではありませんので」

私が人の名前を呼ぶことはあまり無い。
こいつの兄貴は例外として、それ以外の人間と関わることが殆ど無いからだ。
私があんた呼びだったのはこいつの下の名前知らなかったからだが。

「なら礼司ね、わかった。名字はお兄さんと被るからね。呼び捨てくらい良いだろ?私先輩だし」

どこか不満げな顔をする礼司だったが気にしない。

「日本の年功序列にはやはり疑問を感じます」
「それ日本人が皆通る道だから。じゃ、行って来ます!」

私が普通の学校生活を送っていたのは小学校までだから自信は無いが、その頃でも年上は敬うものという暗黙の了解は有った気がする。
笑って屋上を後にした。久しぶりに気分が良い。やっぱりお茶も買ってやって良いかなと思った。